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AIが映画界の新たなプレイヤーに 興行予測や「#MeToo」以降の脚本検証ツールとしての機能も

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リアルサウンド

 かつて、フランスの哲学者アンリ・ベルクソンは人間を「ホモ・ファーベル(工作人)」と定義し、人間の本質は「創造性」にあると規定した。それを知ってか知らずか、「創造性は人間特有のもの」という“不文律”が、こと映画界には存在している。

 しかしながら、映画の都ハリウッドにおいて、事態は急変している。

 変化の端緒はNetflix製作の2013年ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』だ。Netflixは全世界1億3000万ユーザーの、「年齢・性別・居住区」や、「何の映画を観たか」「どの監督・俳優が好みか」「途中で離脱したか」といった様々なデータを収集している。2013年、Netflixはそのデータを用い、ある“博打”に出た。

 デヴィッド・フィンチャー監督作品『ソーシャル・ネットワーク』が離脱者が少なく、またケヴィン・スペイシー出演作はよく見られている、そして1990年イギリス版ドラマ『ハウス・オブ・カード』がよくストリーミングされている、といったデータをもとに、Netflixは、本作に100万ドルを投資したのだ。すなわち、Netflixは「データが示す通りに」、監督にデヴィッド・フィンチャー、主演にケヴィン・スペイシーを起用するというチーム・ビルディングを行い、ドラマの方向性を決定した。

 その結果、『ハウス・オブ・カード』は 2013年プライムタイム・エミー賞3部門を受賞し、テン年代を代表する映像作品の一つとなったのである。

 この目覚ましい結果をもとに、「データ」は新時代の脚本作りにとって重要な要素の一つとなり、データに基づいた作品作りを行う製作会社が増えた。中でも、『ダークナイト』や『ハングオーバー!』シリーズを製作したレジェンダリー・エンターテイメントはNetflixを踏襲し、データを活用した作品作りを始めている。

 レジェンダリー・エンターテイメントは、2013年にデータ分析会社StratBridgeを買収した。StratBridgeは、映画のプロット作成の段階で様々な分析を行うことができる。例えば、SNSをクロールして映画に関するデータを収集し、今現在ヒットを飛ばす可能性の高い作品の傾向や、人気のキャスト、監督といった基礎情報、さらにその他の変数が与えられた時に製作予定の作品が受ける影響などの予測を立てる。そうした情報をプロダクションチームと共有し、「どのような映画をどのようなチームで作るか」決定するのだ。

 テクノロジーが映画作りにもたらす変化は、データによるチーム・ビルディングや作品の方向性の決定に留まらない。昨今、“AI”が新たなプレイヤーとして映画界に登場している。

  “作り手としてのAI”、すなわちAIによる脚本の自動筆記や撮影は未だ開発中の段階にあるが、“観客としてのAI”、すなわち脚本から興行の成否を予測する精度はかなりのレベルに達してきている。

 2015年、ベルギー・アントワープに、Scriptbookというベンチャー企業が誕生した。ScriptbookのAIは、6,500本もの脚本を学習しており、新たに脚本を読み込ませるだけで、キャラクターやストーリーからターゲット規模を推測し、レイティングやキャラクターの感情の動きなど、様々な変数を鑑みることによってその作品の興行的な成否を予測する。ソニー・ピクチャーズが2015〜2016年に発表した62作品のうち、52作品の成否(黒字になるか赤字になるか)をほぼ正確に予測している。Scriptbookによると、現在は84%の確率で黒字か赤字かを予測できるとのことで、これは人間の3倍の正確さだという。

 また、ScriptbookのAIは“脚本の検証ツール”としても機能する。MeToo以降の時代における映画作りは、ジェンダー・パリティがますます重要になっている。Scriptbookに脚本を読み込ませることで、「2人の女性キャラクターの間で、男性についてではない会話があったかどうか」「男性間の対話数・女性間の対話数・男女の対話数」を測定し、それらに偏りがないかも検証できる。

 このような試みに対して、「テクノロジーを使ってクリエイティビティの価値を決めるとはけしからん」という非難が湧き上がるが、それに対してScriptbookのCEOは、「テクノロジーはクリエイティビティの敵ではない。我々の試みは、(ビジネスの俎上に乗らないと考えられている)アート映画の中で、どれがビジネス的に成功するか測ることができるのだ」と興味深いコメントを残している。すなわち、どうしても現代では敬遠されがちなアート映画に「確かな勝算」を持たせることで、企画を通りやすくさせることが可能なのだ。その意味で、Scriptbookはクリエイティビティの敵というよりむしろ味方であると言えよう。

 ただし、我々は「ホモ・ファーベル」である人間の本質を忘れてはならない。

 AIの判断のみに任せていると、既存の映画の枠を遥かに飛び越えていくような革新的な映画はこぼれ落ちてしまったり、あるいは脚本の改稿を余儀なくされる可能性が高くなる(例えば、『2001年宇宙の旅』や『マルホランド・ドライブ』のような映画は、AIによって「赤字」のプロジェクトだと判断されてしまうだろう)。

 十把一絡げにAIに依存するのではなく、人間の目を通して作品の是非を問うプロセスをしっかりと立てられれば、こうした試みはより映画界に資するものとなるだろう。

参考

https://www.cio.com/article/3207670/big-data/how-netflix-built-a-house-of-cards-with-big-data.html
https://digit.hbs.org/submission/making-a-legendary-data-driven-movie/
https://news.developer.nvidia.com/20th-century-fox-uses-ai-to-predict-who-will-watch-a-movie-from-its-trailer/
https://screenrant.com/script-book-software-movie-analysis/
https://www.thestar.com.my/tech/tech-news/2018/07/09/artificial-intelligence-could-one-day-determine-which-films-get-made/
https://www.wired.com/story/artificial-intelligence-box-office-predictions/

■近藤多聞
プロデューサー修行中の映画ライター。最近は映画ビジネスの変化と、 テクノロジーの発展と映画の関係性に強い興味があります。好きな監督は濱口竜介、エドワード・ヤン、エミール・ クストリッツァ、ジョン・カサヴェテス。Twitter