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東山奈央が様々なキャラクターと歩み続けた10年ーーキャラソンベストから“表現者”としての軌跡を辿る

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リアルサウンド

 声優・歌手の東山奈央が、自身の声優デビュー10周年を記念したキャラクターソングベストアルバム『Special Thanks!』を8月5日にリリース。本作には、これまで彼女が歌ってきた約250曲ものキャラクターソングの中から選ばれた25曲が収められている。さらにアニバーサリースペシャル盤には、出演作の主題歌3曲のカバーに加え、東山がひとりで複数キャラクターを演じ分ける朗読劇も収録。本稿では本作の収録内容に沿いながら、改めて東山の“声の表現者”としての魅力を掘り下げていきたい。

キャラクターの人間性が“見える”、歌声の持つ豊かな表現力

 東山は2010年に声優デビュー。その後、現在まで『マクロスΔ』(レイナ・プラウラー役)や『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(由比ヶ浜結衣役)、『ゆるキャン△』(志摩リン役)など様々な作品においてメインキャストを務め続け、2017年にはソロアーティストとしてもデビューを果たした。そんな彼女が演じてきたキャラクターは、特定のジャンルに偏らないバラエティ豊かなものばかり。それはファンであれば、本作に収録された曲のキャラクターたちの顔ぶれを見ただけでも再確認できるだろう。また、最近彼女を知った人でも本作を聴けば、その豊かさを感覚的に理解できるはずだ。

 まず、彼女の演じ分けスキルを誰もがわかりやすく感じられるのが、「進め!金剛型四姉妹」(TVアニメ『艦隊これくしょん -艦これ-』挿入歌)だろう。明るくアッパーなナンバーに乗せて、金剛・比叡・榛名・霧島の4艦を、声色だけではなく一音一音への着地の仕方まで明確に区別しながら表現している。この曲をDisc1の1曲目に置いたのは、東山の演じ分けスキルの伝わりやすい例示としての役割もあるのだろうか。

 だが、これはあくまでも入口。収録曲それぞれを聴いていくことで、この10年間、彼女がいかに多くのキャラクターを務め、その人生を生きてきたのかを強く感じることができる。

 となるとやはり外せないのが、彼女のデビュー作のひとつ『神のみぞ知るセカイ』で演じたアイドル・中川かのんだろう。本作にも収録されている「ハッピークレセント」は、彼女がヒロインを務めていた期間の挿入歌/EDとしても使用。さらに、楽曲・キャラクター両面の人気も相まって、同作のOVA版主題歌も担当。さらに2枚のオリジナルアルバムの発表や二度の単独コンサートの開催にまで発展したのである。

 その「ハッピークレセント」は、今改めて聴くと少し荒削りに感じる部分も多い。だがその反面、歌うことの勘所を掴んでからでは発露し得ない、いい意味でのイレギュラーなかわいさも見え隠れする。それが中川かのんというキャラクターと絶妙にマッチすることで“かのんちゃんが歌っている”姿が明確に浮かび上がるのだ。ちなみに前述した「ハッピークレセント」以降の楽曲では、いずれも中川かのんらしさがより濃厚になっているので、ぜひ本作と合わせてチェックしてみてほしい。

中川かのん starring 東山奈央「ハッピークレセント」

 アイドルとしてではなく、幼さ・無邪気さからくるかわいらしさが詰め込まれたのが「にんげんのうた」(TVアニメ『まおゆう魔王勇者』メイド妹役)。原作者・橙乃ままれも作詞に携わったこの曲において、歌詞が全て平仮名で表記されている意味を最大限汲み取っての表現がなされている。この他にもイノセントな歌声を響かせる曲は数あれど、幼さを突出させることで唯一無二の“メイド妹の歌”へと高めているのだ。

 そんなかわいらしさの対極にあるのが「ReSTART “THE WORLD”(Logos Art Form in Dark)」(TVアニメ『トリニティセブン』リーゼロッテ=シャルロック役)。デジタルサウンドのなか、ここでの歌声にはキャラクターに紐づくセクシーさが感じられる。しかもその色気が、あざとすぎないのだ。歌唱の流れのなか“そうなる”ポイントにおいて、息遣いのタイミングやボリュームのさじ加減などをもって、あくまで自然に色気を付加させている。だからこそ、何度聴いても曲中で自然とハッとさせられてしまう。

リーゼロッテ=シャルロック(東山奈央)「ReSTART “THE WORLD”(Logos Art Form in Dark)」

 その他にも「Heart Pattern」(TVアニメ『ニセコイ』桐崎千棘役)では、歌声だけでも浮かぶ千棘らしい跳ねっ返り感が反映されており、「わたしいろダリア」(TVアニメ『ハロー!!きんいろモザイク』九条カレン役)では天真爛漫な表情をみせるなど、とにかく一人ひとりが明確に“違う”のだ。それは、今回具体的には取り上げなかった、収録された全曲に通ずること。なので、仮に収録された曲のキャラクターに触れたことがなかったとしても、その歌声からどんな人物(=キャラクター)が歌っているのかが見えてくる。つまり、本作はただの記念碑的なものではなく、東山奈央の表現の的確さや繊細さを多くの人に再認識させる契機にもなっているのだ。

“真の原点”、水島精二と作り上げた朗読劇

 また、今回は元々ユニットとして歌われた曲から、ソロバージョンを新録したものも2曲収録。そのうち本稿では、「一度だけの恋なら ~Reina Solo~」に注目したい。原曲は戦術音楽ユニット・ワルキューレとして歌った、TVアニメ『マクロスΔ』のOPを飾った曲。原曲でもソロパートにレイナΔらしさが十分存在していたが、新録されたソロバージョンでのレイナ感は段違い。頭サビ、〈君の中で遊ぼう〉の“あ”の発音ひとつだけでも、口の開き具合までもが容易に想像できるのだ。それが1曲を通して徹底されているうえ、レイナΔのトーンに合わせて歌からセリフへと切り替えられた部分までも存在するこのバージョンは、ただの歌い直しなどでは決してない。レイナΔのソロとして、改めて作り込まれた1曲だ

 そして、通常盤と同時にリリースされた“アニバーサリースペシャル盤”では自身の出演作の主題歌3曲をカバー。加えて、収録された朗読劇「夢の軌跡」でも、彼女の表現を堪能することができる。

 「夢の軌跡」についてはネタバレにならないよう内容への詳しい言及は避けるが、本作は複数のメインキャラクターを東山がひとりで演じ分けたもの。年齢感も近く、どのキャラクターも個性をいたずらに際立たせたような存在ではないが、それを声色だけではなく喋り自体のトーンや言葉の裏に内包したものも含めて演じ分けており、“声優・東山奈央”の表現の巧みさを存分に堪能することができる。

 ちなみにこの朗読劇のプロデュースを担当したのは、アニメ監督・水島精二。実は彼が監督を務めた『鋼の錬金術師』が、東山が声優の道を志すきっかけとなった。そんな彼女の“真の原点”とも呼ぶべき存在とともに作り上げた、10年のキャリアを詰め込んだ20分あまりの朗読劇は、二重の意味で必聴と言えるだろう。

東山奈央 キャラクターソングベストアルバム『Special Thanks!』クロスフェード動画

 彼女が関わるキャラクターソングは、個人名義での表現とは違い、それぞれキャラクターとして歌う――いや、キャラクターとして“生きた”もの。彼女たちの心情吐露の手段のひとつとして、歌という形が取られているのである。本作は、20人以上の違う人生・命が宿った1枚であり、東山奈央が10年間、様々な作品で生き続けた結晶でもある。歌で、そして朗読で、彼女の表現にさらにどっぷり浸かってほしい。

■須永兼次(すなが・けんじ)
アニメソング・声優アーティスト関係を中心に活動するフリーライター。大学の卒論でアニソンの歌詞をテーマにするほど、昔からのアニソン好き。現在は『リスアニ!』『月刊ニュータイプ』や『TV Bros.』等に寄稿。