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本郷奏多、向井理、滝藤賢一 『麒麟がくる』戦国の“異端児”を演じる3名の役柄を解説

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 いよいよ放送が再開されるNHK大河ドラマ『麒麟がくる』。今晩放送される第22回「京よりの使者」は、1564年(永禄7年)の冬、越前(現在の福井県)の地よりスタートする。桶狭間の戦いから4年、明智光秀(長谷川博己)が越前に身を寄せてから8年――依然として牢人(主人を失い秩禄のなくなった武士)生活を送っている光秀のもとに、懐かしい人物が訪ねてくる。それをきっかけに、再び動き出す光秀の物語。

 そこで本稿では、今後の状況を大きく揺り動かすであろう3人の登場人物――今回初登場となる2人を含む3人の「異端児」について、その紹介も兼ねて改めて考えてみることにしたい。

近衛前久(本郷奏多)

 まず、今回が満を持しての初登場となる“若き破天荒関白”近衛前久(本郷奏多)だ。公家の家柄の頂点に立つ五摂家(近衛、九条、二条、一条、鷹司)の筆頭・近衛家の若き当主であり、正親町天皇(坂東玉三郎)を支える「関白」の地位にある前久。実はこの人物、只者ではない。『流浪の戦国貴族 近衛前久 天下一統に翻弄された生涯』(谷口研語/中公新書)といった書籍があるくらい、戦国時代を生きた「公家の異端児」として、歴史好きのあいだでは知られた人物なのである。

 『麒麟がくる』本編では描かれていないものの、上洛した長尾景虎(のちの上杉謙信)と盟約を結び、関白の職にありながら越後(現在の新潟県)に下向、さらにその後、景虎の関東平定を助けるべく、上総・下総に地に自ら赴くなど、公家らしからぬ行動力を持った人物なのだ。

 1564年と言えば、武田・北条の連合軍によって景虎の関東平定が叶わず、失意のまま京に戻ってきて数年後になるだろう。彼はその胸の内に、今はどんな野望を抱いているのだろうか。しかも本作における彼は、『麒麟がくる』のオリジナルキャラクターであり、諸国を回って人々を「繋げる」役割を果たしている旅芸人一座の女座長・伊呂波太夫(尾野真千子)の「弟分」という間柄であるようだ。恐らく、伊呂波太夫も関係してくるのだろう。今後、光秀や信長と親交を結びながら、最終的には「本能寺の変」にも何らかの形で関わってくると思われる近衛前久。朝廷と戦国大名たちを繋ぐ人物として今後大きな役割を果たすことが期待される、『麒麟がくる』後半戦のキーマンのひとりだ。

足利義輝(向井理)

 続いて、引き続きその動向が気になるのは、『麒麟がくる』の序盤から登場している“悲劇の剣豪将軍”こと、第13代将軍・足利義輝(向井理)だ。三淵藤英(谷原章介)、細川藤孝(眞島秀和)兄弟を従えながら、「武家の棟梁」たる将軍の権威を取り戻そうとする義輝は、長年の政敵である三好長慶(山路和弘)と和睦し、近江の地(現在の滋賀県)から再び京に戻ってくるも、もはや完全に長慶の傀儡と化している。その状況を誰よりも憂いながら、どこか自暴自棄な行動に出始めている義輝。その憂いの深さは、彼自身が「剣の達人」であることも関係しているのだろう。そう、開祖・足利尊氏を除いて、実は代々武芸から遠ざかっていた足利将軍家にあって義輝は、剣の道にその才能を開花させた、これまた異端の人物なのだ。

 2.5次元の舞台化もされた小説『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝/徳間文庫)など、“悲劇の剣豪将軍”として、実は一部地域で高いに人気を誇っている義輝。かつて、本能寺の前で初めて光秀と出会ったとき、「見事な太刀さばきじゃ。鹿島の太刀と見たが、そうか。我が師の太刀筋とよく似ている」という義輝の台詞があったけれど、ここで言う「鹿島の太刀」とは「鹿島神當流」を指し、「わが師」とは当時きっての剣豪として諸国に名を轟かせていた「塚原卜伝」を指していたのだろう。一説によると、卜伝から秘伝の奥義「一之太刀(ひとつのたち)」を伝授されたとも言われている義輝。しかし悲しいかな、いくら剣豪であっても多勢に無勢なのである。細川管領家はもとより、今やその部下であった三好長慶の傀儡に成り下がった自身の立場は、とても受け入れられるものではないのだろう。その消えゆく情熱に、再び火がともることはあるのだろうか。

 ちなみに足利将軍家は、のちに「天下五剣」と称される名刀(『刀剣乱舞』でもお馴染み)の4振(童子切安綱・鬼丸国綱・三日月宗近・大典太光世)を所持していたと言われている。『麒麟がくる』の中で、それらの刀剣を剣豪将軍・義輝が振りかざすことはあるのだろうか。一説によると、その最期は「三日月宗近」を用いていたとも言われているが……こちらも気になるところである。

足利義昭(滝藤賢一)

 そして最後に紹介するのは、義輝の実弟であり、近衛前久同様、今回が初登場となる“室町幕府最後の将軍”足利義昭(滝藤賢一)だ。家督を継ぐ嫡男以外は仏門に入れるという将軍家の慣例に従い、幼少の頃から奈良の興福寺に預けられ、一条院門跡「覚慶」として日々修行に励んでいる義昭。しかしながら、ある事件をきっかけに、彼の運命は大きく変化することになる。のちに信長と交流を深め(恐らくそこに光秀が絡むことになるのだろう)、さらには反目し、「信長包囲網」の首謀者として何度も信長の前に立ちふさがることになる義昭。今日では「信長を殺した男」ならぬ、誰よりも「信長を殺したかった男」として知られる義昭だが、初回登場時は、意外や意外、庶民に慕われる無私の仏僧として、駒(門脇麦)の前に現れるようだ。

 清廉潔白な身の上であった彼は、いかにして自らの内なる欲望に気づき、どのような心境の変化を辿っていくのだろうか。ちなみに、現在彼が身を寄せている興福寺は、筒井順慶(駿河太郎)が支配する寺社でもある。そう、松永久秀(吉田鋼太郎)は、その勢力を抑えるために主君・長慶から大和国に派遣され、興福寺を望む高台に自らの城・多聞山城を築いたのだ。

 新たな解釈のもと、従来の明智光秀のイメージを刷新することはもとより、実は「戦国時代を室町幕府の崩壊という新たな視点で描く」ことが、大きなテーマのひとつでもあるという『麒麟がくる』。前半戦同様、持ち前の行動力で上記3人をはじめとするさまざまな人物たちのあいだを慌ただしく行き来しながら、「麒麟がくる」太平の世を目指して奮闘していくであろう明智光秀は、果たしてどのタイミングで、信長と行動を共にするようになるのだろうか。そして、光秀の終生のライバルとなる木下藤吉郎(のちの豊臣秀吉)は、どの時点で彼と相まみえ、その人生に色濃い影響を与えていくのだろうか。天下統一を目指して、諸勢力がいよいよ本格的に動き始める『麒麟がくる』。率直に言って、非常に楽しみなのである。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twitter

■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00〜放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00〜放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin