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ぴあ 総合TOP > 『やまとなでしこ』主題歌で描かれた恋の衝動とたしかな愛 MISIA「Everything」不朽のラブソングとしての魅力

『やまとなでしこ』主題歌で描かれた恋の衝動とたしかな愛 MISIA「Everything」不朽のラブソングとしての魅力

音楽

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リアルサウンド

 『やまとなでしこ 20周年特別編』(フジテレビ系)が、7月6日、13日の2週にわたり放送される。

 「お姫さまは、王子さまと出会い、永遠に幸せに暮らしました」。そんなエピローグがぴったりの、20世紀最後の運命の恋物語だ。

 ロマンティックな世界へと我々を誘うのは、MISIAが歌う主題歌「Everything」。

 不朽の名作に彩りを沿えた楽曲「Everything」の魅力について、本稿で語りつくしたいと思う。

(関連:米津玄師「感電」とドラマ『MIU404』に通じるバランスとセンス 主題歌として流れるタイミングにも注目

■ロマンスコメディとしても見応えある『やまとなでしこ』

 『やまとなでしこ』は、2000年10月から12月の「月9枠」で放送され、最高視聴率34.2%を記録した大ヒット作。

 主演は、当時27歳の松嶋菜々子。「自分を幸せにしてくれるものはお金だけ」と、玉の輿を狙い、日々合コンに繰り出す客室乗務員・神野桜子を演じた。

 眩いほどの美貌と抜群のスタイルを持つ松嶋にとって、桜子はこれ以上ないハマり役。男性の前で見せる、品のある仕草と笑顔はひときわ美しく、彼女が放つ“決め台詞”にときめかない者はいないだろう。

 さらに本作では、回を追うごとに不思議なほど、彼女の美しさが増してゆく。「神野桜子」という女性の本質が見えてくるとともに、彼女のつよがりや純粋さが、たまらなく可愛く、愛おしく思えるのだ。

 相手役をつとめた堤真一は、冴えなくも心優しき男・中原欧介を好演。不器用だが、ふと見せる男らしさや実直さが、女性視聴者の心を掴んだ。

 ふたりは、欧介の友人である医師・佐久間為久(西村雅彦)がセッティングした合コンで出会う。欧介は桜子に、そして桜子は、欧介が身に着けていた“あるもの”に、互いに一目惚れしてしまう。

 欧介をお金持ちの外科医であると思い込んだ桜子と、思わず自身を偽ってしまった欧介。ふたりの恋が始まるが、嘘は長くは続かない。

 「貧乏が何より嫌い」で、お金しか愛せない桜子と、桜子が望むものを何一つ持たない欧介。交わるはずのない運命は、果たしてどのような結末を迎えるのか。

 最終話のラストは、まさに歴史に残るベストシーンと言っても過言ではない。

 松嶋のテンポの良いセリフ回しや、堤とのかけ合い、さらには東幹久、筧利夫といった個性あふれる助演陣の活躍により、ロマンスコメディとしても見応えのある作品だ。

■「Everything」楽曲の魅力とドラマとのリンク

 『やまとなでしこ』という作品を思い出すたび、あのあたたかな歌声も、頭をよぎる。MISIAの「Everything」だ。20世紀中にミリオンセラーを達成した最後の曲であり、リリースから約20年の月日が経った今なお歌い継がれる名曲。

 おとぎ話の始まりを告げるようなイントロは、まるで映画音楽のようにロマンティック。一気に楽曲の世界へと、我々を連れていく。

 ストリングスが印象的な、美しくシンプルなメロディでありながら、実に細やかで複雑なコード進行をもつこの曲。冨田ラボの打ち込みによるドラムも効果的だ。

 気付かないほど繊細に、なおかつ計算して仕組まれた変調と音の足し算・引き算により、ドラマティックに楽曲が展開していく。MISIAの歌唱はもちろんのこと、イントロからアウトロまで、すべてが聴きどころといえる極上のバラードだ。

〈果てしなく 遠い未来なら あなたと生きたい あなたと覗いてみたい その日を〉

 願うような、まるで彼女の心からこぼれ落ちたかのような優しい声に、キュンとなる。

 そしてこのフレーズこそ“恋”そのものを言い換えているといっていい。人は、いくつもの出会いのなかで、たったひとりの“あなた”を選ぶ。その瞬間に芽生える「この人と生きたい」と願う確かな衝動。それが、恋なのだと思う。

 『やまとなでしこ』において桜子は、最後に「真実(ほんとう)の恋」を見つける。そのきっかけもきっと、こんな衝動だっただろう。欧介と生きたい、果てしなく遠い未来を、欧介と覗いてみたい。少女のように純粋な、好奇心にも似た恋心。

 そして、恋が永遠に続いたならば、きっと人はそれを、愛と呼ぶのだ。

■アーティスト・MISIAの魅力

 1998年、ラジオから流れる「つつみ込むように…」に筆者は衝撃を受けた。同じ衝撃に覚えがある人は、きっと少なくないはずだ。

 イントロでのホイッスルボイス。5オクターブを誇る音域。なにより、これほどスタイリッシュな音楽を、脅威のリズム感をもってのびのびと歌いながらも「歌詞が日本語であること」に驚いた(デビュー曲の歌詞についてはMISIAによるものではないが)。

 「日本人離れした」という枕詞を用いられることが多いMISIAだが、デビュー当時から現在に至るまで「日本語で伝えること」を大切にしているアーティストだ。歌詞カードを読まずとも、きちんと耳に、心に言葉が伝わるよう、大事にメロディに乗せて歌う。MISIAが歌い続けるのはR&Bではなく、こだわりの“J-R&B”だ。

 「Everything」の歌詞は、仮歌を聞いたMISIAが翌日には書き上げたという。フレーズのいくつかを拾い上げてみれば、ドラマの内容とリンクする部分はもちろんある。しかし、ひとつのラブストーリーを歌で表現したというよりは、さまざまな愛の形を紡ぎ合わせた歌詞という印象を受ける。歌詞をどこで切り取っても、たしかな“愛の歌”……まさにラブソングなのだ。

 だからこそ多くの人の心を打つ。たとえば桜子の気持ちになってみても、欧介の気持ちになってみても、胸に刺さるフレーズがある。恋愛であるだけでなく、人間愛でさえある。

 MISIAは、デビュー20周年を迎えた際のインタビューにおいて、自身の数々のヒット曲について振り返り「民謡のよう」と表現した。「歌い手も、誰が曲を作ったのかもわからなくなっても、その曲が存在していくような楽曲」、普遍的なものを作ることができるよろこびを、シンガーとして、作り手として語っていた(参考:Yahoo!ニュース)。

 民謡や、それこそ万葉時代の和歌のような、普遍的に人々が共感する言葉やメロディ。MISIAはそうした作品を紡ぐことができる、稀有なアーティストだ。

 「Everything」もまさにそう。時代が令和を迎えても愛され続け、当時生まれていなかった人もこの曲を口ずさむ。誰もが歌詞に心を重ね、癒され、ときに切なくなる。

 いつか自分がいなくなった世界、果てしなく遠い未来にも永遠に響き渡るだろう至高のラブソング。「Everything」と同じ時代にめぐり合えた奇跡を、心から幸せだと思う。(新 亜希子)