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『MIU404』伊吹藍は綾野剛の多面性を象徴するキャラクターに カメレオン俳優からの進化を辿る

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リアルサウンド

 ある時は命を慈しむ産科医。またある時はミステリアスな美大講師。歌舞伎町のスカウトから異形の怪物まで、硬軟自在に役になりきる姿を指して、人は彼を「カメレオン俳優」と呼ぶ。

参考:『MIU404』が暴き出すあらゆる人生の障害物 テレビドラマとしての気概と妙技に目が離せない

 『MIU404』(TBS系)で伊吹藍を演じる綾野剛。伊吹は運動神経抜群だが(「足が速い」)、規律や組織のたてまえには無頓着な野生のデカだ。理性よりも直感で突っ走る伊吹に相棒の志摩一未(星野源)は翻弄されるが、捜査を重ねるたびにバディの呼吸が形づくられていく。

 綾野の登場は衝撃的だった。『仮面ライダー555』(テレビ朝日系)で俳優デビューし、映画を中心に活動していた綾野が注目を浴びたのは、連続テレビ小説『カーネーション』(NHK総合)。主人公・小原糸子(尾野真千子)の道ならぬ恋の相手、周防龍一として少ない登場回で大きなインパクトを残すと、翌2013年には大河ドラマ『八重の桜』(NHK総合)をはじめ、『最高の離婚』(フジテレビ系)、『空飛ぶ広報室』(TBS系)、映画『横道世之介』などに主要キャストで出演。瞬く間に人気俳優の階段を駆け上がった。

 綾野は現場で思考し、作品世界の一部であることを志向する役者だ。以前は俳優としての自分を消し、黒子に徹することを信条としていたが、最近のインタビューでは「芝居が始まれば特別難しいことは何もしていない」、「役者は、現場に行ったら毎回ゼロスタート」(引用:綾野剛×大友啓史が掴んだ映画の可能性「観たことのない映画ができた」|ぴあ)と語る。もちろん必要なインプットは怠らないし、役柄に応じて髪型を変えたり、体重を増減することはあるが、そういった表向きの属性以上に、綾野にとっては現場で役を作り上げ、役を生きることが演技の中心にある。

 たとえば、映画『日本で一番悪い奴ら』の諸星要一。行き過ぎた正義感から裏社会の違法行為に手を染める警察官を演じた。腕っぷしが強く、もとが純粋な分、猛スピードで悪徳刑事に堕ちていく姿には、ある種の反転した爽快さすらあった。この作品で綾野は第15回ニューヨーク・アジア映画祭ライジングスター賞に輝く。全身で役を生きることで言葉の壁さえも超えてみせた。

 綾野が演じる様々なキャラクターは、綾野の多面性を反映している。『日本で一番悪い奴ら』の諸星や映画『亜人』の佐藤、『Mother』(日本テレビ系)の浦上といった暴力性を帯びたキャラクターを、綾野の中の“悪魔”を増幅した役とするなら、ふとした瞬間に見せる笑顔は“天使”と言えるだろう。『コウノドリ』(TBS系)の主人公サクラの柔和なまなざしや、『空飛ぶ広報室』(TBS系)の空井には無邪気な少年の面影がのぞく。天使と悪魔の中間もある。映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』では、誠実そうな見かけに反して、黒木華演じる主人公を罠に誘う男を演じきった。

 『MIU404』の伊吹は、綾野の多面的な魅力が発揮される役だ。お年寄りの転倒を見た瞬間、頭に血が上ってあおり運転犯を猛追する伊吹は、志摩いわく「手綱をぶっちぎって走る野犬」。そうかと思えば、第4話で瀕死の青池透子(美村里江)を救おうと懸命に呼びかける。恩師の蒲郡(小日向文世)が「人を信じすぎる」と指摘する伊吹には、真っ直ぐすぎてコースアウトするような危険な香りが漂う。

 相方の志摩も、伊吹とは別の危うさを持っている。第4話で暴力団員に銃を突きつけられ、銃口を指で押さえて「撃てば」と迫る。熱いハートを持つがリミッターの外れている伊吹と、理知的な反面、人としての倫理が壊れている志摩。善悪の境界上で揺れ、互いの存在がブレーキにもアクセルにもなる不格好なバディの片割れに、天使と悪魔の顔を備えた綾野は完璧にフィットする。

 「カメレオン俳優」と形容されたのも今は昔。アスリートのような自己鍛錬によって、役者・綾野剛は進化を続けてきた。綾野のベストは最新作だ。『MIU404』を目撃してほしい。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。