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ジブリ名作のリバイバル上映はなぜ成功した? コロナ影響下の映画館で再確認できたコンテンツの魅力

映画

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リアルサウンド

 新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が解除され、全国の経済活動が戻り始めているが、映画業界も6月上旬に全国ほぼ全ての映画館が再開された。

参考:詳細はこちらから

 約2カ月の間、全国の映画館の大半が休館に追い込まれ、苦しい経営状況に追い込まれたが、営業再開後も座席販売数を制限、まだ不安感のぬぐえない一般客の戻りは鈍く、厳しい戦いを強いられている。

 配給会社も客足が戻らないことには、話題作を出しづらい。反対に、あまりにも多くの観客が集まるとクラスターを発生させてしまうかもしれないということも脳裏にちらついているのかもしれない。少しずつではあるが新作の公開は始まっているとはいえ、普段通りとはいかず、映画館も番組編成に頭を悩ませている。

 そんな中、業界最大手の東宝がスタジオジブリの旧作4本、『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ゲド戦記』を公開すると発表。6月26日から全国の映画館で一斉に公開が始まった。初週の週末の興行成績は、上位3位をジブリ映画が独占、座席販売数が50%以下であるところが大半という状況にもかかわらず、3本とも1億円以上の興行収入を叩き出す強さを見せつけた。

 改めてスタジオジブリが国民的に愛されていることを実感させたが、今回の映画館にとっての未曾有の事態におけるジブリ映画のリバイバル上映をどうとらえるべきだろうか。このことから、今後の映画館のあり方や映画産業の未来について前向きな何かを見出すことはできるのかを考えてみたい。

・息の長いコンテンツを有するということ
 まず、今回のリバイバル上映は緊急措置的な意味合いが強い。各配給会社が今すぐに期待の話題作を送り出しづらい状況の中、映画館に客足を戻すための窮余の策である。熱心な映画ファンなら作品を選んで鑑賞しに行くだろう、だが、いわゆる一般の観客は観たい作品がなければわざわざ映画館に足を運ばない。映画館に客足を戻すためには、新作以外で一般の人々が観たいと思える作品が必要だった。ジブリ映画ほどその条件を満たす作品はなかっただろう。

 スタジオジブリが国民的な存在であることは今さら言うまでもない。ジブリ作品は過去何度もテレビで放送され、いまだに高視聴率を叩き出す存在だ。2019年の『風の谷のナウシカ』放送は10.4%の世帯視聴率を記録(参照:「風の谷のナウシカ」視聴率10.4% 地上波18回目も衰えぬ人気|スポニチ Sponichi Annex)。35年前に公開された映画の18回目の放送でこの数字は驚異的だ。ジブリ最大のヒット作『千と千尋の神隠し』も2019年に9回目の放送があり、こちらも17.9%の世帯視聴率を記録している(参照:『千と千尋の神隠し』9回目放送でも17.9%|オリコンニュース)。これは『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)などトップクラスの視聴率を誇るバラエティ番組と同レベルの数字である。15年ぶりに地上波放送された『バック・トゥー・ザ・フューチャー』が14.5%だったことを考えてみても(参照:週間高世帯視聴率番組|ビデオリサーチ)、いかにジブリ作品が強いかわかるだろう。

 『ナウシカ』だけでも過去18回放送されているということは、ジブリのお茶の間への浸透度は他の追随を許さず、何度観ても面白いと認知されているということだ。日本映画最高の「息の長いコンテンツ」と言ってよいだろう。

 エンタメ産業において、息の長いコンテンツを有していることのメリットは大きい。こうした緊急事態に東宝が過去作で勝負に出られるのも、ひとえにジブリという広く国民に愛されたコンテンツを有しているからだ。新作で勝負できない状況ならば旧作で勝負する、今回のコロナ禍で新作公開の滞りは、改めて息の長いコンテンツの重要さを浮き彫りにした。

 ジブリ作品の息の長さは、作品自体の質の高さはもちろん大前提だが、定期的にテレビ放送されること自体がコンテンツの息を長くしたともいえる。スタジオジブリの国民的人気はテレビ放送によって獲得されたという歴史がある。インターネット時代にテレビは以前ほどの強さを失っているのは確かだが、これだけの息の長いコンテンツを生み出す力はネット配信には今のところない。定期的に多くの国民に無料であまねく提供できるテレビという媒体で、映画を放送する意義がここに見出せる。

・映画館の有限性がジブリ映画の本当の魅力をあぶり出す
 さて、そんなテレビ放送で見慣れたスタジオジブリの作品群を改めて映画館で観る醍醐味とはなんだろうか。今回のリバイバル上映につけられたキャッチコピーは「一生に一度は映画館でジブリを」。ジブリを映画館で観るのは特別なものだと強調している。

 映画館の特別性とはなんだろう。筆者は以前のコラムで映画館の豊さとは、接続過剰な日常を切断してくれる有限性にあると書いた(参照:コロナ禍の今、改めて考える“映画館で映画を観る”意義 前代未聞の休館を経験して)。人は接続過剰な状態になると欠如がなくなり、不安が増し、欲望を閉塞させてしまうので、機能限定的な状態、つまり有限の状況を定期的に作ることが現代人には大事だ、という議論から映画館の価値を説こうと試みた。

 有限的でない環境で多くの人が視聴したことのあるジブリ作品は、映画館の有限性の豊かさを確認する良い機会になる。筆者も『風の谷のナウシカ』を観てきた。本作のみ今回の4作品のなかでスクリーン体験がなかったからだ。もちろんテレビ放送、DVDでの視聴も含めて何度も観ている作品である。しかし今回、改めて映画館で観て、とんでもない傑作だと感じてしまった。他に何の邪魔も入らない環境で本作を視聴してみると、緻密に練り上げられた作品世界への没入感がまるで異なる。冒頭の腐海の背景もこれまで以上に妖しく、美しく感じられ探究心を刺激する。ナウシカがなぜ腐海の森探検を趣味にしているのか今までで一番実感として理解できた。

 なにより、スクリーンで映し出された空が広い。空が広いから宮崎映画最大のカタルシス、飛翔シーンの爽快感はテレビとは比べものにならないものだった。宮崎アニメの本当の魅力を発揮できるのはやはりスクリーンなのだと思い知らされた。

・馴染みある作品だからこそ映画館の純粋な価値が測れる
 コロナ禍でオンライン配信サービスがますます伸張している。劇場公開を取りやめ、オンライン配信に切り替えた作品も登場している。映画館はこれからも存続できるのかと考える人もいるかもしれない。

 こうした時期に、日本国民に広く馴染みのあるスタジオジブリの映画が映画館で上映された意義は大きい。馴染みある作品をスクリーンで観直すからこそ、映画館の純粋な価値に測りやすいからだ。ただ、最新映画がいち早く観られるのが映画館の強みではなく、テレビやネット配信とは異なる、有限性の魅力がいかにコンテンツを輝かせるのか、ジブリのリバイバルはそれを知ってもらう良い機会なのだと思う。

 是非、映画館の有限性の豊かさをこの機会に味わってみてほしい。 (文=杉本穂高)