ポレポレ東中野代表が語る映画館の“新しいかたち”
映画
インタビュー
文:(【re:START】キーパーソンInterview 第9回から)
新型コロナウイルスの感染拡大により、全国の映画館が一時的に休館を余儀なくされた。緊急事態宣言の解除後、徐々に再開を果たしていったが、当然、かつてと同じ形は難しく、席数は半減、感染対策を徹底した形での営業となっている。
そんな状況の中、6月1日から劇場を再開し日々新たな試みを模索している劇場が、ポレポレ東中野だ。旧作を上映する劇場が多い中で、早々と新作の上映をスタートさせると、6月13日から公開した映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が連日満席のヒット。より多くの観客に届けるために、8月1日にはオンライン上映も開催される。
映画館の新しい形、新しい役割が求められていく今、ポレポレ東中野代表・大槻貴宏氏に話を聞いた。
街の映画館としての再開
── 6月1日に劇場を再開してから約2カ月が経ちましたが、まずは現状どんな感じですか?
大槻貴宏(以下、大槻) 率直に言うと「思っていた通りかな」という感じですね。客席を半分にすると、入る作品には影響が出てくるだろうなというのは思っていたので。一応、客席を半分にして、上映回数を減らしても、それが全部満席になってくれたら経営的には問題ないだろうという数字を設定したんですけど、全回満席っていうのはまずないじゃないですか。本来であれば、入る作品があって、普通の入りの作品があって、そこをならした上で、月の売り上げになるわけですが、その「余裕」の部分が減ってしまった。なので、上映一回あたりの真剣さみたいなものは、より増した感じはあります。
── 再開後の番組編成については、どのように調整したのでしょう?
大槻 再開する際の番組については、5月の頭ぐらいにひとつ自分の中で方針みたいなものを決めました。途中で中断してしまった作品もあるけれど、まずは上映が予定されていたもの、つまり、まだ表に出ていない新作から始めようと。それで、本来であれば4月18日公開予定だった『タゴール・ソングス』と5月16日公開予定だった『島にて』からスタートして。あと、初日が出ていたものについては、なるべくズラさずやりましょうと。で、途中で上映が中断したものに関しては、ひと通り落ち着いた頃(8月中下旬)から、順次上映を再開させていただくということで、関係各所に話をしました。その方針を決めるまではちょっと悩みましたけど、決めて以降はまったく悩んでないし、今は決めた通りに動いています。
── 客席数は半分になってしまうけれど、旧作ではなく、まずはまっさらな新作から始めようと。
大槻 そうですね。この状況で新作から始めることに関しては様々な意見があるというか、過去のベストセレクション的なものから始めるというのもひとつの考え方だとは思うんですけど、それをやることによって「お祭り」みたいになってしまうのも、ちょっと怖いなっていうのもあって……。
── そこは難しいところですよね。アクセルとブレーキを同時に踏むような形で再開したところがあるので。
大槻 そうなんですよね。実際、キャパが半分……最初は半分以下からスタートしたので、そこでお客さんが溢れてしまったらどうしようというか、そこで責任を取れるのかっていう自問自答がありまして。で、そのキャパに収まるようにって考えると、積極的に「来てください」とはやっぱり言えないじゃないですか。あと、僕はやっぱり常々、街の映画館というのは、街のラーメン屋さんやパン屋さんと同じようなものだと思っているんですよね。なので、とにかく粛々と、予定していたことをやっていきましょうと。
── なるほど。再開後のお客さんの反応はいかがでしたか?
大槻 再開して最初の頃は、やっぱりお客さんの側にも、マスク着用とか飲食禁止等々モヤモヤした感じがあったと思うんですけど、2カ月経って、そういうものはなくなってきました。そこはすごく感謝しています。何かが起きてしまっては、元も子もないので。なので、6月の終わりぐらいからは、上映回数もちょっと増やして。まあ、本当にビクビクしながらやっている感じですよね(笑)。
“いつ公開するか”が一番大事
── そういう中で、6月13日からドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が公開され、こちらが大きな話題を呼びました。
大槻 おかげさまで(笑)。ある程度狙い通りと言ったら語弊がありますけど、都知事選が7月5日にあるのはわかっていたので、その公示日の一週間前に公開しようというのは、かなり前から決めていました。そこは絶対ズラさないようにしようと。やっぱり映画というのは、いつ公開するかが、非常に大事なので。
── とはいえ、客席数は半分なわけですよね。
大槻 そうなんです。で、「じゃあどうしようか」、「広げましょう」っていうことで。作品内容を考えて、永田町、千代田区だろうと、ヒューマントラストシネマ有楽町さんには、実はコロナ禍の前から同日公開の話はしていたんです。で、思った以上にうまくいって、そのあと立川、大森と拡大していって。「自分の劇場だけでやればいいのに」「変わってますね」みたいなことをよく言われますけど(笑)。
── それは珍しいパターンだったんじゃないですか?
大槻 珍しいのかな(笑)。『なぜ君は総理になれないのか』は、共同配給という形でうちが配給に入っていたというのはありますけど、僕はそんなに珍しいことではないと思っているんですよね。それは、自分のところで完全に引き受けられないことはやってはいけないというか、うちはキャパ100席の小さい映画館ですし、更に今はその半分。単純に独占して上映するのは、作品にとって良くないと思っていて。もちろん、無闇に広げて、館数だけ稼いで「全国150スクリーンでやりました」とか謳ってもも意味がないと思っているんですけど、他の映画館にご迷惑をかけない形で上映できるのであれば、観られる機会を増やしたほうが絶対いいだろうと。
── 今回、迅速な拡大公開に踏み切ったのは、本作が時勢を反映したドキュメンタリーであったことも関係しているのではないでしょうか?
大槻 それはあります。というか、どのタイミングで公開しようかっていう話は、この作品に限らず、上映を決めてからずっとし続けるんですよね。良い意味で、いつ公開してもいい映画っていうのはあると思いますけど、その時期にあったイシューやテーマというのは、やっぱりあると思うので。だから、いつ公開するかっていうのは、どの時間帯に何回やるのかと同じぐらい大事というか、そればっかりをずっと考え続けているようなところがあるんです(笑)。やはり、今、上映したほうがいいドキュメンタリー、今、観てもらいたいドキュメンタリーというのはあると思うので。
── 特に、本作のように、社会問題や政治を扱った作品の場合は、公開のタイミングが非常に大事ですよね。
大槻 そうですね。ヘタすると、その問題自体が既に過去のものとなっていることもあるので。もちろん、どの上映作品も、作品自体は面白いので、いつ観ても面白いとは思っているんですけど、より面白く観られる時期、旬のようなものはやっぱりあるというか。そこはすごく大事なところですよね。
オンライン上映だからこそできること
── そして、8月1日には、本作『なぜ君は総理大臣になれないのか』のオンライン上映も決定しました。
大槻 『なぜ君は総理大臣になれないのか』を配信でやらないかっていう話は、結構前から出ていたんですよ。ただ、僕がもうひとつやっている下北沢トリウッドで6月5日から公開した『ドロステのはてで僕ら』のときにやったような、公開初日合わせてのオンライン上映という形ではなく……その後、おかげさまで公開規模も拡大して、まだ公開しているところもあるわけで。そういう中で、どういう理由付けでやろうかなとは思っていて。実際、どの映画館も、客席が半分とはいえ、ちゃんと入っているんですよ。それで考えたのが、「たくさん入っているんだから、さらに多くの人に観てもらおう」っていうことだったんです(笑)。東京はともかくとして、映画館がない地域もあるだろうし、拡大上映と言っても、すべての都道府県で観られるわけではないので、そういう人たちにも観ていただく機会を、今回のオンライン上映という形で作りましょうと。そして感想はSNSに上がり、宣伝になるだろう、と。あと、もうひとつ配信の強みというのは、バリアフリーだと僕は思っているんです。身体が悪くて劇場に足を運べなかったり、やっぱりこういう状況なので、劇場に行くのは、まだちょっと心配だという方々も、配信だったら観てもらえるじゃないですか。その2つの理由で、今回オンライン上映をやりましょうということになったんです。
── さらに、今回のオンライン上映のあとには、本作の主人公である小川議員と大島監督、さらには映画の中にも登場する田崎史郎さんと、朝日新聞の記者である鮫島浩さんによるスペシャルトークも予定されています。
大槻 そうですね。そういうものは、本来だったら映画館でやるものなのかもしれないし、実際に舞台挨拶的なことは、これまでも積極的にやってきたんですけど、自分の中ではいつも、ちょっとモヤモヤしたものが残っていたんですよね。それを観てもらうのは、映画館にきていただいた人たちだけで本当にいいのか?っていう。もちろん、その現場にいたという「体験性」みたいなものは、すごい大事だとは思っているんですけど、それと同時に、こういう場所を、どこかで解放したいとはずっと思っていたんです。で、これは逆にいいチャンスじゃないかと。
── ポレポレさんは、舞台挨拶を積極的に行っている劇場としても知られていますが、最近の舞台挨拶は、単なる「挨拶」ではなく、トークイベントやティーチインに近い内容のものも多いですよね。
大槻 そうなんです。その映画のガイドになるものというか、そういうのがあってもいいなっていうのは思っていて。今回の配信についても、大島監督は、作品だけでいいんじゃないのかと思っていた時期もあったみたいですが、最終的には「トークイベント自体も面白くする!」っていう事になり。やっぱり、観たあとに疑問というか、「あれは何だったんだろう」とか「これはどういうことだったんだろう」とか、いろいろ知りたくなる映画ってあるじゃないですか。で、それは、誰かが、理想は作り手なのですが、引き受けられるといいな、と思うんです。もちろん、映画を観た人が、家に帰って自分で調べて、より深く理解するのが理想なのかもしれないですけど、その作品の見方や考え方みたいなものを少しアシストするだけで、その映画の理解度が全然違ったりすることって、やっぱりあると思うので。なので、何かそういうことが、今回のオンライン上映でもできたらいいなと思っているんですよね。
── 特に『なぜ君は総理大臣になれないのか』は、観たあとに、さらにいろいろ知りたくなる、語りたくなるような作品ですよね。
大槻 そうなんですよ。今回のトークイベントは、映画の主人公である小川議員はもちろん、監督の大島新さんに加えて、映画の中では、ある種、悪役のようになっていたジャーナリストの田崎さんと、それとはまた逆の意見を持っているであろう朝日新聞の鮫島記者にもご出演いただくので、かなり面白いものになるんじゃないかと思っています(笑)。
── ちなみに、こういったオンライン上映の試みは、今後も続けていく予定なんですか?
大槻 そうですね。オンライン上映は、コロナ禍に関係なく今後もやっていくと思います。今は客席が半分じゃないですか。で、このあと、「いつ戻すんだ?」みたいな話になっていくわけですけど、戻したところで変わらないというか、元と同じ状態には、きっとならないと思うんですよね。戻していきなり満席になるっていうこともないでしょうし。というか、となりの席に人がいない快適さに、みんな気づいてしまったわけで(笑)。
── そうなんですよね。あまり大きな声では言いにくい話ではありますが、それはそれで快適なんですよね(笑)。
大槻 快適なんですよ(笑)。快適なところを、わざわざ以前の状態に戻していくのかっていうと、多分戻らないと思うんですよね。以前の状態に戻るわけではないというか、戻るためには、人の気持ちそのものを変えなくちゃいけないので。そう考えると、より快適かつセーフティに映画を観る事がポイントになっていくだろうし、舞台挨拶のような、これまでクローズドだったものを、どういうふうに開放していくかも考えていかなくてはならない。今はそうやって、今後に向けた新しい取り組みを考える時間だと思うんです。そういう意味でも、本当の勝負は今ではなく、もっと先にあると思っているんです。
“元には戻れない” だからこそ……
── なるほど。今の話を含めた上で、これからポレポレ東中野は、どういう映画館を目指していくことになるのでしょう?
大槻 繰り返しになりますが、映画館が元の状態に戻ることはないと思うんです。一席空けということはないにせよ、どれぐらいの客席だったら安心を感じるか、っていうことを改めて考えなくてはいけないと思っていて。ただ、みんなが同じ場所に集まって、同じものを観て楽しむという行為自体は、以前よりもっと重要なものになってくるとは思うんです。だから、映画館という場所自体は大丈夫だと思っているんですけど、そのバランスを見つつ、どうやって快適により多くの人が集まれるような場所を作っていけるのかが大事だと思います。番組については、もともとドキュメンタリーを中心にやっているので、そこが劇的に変わることはないですが、鑑賞方法とか環境みたいなものを、ちょっとずつ変えていくことが、僕たちが次にする新しいことになっていくんじゃないかと。
── 先ほど言ったように、そこからが本当の勝負であると。
大槻 そうなるでしょうね。一応、現状としては、以前のあんまり良くなかった月ぐらいの数字ではあるんですけど、これがずっと続くとなると、なかなか大変だぞというのは、正直あって。ただ、そこで何をしようか、どんな新しいことをしようかって考えるのは、ものすごい楽しいことではあるんですよね(笑)。それは、これまでやってこなかったことに、きっとなると思うので。あと、これはコロナの前から思っていることですけど、昔ってものすごく大きい映画館がいっぱいあったじゃないですか。今、そういう劇場がどんどん減ってきて、東京のいちばん大きい劇場でも800席とか。
── 1000人クラスの劇場は、もう都内にないですね。
大槻 四桁の劇場は、ついになくなりました。で、それはもちろん、土地だの家賃の問題があるとは思うんですけど、お客さんの嗜好性の変化っていうのも、きっとあると思うんです。嗜好性が多様になってきて、大きい映画館で、同じ作品を大勢で観るよりも、小さい劇場でいろんな映画を提供していこうと。映画館は、そういう僕たちの気持ちの変化みたいなものにあわせて変わってきているので、今一度、映画館というものを考える時期なのかもしれないです。で、あとは配信ですよね。僕は、配信という新たな武器を持ったと思っているので、これをどうやって映画館と結び付けていくべきなのか、引き続き試行錯誤しながら考えていきたいと思っています。
取材・文=麦倉正樹
『なぜ君は総理大臣になれないのか』スペシャルトーク付きバリアフリー版上映会@PLS&uP!!!
配信スケジュール
8月1日(土)18:00開場
19:00本編上映開始 21:00本編上映終了、スペシャルトーク開始
22:00トーク終了予定
スペシャルトーク登壇者
小川淳也議員、田崎史郎(政治ジャーナリスト)、鮫島浩(朝日新聞記者)、大島新監督
※本編はバリアフリー版での上映(日本語字幕付き、音声ガイドは「UDCast」対応)
※8月2日(日)24:00までアーカイブでの視聴可能
配信プラットホーム
PIA LIVE STREAM:https://t.pia.jp/pia/events/pialivestream/
uP!!!:https://up.auone.jp
チケット料金1,800円(uP!!!から購入の場合、auスマートパスプレミアム会員は500円 引)
購入サイト
PIA LIVE STREAM:https://w.pia.jp/t/nazekimi/
uP!!!:https://up.auone.jp/articles/id/80593?ref=os
チケット販売中
本配信イベントのチケットは日本国内からのみ購入が可能となります。
チケット1枚につき視聴いただける端末は1台となります。第3者への譲渡・転売行為は出来ません。
スマートフォンやデジタルカメラ等による撮影および録音は一切、禁止いたします。
チケット御購入後は、配信延期・中止以外の理由による払い戻しは一切、いたしません。
インターネット回線の突発的なトラブルによる配信イベントの一時中断の可能性がある旨、ご了承ください。
お客様のインターネット環境に伴う閲覧の不具合については責任を負いかねますので、視聴前に必ず動画視聴に適した通信環境をご準備下さい。
※田崎史郎の崎はたつさきが正式表記