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『キミスイ』は“浜辺美波史”に欠かせない作品に 努力が結んだ主人公・桜良との“共鳴”

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リアルサウンド

 映画『君の膵臓をたべたい』は住野よるのベストセラー小説を実写化したもの。膵臓の病に冒された少女・山内桜良(浜辺美波)と、彼女のクラスメイトで他人に興味がなかった「僕」こと志賀春樹(北村匠海)の出会いと別れが美しい映像とともに紡がれる。

 物語は、ある日偶然、桜良の「共病文庫」(闘病日記)を手にして彼女の秘密を知った「僕」が、快活な桜良に巻き込まれるようにして共に日々を過ごす――というもの。ふたりは友達とも恋人とも言えない関係になり、お互いにかけがいのない存在となる。僕は君のようになりたい、私は春樹のようになりたい。ふたりの関係を象徴するキーワードが「君の膵臓をたべたい」だった。

 内省的な少年を繊細に演じた北村匠海は素晴らしかったし、原作では描かれていない12年後の主人公を抑えた芝居で演じて物語の骨格を支えた小栗旬、同じく12年後に真実を知って感情を爆発させる桜良の親友・恭子を演じた北川景子も本当に良かった。北川が泣くシーンで月川翔監督が自分も泣いてしまってカットをかけ忘れ、北川がアドリブのセリフでつないだというエピソードもあったそう(参照:「君の膵臓をたべたい」浜辺美波×北村匠海×北川景子×小栗旬×月川翔インタビュー|映画ナタリー)。舞台の一つである雰囲気たっぷりの図書館は、いつか一度訪れてみたいと思わせる場所だ(ロケ地は『けいおん!』の舞台だった旧豊郷町立豊郷小学校)。

 それでも映画版の最大の魅力は、桜良を演じた浜辺美波の存在に尽きる。“透明感あふれる美しさ”とは使い古された表現だが、この映画の彼女の姿を見れば、「ああ、これが透明感というものか」と納得することができるだろう。

浜辺美波とヒロイン・桜良が「共鳴」

 現在、横浜流星とともにドラマ『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)に主演している浜辺は、人気、実力ともに現在の若手女優のトップグループをひた走っている。今冬には主演映画『約束のネバーランド』も公開待機中。今、一番朝ドラ主演に近い女優だと思っていたが、近い将来大河ドラマに主演してもおかしくないポテンシャルだと思うようになってきた。先日20歳を迎えたばかりだというのが信じられない。

 小学生の頃にデビューし、着実にキャリアを積み重ねてきた浜辺の名前と存在を広く一般に知らしめたのが、『君の膵臓をたべたい』だろう。彼女が演じた桜良という役は、明朗快活なクラスの人気者。コロコロとした声、小動物のような仕草、そして何より印象的なのが目を思いっきり細めて口角がキュッと上がる大きな笑顔だ。

 登場シーンは図書館を訪れた12年後の「僕」が桜良の姿を幻視するというもの。含み笑いしながら本棚から本棚へと隠れる様子、そして12年前の「僕」のほうを振り向いて見せる柔らかな日差しに包まれたビッグスマイル。「いたずらっぽい」というフレーズを形にしたらこうなるんだろうな、と思わせる桜良のファーストインパクトは、映画『君の膵臓をたべたい』の主人公は彼女だと強く印象づける(原作小説の主人公はまぎれもなく「僕」のほうだった)。

 いつもクラスの中心にいて友人も多い桜良は、他人に興味を持たず関わりあうこともない「僕」とは対極の存在。そんなふたりが、偶然をきっかけに急速に距離を縮めていく。主導権を握るのはいつも桜良のほう。北川は桜良の役柄について「ともするとあざとくなってしまったり、女の子に嫌われちゃうキャラクター」と語っているが、浜辺の演技を「媚びているようにも見えず、説明的にもならず、女性から観てもかわいいと思えるお芝居をしている」と評価する(引用:映画ナタリー同)。

 当時、桜良と同じく現役高校生だった浜辺の等身大の演技かと思いきや、「桜良みたいに明るくて男女問わず好かれているような存在にはあこがれますし、私は静かなタイプで真逆です」とのこと(引用:『君の膵臓をたべたい』浜辺美波&北村匠海&北川景子&小栗旬 単独インタビュー|シネマトゥデイ)。今ではコメディエンヌとしての才能も評価されるが、このときはコミカルでテンポの良い会話がまったく上手くいかずに何度もテイクを重ねたという。桜良の人物像は、役柄に思いをめぐらせ、リハーサルにリハーサルを重ね、緻密に演技を組み立てていった浜辺の努力の結晶だといえる。

 病院で偶然「共病文庫」を手にした「僕」に対して、桜良が「私は膵臓の検査。診てもらわないと死んじゃうから」と言いつつ、いつもと変わらぬ大きな笑顔を見せるシーンがある。映画の後半でこの笑顔は平静を装ったふりだったことが明らかになるが、同時に同級生の秘密を知っても動じない「僕」のことを知った驚きと喜びもないまぜになった笑顔になっている。何重にも意味が含まれた笑顔を、さわやかに演じているシーンだった。浜辺自身は自らの演技をこう振り返っている。

「楽しい時には病気のことさえ忘れて心の底から楽しいと思っているような笑顔を心がけました。それでいて天真爛漫なだけじゃない、死と向き合っている女の子でもあったので、ふとした時にそばにある孤独や恐怖を常に忘れないようそちらも気にかけていました」(引用:シネマトゥデイ同

 青い光が印象的な病室でのシーンでは、天真爛漫さと死への恐怖などがないまぜになりつつ、桜良の健気さ、気丈さ、なにより病室を訪れてくれた「僕」への信頼が笑顔という形で表現されていた。病室での夜、運命めいたことを言って「そうじゃなくて!」と「僕」から強く言われたときの得も言われぬ無言の表情から、「心配している」とストレートに告げられたときの控えめな笑顔なども見事なものだった。浜辺自身は、明るく振る舞っているシーンに比べて、病室でのシーンでは演じながら桜良の弱さに自分との近さを感じて、とても演じやすかったと振り返っている。彼女はそのときのことを役柄に「共鳴した」と表現していた(参照:【インタビュー】浜辺美波×北村匠海 心震わせ結んだ絆「自分の演技で泣くなんて…」 | cinemacafe.net)。

 ナチュラルなようでいて、実は努力と苦労を重ね、その上で「共鳴」を感じながら演じた桜良という役柄に、浜辺自身もひときわ愛着を持っている様子。今なお成長途上にある彼女の努力の結晶が美しくパッケージされた映画『君の膵臓をたべたい』は、今後「浜辺美波史」を振り返るときに欠かせない作品になるに違いない。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『君の膵臓をたべたい』
日本テレビ系にて、9月4日(金)21:00〜23:14 ※放送枠20分拡大
出演:浜辺美波、北村匠海、大友花恋、矢本悠馬、桜田通、森下大地、北川景子、小栗旬
原作:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社刊)
監督:月川翔
脚本:吉田智子
(c)2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会 (c)住野よる/双葉社