『半沢直樹』に彩を与える3人の女性 上戸彩、今田美桜、井川遥は暑苦しい画面の清涼剤に?
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男たちの暑苦しい(褒め言葉)戦いが画面を通して伝わってくるTBS日曜劇場『半沢直樹』。第1話~3話まで順調に視聴率を上げ、放送後のSNSなどでの盛り上がりも、前作を超えるような反響だ。そんななか、堺雅人演じる半沢直樹の妻・花役の上戸彩、半沢が出向した東京セントラル証券営業企画部の部下・浜村瞳役の今田美桜、そして半沢や渡真利忍(及川光博)が秘密の談合に使う小料理屋の女将・智美を演じる井川遥の女性陣が、三者三様の形でドラマに彩を与えている。
『半沢直樹』といえば、メガバンク内にはびこる権力争いに巻き込まれた半沢が、窮地に立たされながらも、銀行マンとしてのモラルやプライドに則り、巨悪と戦う姿が多くの人々の共感を得た。実際は、実の父親を見殺しにした大和田常務(香川照之)への恨みが半沢の大きな原動力になっていたのだが、それでも「やられたら倍返し」の精神で次々と悪を倒す姿は、大いなるカタルシスが得られた。
能天気を貫く、唯一の癒しの存在 花/上戸彩
そんななか、唯一と言っていい癒しの存在が妻の花とのシーンだ。メガバンクの銀行マンの妻として、婦人会なるものにも参加し、周囲とうまくやっていく如才なさはあるが、基本的には夫の会社内での立場や出世争いにはあまり興味がなく、常にマイペース。半沢が窮地に陥り、出向の話があっても能天気を貫く。
一方で、半沢の銀行に対する執着を心配し、夫の金沢の実家に行き詳細を探ったり、金融庁の立ち入り調査の際、半沢の自宅に捜査に来た局員に対して、毅然とした態度で接したりと、肝っ玉の据わった部分も持ち合わせている。
花へのオファーがあったとき、当時27歳だった上戸は、茶髪だったこともあり戸惑いもあったというが「銀行員の奥さんに見えなくていい。いまのままでいい」という監督からの言葉を信じて挑戦してみようと思ったことを制作発表会見で話していた。いわゆる「メガバンクで出世意欲の強い夫を支える妻」という、ある意味でステレオタイプの妻像を打ちこわし、天真爛漫さを強調した。「真面目とおちゃらけ」のバランスを考えながら演じているというのだ。
こうした型破りな妻像は、作品の持つドロドロした濃さの中和剤となり、物語の進行上、一見不要に感じられる夫婦のシーンは、良いアクセントになっている。新シリーズでも、これまで夫婦の場面は1話にほぼワンシーンだが、7年たっても変わらない花の能天気ぶりは、物語のよい箸休めになっている。
上戸といえば、明るく元気なパブリックイメージがあるが、映画やドラマでは意外と陰のあるようなキャラクターを演じることも多い。出世作となった『3年B組金八先生』(2001年、TBS系)では、性同一性障害に苦しむ生徒、『いつか陽のあたる場所』(NHK総合)では7年間刑務所に服役していた女性、そして『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)では、不倫にはまっていく主婦を演じた。そんな上戸が、自身のパブリックイメージを活かした明るく元気な妻を演じることで、より画に柔らかさが加わった。
紅一点で半沢らの戦いに食らいつく社員・浜村瞳/今田美桜
男だらけの東京セントラル証券のなか、紅一点で半沢らの戦いに協力しようと食らいついていく社員・浜村瞳を演じている今田。新シリーズの前に放送されたスピンオフ『半沢直樹 スピンオフ企画 狙われた半沢直樹のパスワード』(TBS系)で同役を演じ、本編でもそのままの出演となった。スピンオフでは、自身の仕事に悩みを持つ女性社員だったが、本編では地に足をつけて会社の一員として、半沢の力になろうと能動的に動く。老獪な登場人物が多いなか、脆さを抱えながら強く立とうとする清廉さは、花の役割とは違うものの、劇中において一服の清涼剤となっている。
今後どう展開していくか分からないが、第3話では、スピンオフで距離が縮まったスパイラルの天才プログラマー・高坂圭(吉沢亮)との関係性も少し垣間見ることができた。『半沢直樹』では、登場人物の恋愛模様が描かれることはほぼないだけに、この二人のやりとりには、ほのぼのさせられた。今田自身、“強い女の子”を演じることが多く、そのなかに弱さや脆さをどれだけにじませることができるのか……浜村の活躍と共に今田の演技にも注目が集まる。
味方なのか敵なのか、小料理屋の女将・智美/井川遥
もう一人、ドラマオリジナルキャラクターとして登場している小料理屋の女将・智美役の井川。こちらは現時点では、東京中央銀行の個人株主であることと、銀行の内部事情に詳しいということしか明らかになっていないが、渡真利や半沢が意味ありげな視線を智美に送っているところをみると、のちのち物語に大きく絡んでくる匂いがする人物だ。
井川と言えば、醸し出す雰囲気から“癒し系”として一世を風靡したが、女優としも数々の映画やドラマに出演。2013年にはNHKドラマ『ガラスの家』で連続ドラマ初主演を果たすと、妖艶な芝居を見せ、大きな反響を呼んだ。ちなみに本作には、オネエ黒崎こと片岡愛之助も出演していた。
智美は半沢にとって味方なのか敵なのか、まだ分からないが、前シリーズの壇蜜演じる藤沢未樹のような存在になり得る可能性もある。こちらも今後の展開に注目だ。
『半沢直樹』を彩る3人の女性。それぞれまったくタイプは違うが、彼女たちの視点から物語を見るのも面白いかもしれない。
■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。
■放送情報
日曜劇場『半沢直樹』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS