時間は逆戻りする可能性がある? ホーキング博士の最後の弟子がとなえる、驚異の最新物理学とは
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『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター』、『ドラえもん』に『テルマエ・ロマエ』など、「タイムトラベル」をモチーフとした作品は枚挙に暇がない。それだけ人は過去や未来に憧憬を抱いているわけで、読者の中にも「あの時にああしていればなぁ」だとか「昔の自分に教えてやりたい」といった空想に耽ることのある人も少なくないはずだ。しかし言うまでもなく、時間の流れというのは厳としてあり、戻ることも先行くこともできないというのが常識である。もしそんなことができると真顔で言おうものなら、つまらない冗談だと思われるのが関の山だろう。……のはずなのだが、現代科学の最前線ではどうやらそうでもないらしい。少なくとも「時の逆戻り」については、可能性があると真顔で言ってのける学者たちがいる。
「時間が逆転する現象」がとらえられた?
本書『時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて 』(ブルーバックス)の著者もその一人。あのスティーヴン・ホーキング博士の薫陶を受けた物理学者で、本書では最新の理論物理学を用いながら、「時が戻る」可能性について考察している。
時が戻る。本当だとしたら夢のような話だが、そもそも時の流れは絶対不変ではなく、状況によって伸び縮みするということは、アインシュタインが100年以上前に発見している。本書ではその相対性理論を手始めに、量子力学、エントロピーなどを「時間を考えるための物理学」として紹介。その上で、最新の物理学に論を進め、「時の逆戻り」の可能性について考えていく。
超弦理論やループ量子重力理論、また宇宙論を専門とする著者はこうした理論から展開される宇宙像にも触れる。時間について考える時、宇宙は切っても切り離せないからだ。そこで語られるものは、「時間は戻らない」というごく当たり前の認識を覆すものばかりである。
宇宙が膨張と収縮のサイクルを繰り返しているとするサイクリック宇宙では、その収縮時に宇宙全体の歴史が逆戻りする可能性があるという。しかも現在の宇宙は、すでにそのサイクルを50回程度繰り返しているという説もあるそうだ。また、ループ量子重力理論では時間の概念そのものを否定している(この理論を提唱するカルロ・ロヴェッリは『時間は存在しない』という著書も出している)。その他にもダークエネルギーやダークマター、ブラックホールの存在など、まだ人類が解明できていない宇宙のさまざまな要素において、時間の逆転という現象はあり得る話なのだという。
実際、2019年には量子コンピューターを用いた実験で初めて「時間が逆転する現象」がとらえられたそうだ。これは量子レベルで観測されたもので、人間が生身で認識する世界に当てはまることではないが、少なくともミクロの世界ではそれが起こることがわかったのだ。
どれもにわかに信じられないことだが、著者はこう言う。
宇宙では、常識を超えたこと、想像を超えたことが、あたりまえのように起こっているのをしばしば目のあたりにします。宇宙とは、まさに何でもありと言えるほど可能性にあふれた世界です。
著者も断っているとおり、まだ実証されていない説も多々紹介されているが、眉唾モノも含めて、物理学や宇宙論の前線でどのような研究がなされ、どのようなことが提唱されているのかということが紹介されている点でも興味深い一冊だ。また、本書は「時の逆転」をテーマにしながら、物理学の世界を広く旅するような側面もあり、この分野をかじってみたい人にもオススメ。アインシュタインとホーキングを自分にとってのロックスターと位置づけ、いつかは武道館で宇宙について講演するのが夢だとする著者のユーモラスで平易な語り口も小気味良く、師であるホーキング博士とのエピソードなど、時に本筋を外れながら語られるエッセイも本書の魅力的な要素になっている。
■熊谷和樹(くまがい かずき)
1985年生まれ。ライター/編集者/カメラマン。元「アコースティック・ギター・マガジン』(リットー・ミュージック)編集部所属。現在は音楽MVのディレクション、音楽系メディアを中心にライターとして活動中。
■書籍情報
『時間は逆戻りするのか 宇宙から量子まで、可能性のすべて 』
高水裕一 著
価格:本体1000円+税
出版社:講談社ブルーバックス
公式サイト