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池上彰×増田ユリヤが語る、感染症と金融危機の歴史 「経済危機や不況は、今後も必ず起きます」

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リアルサウンド

 今年4月末、コロナ禍の中で緊急出版された『感染症対人類の世界史』(ポプラ社)。池上彰と増田ユリヤというおなじみのコンビが、過去の大規模な感染症を人類はどのように切り抜けてきたかを語り合うという内容だった。そこからおよそ2カ月という短いスパンで、来たるコロナ以降の経済危機に向けた書籍『コロナ時代の経済危機: 世界恐慌、リーマン・ショック、歴史に学ぶ危機の乗り越え方』を出版した。

 今回、新型コロナ・ウイルスに関する2冊を緊急出版した池上彰と増田ユリヤに、緊急出版の理由や安倍政権の対応への評価、そして6月にスタートした2人のYouTubeチャンネルについて聞いた。(編集部)

関連:池上彰×増田ユリヤ、コロナ禍で今すぐ伝えたかったこと 「生きる希望は歴史にあり」

■テーマのひとつは「歴史は繰り返す」

――4月末に緊急出版した新書『感染症対人類の世界史』の好評を受け、その第2弾とも言うべき新書『コロナ時代の経済危機 世界恐慌、リーマン・ショック、歴史に学ぶ危機の乗り越え方』が7月8日に発売されました。本書の企画は、いつ頃から、どのように進み始めたのでしょう?

池上:前作を作っているときから、新型コロナウイルスの流行に伴う経済危機の話は出始めていて、「世界恐慌以来」とか「リーマン・ショック以上」とか言われ始めていました。だけど、そもそも世界恐慌やリーマン・ショックがどんなものだったのか、みなさん意外と知りません。ならば、次は増田さんと一緒に、そこを歴史的に振り返ってみましょうよということになりました。

増田:その話が出たのは、確か4月の終わり頃だったと思うんですけれど、6月になって上半期が終わると、雇い止めが出てきたり、きっといろいろな問題が噴出するだろうと。その頃には絶対、みなさんがこういう情報を求めるようになるはずだと、池上さんが提案してくださいました。

――さすがの見立てですね。

池上:その頃には絶対に「経済危機に備えるためには、どうすればいいのか?」みたいな雑誌の特集や本がたくさん出てくるはずだから、その前にひとつ振り返ってみるのは意義があると考えました。前作も相当なスピード感で作らせてもらったのですが、私のモットーとして「拙速を貴ぶ」というのがあるんです。「拙速」というのは、あまり良い意味では使わない言葉ですけれど、こういう本の場合は、やはりスピードがいちばん大事だと思います。

――確かに前作には、その頃まさに知りたかった情報が、簡潔にまとめられていました。一方、今回の本では過去の経済危機――具体的には1929年の「世界恐慌」、1930年の「昭和恐慌」、1973年の「第一次オイルショック」、2008年の「リーマン・ショック」などが取り上げられています。それらのトピックについて解説する際、どのようなことを意識しましたか?

池上:導入編としてのわかりやすさですよね。私は経済学部出身で、大学で経済も教えているから、つい経済用語を使って解説してしまう。そのたびに増田さんから「その説明では、一般の人にはわかりません」とツッコミを入れてもらって。

増田:ひと言、説明があるだけで多くの人に伝わる内容になりますからね。「金融不安が実体経済に影響して……」と言っても、そもそも「実体経済」って何ですか?という。そういうツッコミは、ちゃんとするように意識しました。

――実際、そんなやり取りが、本書の中にもありますよね。

池上:そうなんです(笑)。本に載ってないところでも、そういうことがずいぶんとあって。ツッコミを増田さんにしていただいたおかげで、経済のことに詳しくない人が読んでも、非常にわかりやすい本になったんじゃないかと思っています。

増田:加えて、前作のテーマのひとつに「歴史は繰り返す」、人類が感染症で苦しんだのは、今回が初めてではないというのがありました。それと同じように経済でも、かつての世界恐慌や逼迫した状況になったことが何回もあったわけです。それを実際、過去の人たちがどうやって乗り越えてきたのかを、わかりやすく解説することを意識しました。具体的な経済政策ばかりを見ても、実感として伝わらないじゃないですか。それをどういうふうに伝えるかというのは、ずいぶんと考えました。その時代に、実際どんな人がいたのかを、ちょっと探してみたり。

■これまでの経済危機とはちょっと毛色が違う

――本文の途中で挟み込まれるコラムでは、世界恐慌の時代を生きたココ・シャネルやスタインベック、そして宮沢賢治の作品などが紹介されていました。

増田:文化的なトピックスを交えることで、読者の方々に世界恐慌を身近なものとして感じてもらえたらいいなと思いました。

池上:あとは読後感ですね。前作を読んでくださった方から「感染症の話だから、もっと暗い本だと思っていたけど、読後感が意外と良かった」という感想を結構いただいたんです。今回も、経済危機の話ばかりで、ひたすら不安になる感じのものではなく、当時の政治家たちが、どんなことを考えていたのか、あるいはそのとき政治家に求められるものは何だろうかということを、ちゃんとみなさんに考えてもらえるような本にしたいと考えました。

――過去の経済政策を紹介するだけではなく、その政策が生まれた背景や、当時の政治家たちの思いについても、しっかり書かれています。

池上:今回の経済危機は、感染症の影響で経済活動ができないということだから、これまでの経済危機とはちょっと毛色が違うものです。しかし、人々が困っているときにどのような対策をとるのか、どうやって人々の気持ちを鼓舞するのかという点では、共通していると思います。

増田:この本では当時の政治家たちが何を見て政策を立てたのか、何を大事に思ってくれたのかを、ちゃんと見るようにしていったんです。すると「あ、こういう人が、こういうことを考えながら、こういう政策を立てたんだ」というのが、より実感できる。ときにはそれが失敗することだってあったわけですが、真摯にやろうとしたことがわかれば、ある種納得感が得られるわけです。結局、信頼がなければ、何も納得できないんです。

――過去の経済危機を振り返ることは、自ずとリーダー論にも繋がってくるわけですね。ちなみにおふたりは、今回の日本政府の経済対策について、どのように見ているのでしょう?

池上:ひと言で言うと、すべてが遅い、あまりにも遅すぎます。10万円の給付金にしても、決まったのは4月なのに、7月に入った段階でまだ入金されてない人がいるわけです。中小企業者が事業を継続するための給付金も、全然入金されていない。他の国と比べても、あまりにも遅すぎると言わざるを得ません。

増田:初めてのことなので、多少うまくいかないことがあるのはしょうがないとは思っていたのですが、それにしてもわからないことが多すぎます。たとえば先日、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が、突如廃止されたじゃないですか。ああいう物事の処理の仕方というか、根本的なところで、今の政権に対して不安に思っているところはあります。

――リーダー論以前に、政策決定のプロセスが、依然として不明確なところがあると。

増田:そもそも、専門家会議の議事録がないという話も、どうかと思いますよね。いくら会議の扱いが違うからといって、こんなに大事なことに関して議事録をとっていないのは、一体どういうことなんだと。そんな状態で、どうやって議論を進めていくのだろうと疑問に思います。

――本作も前作も「歴史に学ぶ」のが共通したひとつのテーマになっていますが、そもそも記録が残っていなかったら、歴史を知ることもできませんね。

増田:その通りです。前作でスペイン風邪のことを取り上げましたが、あれも過去の記録が残っていたから、私たちは具体的に知ることができたわけです。これから第二波が来るということも、過去の記録があるからこそ言えるわけです。その記録が曖昧だったり、残っていなかったりしたら、次の危機が訪れたときに参考になりません。今の政権はそういうことをちゃんと考えていないのではないかと思うと、非常に腹立たしいです。

池上:今、増田さんが言われたように、スペイン風邪については、当時の内務省衛生局が詳細な記録を全部残しています。しかも、平凡社が『流行性感冒「スペイン風邪」大流行の記録』という形で本にしていて、おかげで今、「当時から結構みんなマスクをしていたんだな」とか、当時の様子を知ることができるわけです。

――具体的な経済政策についてはいかがですか?

池上:一律10万円の給付金はいいとして、そのあとすぐに「Go Toキャンペーン」というのを発表したじゃないですか。その予算の内訳を見てみると、よくわからないものがこっそり忍び込ませてあって……。

――「Go Toキャンペーン」を発表したのは、ちょっと驚くぐらい早い段階でしたよね。

池上:それはそうですよ。経済産業省が、こういうのをいずれやりたいと計画していたものを放り込んだだけですから。今回の事態のためにやろうじゃなくて、いずれこういうものをやりたいと温めていたものを、絶好のチャンスだと持ってきたわけです。

増田:そこにいろんなものを混ぜてくる。どさくさ紛れという言い方が適切かどうかわかりませんが、意味不明な予算が含まれていることがわかっても、今の政権は「問題ありません」と言ってしまう。「この政府は何なんだ、一体誰のことを考えて政策を打ち出しているのか?」と思ってしまいます。東日本大震災のときも同じようなことがありましたけれど、そこはまったく変わってない。

池上:だからこそ、我々はしっかり物事を見て、ちゃんとものを言っていかなきゃならないわけです。それこそがメディアの役割ですよね。

■ドイツの文化支援

――ちなみに、文化活動に対する政府の支援については、どのように見ていますか?

増田:文化や芸術に関しては、補助金を出すなり、最低限の支援はすべきだと思います。ドイツのモニカ・グリュッタース文化相が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要」と言っていたように、芸術は人々の生活にとっても、非常に大切なものですから。

池上:モニカ・グリュッタース文化相の発言はすごいと思いました。「民度」という言葉を出した大臣が日本にいましたけど、ドイツの政治家たちは、日ごろから芸術に触れていて、その大切さをよくわかっている。だから、芸術家たちが声を上げる前に、政治家たちのほうから、ちゃんとそういう政策が出てくる。日本の大臣クラスの政治家に、そういうことに理解のある人が、一体どれだけいるんだろう……そんなことを、つい思ってしまいます。

――本書の最後のほうでも触れていましたが、そんな政権が打ち出した「新しい生活様式」に関しては、いかがでしょう?

池上:「新しい生活様式」に関しては、増田さんが、かなり言いたいことがあるようで(笑)。

増田:いやいや(笑)。でも、最初にその話を聞いたとき、「えっ、これを未来永劫続けていくつもりなの?」と思って、本当にゾッとしたんです。そんなことまで言われなきゃいけないんだろうか?っていう。もちろん、感染症の話なので、自分たちで判断できない付きかねる部分も大きいとは思うんですけど、誰かとご飯を食べるときは、となりに座って食べましょうとか、食べながら話すのはやめましょうとか。昔、給食の時間に言われたようなことを言われているなって思いました。そして「新しい生活様式」が発表されたとき、報道するほうも、そのまま発表するだけだったじゃないですか。みんな違和感を持たないのかなって、私はすごく思ったんですよね。

――それを、いつまで続ければいいんだろうっていう不安もありますよね。

増田:いつまでとは具体的に言えないような状況だと思うのですが、もうちょっと言い方があると思いました。「これを我慢すれば、きっと元通りになりますから、もうちょっとだけ頑張りましょう」とか。

池上:「新しい生活様式」という名のもとに、個人の生活スタイルにまで政治が介入するのは、いかがなものかということですね。もちろん、全体としての指針は示す必要がありますけれど、だからといって事細かに「こうしましょう」、「壁に向かって食事をしましょう」というのは、余計なお世話でしょう。

――ガイドラインは必要ですけど、それを踏み越えたところがあるというか、個人の生活が浸食されている感じがします。

増田:そう、私は何が新しいのか、さっぱりわからなかったんです。ただ、指図しているだけじゃないかって。

――まだまだ悩ましい時期は続きそうですが、この状況の中、私たちはどんなことを考えながら、日々を過ごしていけば良いのでしょう?

池上:新型コロナウイルスに関しては、いずれ治療薬やワクチンができて、かつてのような日常が戻ってくるとは思うのですが、生活スタイルから働き方まで、かつてとまったく同じものには絶対ならないでしょう。私が敢えて言いたいのは、5年先、10年先のことが前倒しできてしまうということ。たとえば、在宅勤務のようなものは、以前から今後増やしていかなければいけないと言っていたけれど、突然きてしまった。リモート学習とかもそうですよね。いずれ、そういうことができるようになるだろうと想定していた未来が現実になってしまった。その未来をどう生き抜いていくかを今、私たちは考えていかなくてなりません。

――増田さんは、いかがでしょう?

増田:池上さんとは観点が違うかもしれないですが、私は、できるだけ自分の生活スタイルを変えないでいるために、どうしたらいいのかを考えています。実際に、会社や学校に行くとか行かないとか、そういうことはまた別として、たとえば何時に寝て何時に起きるとか、何を食べるとか、今の限られた範囲の中で、これまでの生活のリズムをなるべく変えないように過ごすことを意識しています。状況の変化で、精神的に不安定になる方も、きっと多いじゃないですか。

――依然として、なかなか先は見えないですが……。

池上:まあ、未来を見るというのは、そもそもそういうものですよね。誰も経験してないわけで。だからこそ、私たちは歴史に学ぶわけです。それぞれのときに、どんな対応をして、どんな成功をして、あるいはどんな失敗をしたのかという。それをしっかり身に着けておくと、何か起きたときに、アナロジカルに「これは、こういった対応が可能なんじゃないか」という指針を得ることができると思うんです。経済危機や不況というのは、今回のコロナに限らず、今後も必ず起きますから。だから、歴史を知って、そのときに備えるという。それに尽きると思います。

増田:これは本の中にもちょっと書きましたけど、世の中のものすべてがコントロールできるという考え方を、私たちは変えたほうがいいのかもしれません。自分の力じゃどうにもならないことがある。私たちはそのことを忘れていたんじゃないかなと思うようなところがあって。コントロールできないもの、自分の力ではどうにもならないものがある中で、私たちは生きているんだっていう。それをこの機会にもう一度、ちゃんと自覚しておいたほうがいいんじゃないかなと思います。

――ところでおふたりは、この6月から本書と連動した形で、「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」という動画チャンネルを開設されました。

池上:もう毎日、更新していますよ(笑)。

――この動画チャンネルは、おふたりにとって、どういう位置づけのメディアになるのでしょう?

池上:テレビや本と違って、YouTubeではただちにいろんなことを取り上げて解説することができます。テレビだったら、このへんできれいにまとめましょうみたいなことも、よりディープな形で語ることができる。そういう可能性を、今いろいろと試行錯誤しながら、一生懸命見つけようとしている感じですかね。たとえば「ホームルーム」という形で、毎日、増田さんとリモートで会話している動画をアップしているのですが、そのやり取りの中で、やっぱりこの話は、一度まとめて解説したほうがいいよねという話になることもあります。あるいは、そういう会話を積み重ねていくうちに、これがまた別の本という形になるかもしれないし。

増田:そうなると良いですね。

池上:ここから、いろんなことに発展していくと思うんです。だから言ってみれば、今はいろんな種を蒔いている感じなのかもしれないです。

増田:個人的には、池上さんのテレビでは出せない部分を、この動画で是非出したいという思いがあります。といっても、まだテレビの域から全然出ていないので、池上さんをどこまで崩せるかというのが、このYouTubeチャンネルにおける私の使命だと思っています(笑)。

池上:もう、ボケとツッコミみたいなものですから(笑)。