『アンサング・シンデレラ』は『Ns’あおい』の14年後? 石原さとみが体現する“理想の先輩”像
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日本の連ドラ史上初、病院薬剤師たちの奮闘を描く石原さとみ主演のフジテレビ系連続ドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系)。石原と言えば、これまで数々のポジティブなヒロインを演じ、日本を明るく元気にしてきた国民的女優の1人だ。今作でも、患者一人一人と真摯に向き合う主人公・葵みどりを演じ、冷静さの中に熱い情熱を持った演技で、毎週感動を呼んでいる。
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10代の頃は、松本潤とのキスシーンが衝撃を呼んだ『きみはペット』の澁澤ルミや、ドラマ『WATER BOYS2』(フジテレビ系)のヒロイン・矢沢栞など、真面目で、男子とギクシャクを繰り返す、まさに思春期らしい女子高生役が多かった印象の石原。一方で、そうした等身大の青春劇だけでなく、2003年にはNHK朝の連続テレビ小説『てるてる家族』、2005年にはNHK大河ドラマ『義経』とNHK2大コンテンツでもヒロインを務め、女優としての器量の大きさを早くから発揮してきた。特に『義経』での静御前役は、義経(滝沢秀明)への思いを秘めた落ち着いた演技が実に艶やかで、石原の演技力の高さを感じさせた役だった。
2012年の『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)では就活中の理系女子として、小栗旬演じる堅物IT社長を人間らしく変えていく様を魅力的に演じ、2014年の『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)では、まるで『きみはペット』のリベンジをするかのごとく、松本潤を振り回す小悪魔ぶりが話題に。小栗、松本と『花より男子』(TBS系)F4メンバーの2大巨頭をリードする、ラブコメディのヒロイン役として大活躍の20代だったと言える。
ヒロインに限らず、映画『進撃の巨人』、映画『シン・ゴジラ』、ドラマ『地味にすごい!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)などの作品でも、サバサバと自分が思ったことを言う、ポジティブなキャラクターが石原自身のパーソナリティーにもマッチ。ここ最近、さらに役柄の幅を広げ、同性からも愛される存在として、国民的女優としての地位を確たるものにしたと言える。多くのドラマファンに愛される『アンナチュラル』(TBS系)で主演を務めたことも大きいだろう。
『アンサング・シンデレラ』で石原が演じる葵みどりは、患者のために奮闘する病院薬剤師という役柄。それで思い出すのが、2006年に石原が民放連続ドラマ初主演を果たした『Ns’あおい』(フジテレビ系)だ。石原は本作で患者に寄り添い、精一杯仕事に励む新人ナース・美空あおいを演じた。患者の危機とあれば看護師として制限されている医療行為にも手を出してしまうというあおいのキャラクターも葵と似ていて、むしろ14年前の葵を見ているかのよう。
ただ『アンサング・シンデレラ』の葵は、新人ではなく、ある程度キャリアを積んでいるという設定が重要なポイントの一つ。石原が「患者さんにとっての“最後の砦”という自覚をもち、単にがむしゃらなだけではなく、優しさが本当の強さだということが伝わるように演じていきたいです」(参考:石原さとみ、木曜劇場『アンサング・シンデレラ』主演で病院薬剤師に 「精いっぱいがんばりたい」)と言うように、周りの状況を判断し、説得力のある行動をするクレバーさが、葵みどりという主人公の立ち位置を特別なものにしている。意見が食い違う主任の刈谷奈緒子(桜井ユキ)に叱られても、変に怒ったり、動揺したりせずに飲み込むという、大人の対応をする演技は以前にはなかったものだ。
また今回の役柄は、相原くるみ(西野七瀬)という新人薬剤師を指導する立場というのもポイントで、これまでの2話を観る限り、直接指導するのではなく、患者一人一人と真摯に向き合う姿勢に相原が何かを得るという、「背中で語る」カッコよさがある。まさに、葵みどりという役は、このドラマのモットーでもある、“縁の下の力持ち(=アンサングヒーロー)”と呼べる病院薬剤師を体現している存在なのだ。とは言え、たまにチラッと見せるガムシャラさ、人間らしさが葵が視聴者にとって身近に感じられる理由であり、飾らない自然体の女性が似合う石原だからこそできる役柄ではないだろうか。
ちなみにストーリーも、「患者のための医療VS利益のための医療」がテーマとなっており、『Ns’あおい』との共通項が。第3話は、病院薬剤師VSドラッグストアという展開となり、病院薬剤師の存在意義が問われることになっていく。リアリティーが魅力の本作なだけに、どう答えを導くのか目が離せない。 (文=本手)