川崎鷹也「魔法の絨毯」リリースから2年経ってバイラルTOP10に カバーによって再発見された“サブスク時代のヒット曲”
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参考:https://spotifycharts.com/viral/jp/weekly/latest
Spotifyの「バイラルトップ50(日本)」は、最もストリーミング再生された曲をランク付けした「Spotify Top 50チャート」とは異なり、純粋にファンが聴いて共感共有した音楽のデータを示す指標を元に作られたプレイリスト。同チャートを1週間分集計した数値の今週分(8月27日公開:8月20日~8月26日集計分)のTOP10は以下の通り。
1位:米津玄師「Lemon」
2位:米津玄師「馬と鹿」
3位:米津玄師「ピースサイン」
4位:米津玄師「Flamingo」
5位:米津玄師「パプリカ」
6位:もさを。「ぎゅっと。」
7位:米津玄師「海の幽霊」
8位:川崎鷹也「魔法の絨毯」
9位:米津玄師「LOSER」
10位:オレンジスパイニクラブ「キンモクセイ」
依然チャートを席巻している米津玄師。日本を代表する若手シンガーソングライターともいえる米津玄師だが、そんな彼に挑戦するかのごとくチャートを駆け上っているのが川崎鷹也「魔法の絨毯」だ。
川崎鷹也は1995年生まれのシンガーソングライター。米津玄師と同じ90年代生まれのシンガーソングライターである彼が今週のバイラルチャートで真っ向勝負を仕掛ける格好になった。米津玄師の代表曲「LOSER」をおさえて8位にランクインした「魔法の絨毯」はどのような楽曲なのだろうか。
まず、特筆すべきは「魔法の絨毯」は2018年にリリースされたアルバム『I believe in you』に収録されている楽曲であるということだ。このアルバムは川崎鷹也が所属していた音楽プロジェクト「Bocco.」が2017年に解散した後に初のソロプロジェクトとしてリリースされた作品である。「魔法の絨毯」のようにリリースから約2年が経過した楽曲にあらためてスポットライトがあたることは非常にめずらしいのではないだろうか。その要因としては複数考えられるものの、Spotifyに代表されるような音楽サブスクリプションサービスの普及とSNSによる口コミ効果が起点となっていることは間違いない。
過去の楽曲に気軽にアクセスできる音楽サブスクリプションサービスは最新楽曲に偏りがちなチャートの構造を大きく変容させた。これまでCDショップなど小売店を主な接点としてきたリスナーは店頭の目立つ場所に陳列された最新楽曲や在庫の確保されたすでに人気を獲得しているアーティストのCDに触れることはできるものの、リリースから年月が経過し、ましてやリリース当時あまり注目を浴びなかったアーティストのCDを手に取ることは難しかった。しかし、音楽サブスクリプションサービスの登場以降、楽曲が配信さえされていれば全ての楽曲に対して平等にアクセスができるようになった。過去楽曲も最新楽曲と同列に並べられるだけでなく、再生回数さえ多ければ、最新楽曲より上位に表示されることさえありえる。このように音楽サブスクリプションサービスの登場と普及により過去の楽曲であってもチャートインしやすい環境が整ったのだ。
また、SNSによる口コミの拡散効果も忘れてはいけない。いくら音楽サブスクリプションサービスで楽曲が配信されていたとしても、人々に気づかれなくては意味がない。知名度の乏しいアーティストの過去の楽曲をなんのきっかけもなく聴き始めるリスナーはまれな存在だろう。「魔法の絨毯」の場合、YouTubeやTikTokといった動画系SNSが火付け役となったように見受けられる。さまざまなYouTuberや歌い手が「魔法の絨毯」のカバーを投稿しており、その数は増え続けているのだ。カバーされた「魔法の絨毯」を聴いたリスナーが楽曲の素晴らしさに突き動かされ、原曲に立ち戻り、川崎鷹也の「魔法の絨毯」にたどり着いたのではなかろうか。一度火がついてしまえば驚異的な速度で拡大するのがSNSの特徴。すでに原曲である川崎鷹也の「魔法の絨毯」はSpotifyだけでなくYouTubeやTikTokでも再生数を伸ばしており、まだまだその勢いは衰える様子がない。
ヒット曲は時の流れに淘汰され、耐え忍ぶことができた一握りの楽曲だけが「名曲」となる。川崎鷹也の「魔法の絨毯」は現代の音楽市場を取り巻く構造が見つけ出した「忘れられかけた名曲」なのではないだろうか。
■Z11
1990年生まれ、東京/清澄白河在住の音楽ライター。
一般企業に勤務しながら執筆活動中。音楽だけにとどまらず映画、書籍、アートなどカルチャー全般についてTwitterで発信。ブリの照り焼きを作らせたら右に出る者はいない。
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