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今週公開『劇場』の「劇場」問題 コロナ禍の「着地点」を探る日々は続く

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リアルサウンド

 先週末の動員ランキングは3週連続で、スタジオジブリの宮崎駿監督作品のリバイバル上映、『千と千尋の神隠し』、『もののけ姫』、『風の谷のナウシカ』がトップ3を独占。予断を許さない状況が続いているものの、ようやく一部の劇場(全米で約1500館。全体の4分の1程度)で営業が再開されたアメリカでは、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』が1位に(参考:https://deadline.com/2020/07/star-wars-empire-strikes-back-tops-weekend-box-office-drive-ins-coronavirus-1202983364/)。アメリカの「困った時のジブリ」は『スター・ウォーズ』ということか。それにしても、日本でもアメリカでも、この困った状況が一体いつまで続くのだろうか。正直、自分は無邪気に旧作の健闘を讃えるような気持ちにはまったくなれない。

参考:山崎賢人主演映画『劇場』7月17日公開&同日にAmazon Prime Videoでの全世界独占配信決定

 今回は、今週金曜日、7月17日に公開される行定勲監督、山崎賢人主演の『劇場』を取り上げたい。というのも、商業的なポテンシャルが十分見込まれていたメジャー配給作品であった同作だが、来週おそらくはこの動員ランキングに入ってくることはないからだ。既に報道があったように、4月17日に松竹とアニプレックスの配給によって公開される予定だった同作は、新型コロナウイルス感染拡大を受けた映画館の休業によって、ちょうど3ヶ月遅れとなる7月17日まで公開延期に。そして、劇場公開と同時にAmazonプライム・ビデオでも世界配信する運びとなった。配給権は原作者の又吉直樹の所属事務所であり、作品の製作幹事でもあった吉本興業に移譲。それにともない、上映館はユーロスペースなど全国20館の独立系映画館に限られることとなった。

 今回のいつまで続くかわからないコロナ禍において、国内メジャー系作品のストリーミングサービスへの移行は、東宝映像事業部配給作品であった『泣きたい私は猫をかぶる』のNetflixへの移譲&配信リリースという前例はあったものの、「劇場公開と同時に配信」というケースはこれが初めて。Amazonプライム・ビデオは劇場での同時公開に柔軟な対応をしたかたちだが、メジャーのみならず中堅の配給会社も慣行に従って配給を断り、その結果が製作幹事の吉本興業による自主配給、全国20館のみでの公開となったわけだ(参考:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61484280U0A710C2BC8000/)。

 劇場公開と同時の配信リリースについては、今後の「新しい映画興行の方法」としてアメリカでも盛んに論じられていて、未だ着地点が見出されていない大きな問題だ。現実的には「コロナ以降」という言葉を使うのも時期尚早で、まだ当分は「コロナ禍」としか言いようがない非常事態が国内外で続く中、しばらくは今回の『劇場』のような試行錯誤が続くのだろう。

 大きな変化は、いわゆる「マスコミ試写」においても訪れている。これまで各社の試写室でおこなわれてきた試写会はその回数が減り、現在一般の映画館がおこなっている施策同様に座席の前後左右を空けることで入場者も限られて、その多くが事前予約制に移行している。また、それをカバーするかたちでオンライン試写をおこなう配給会社もある一方、そもそも試写会そのものがおこなわれず、オンライン試写で観る以外に選択肢のない作品も増えている。

 映画関係者の一人として、自分もその変化に粛々と対応している(具体的には自宅の視聴環境や音響環境を改善するなど)ところだが、最近はどこかで「これは一時的なものではないだろうな」と思い始めている。他の業界同様に、仮にコロナ禍が数ヶ月後、あるいは考えたくもないが数年後に無事通り過ぎたとしても、今回の様々な施策によって見直された無駄(もちろん試写室で映画を観ることは決して「無駄」なことではないが、作品に関する記事などをどこかに発表する予定もない、それを検討する立場にもいない「関係者」がこれまで試写会には大勢押しかけていた)がすべて元通りになるとは思えないのだ。

 昨日発表された、今年3月から5月までの決算で、東宝はグループ全体の売り上げが330億円で、去年の同時期から51%減、最終的な利益は98%減って2億円。松竹はグループ全体の売り上げが86億円で、去年の同時期から63%減、最終損益は43億円の赤字。東宝は宝塚、松竹は歌舞伎と、それぞれ映画以外の大きなエンターテインメント産業も抱えているが、いずれにせよ東宝や松竹のようなメジャーですら未曾有の苦境にある。映画業界に「無駄」を抱える余力は、もうない。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

(宇野維正)