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『MIU404』最終回は驚きの展開に 制作陣の攻めるクリエイター精神とキャストの熱演に圧倒される

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リアルサウンド

 ラストエピソードはまさかの2パターン! 『MIU404』(TBS系)の最終話は、機動捜査隊404号のコンビ、伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)が、テロ発生のフェイクニュースを流して警察を混乱させ、そのすきに姿を消した久住(菅田将暉)を探し、停泊中のクルーズ船にいた彼とついに対面した。最初に久住と接触したのは、行動先行型の伊吹。久住のせいで同僚の陣馬(橋本じゅん)が意識不明の重体になっており、それを許せない伊吹は最悪の場合、ちゃんとした捜査手順を踏まずに久住と刺し違える気でいた。しかし、船内でドラッグを精製していた部屋に囚われ、意識を失ってしまう。その直後、伊吹を追ってクルーズ船に乗り込んだ志摩もドラッグを吸わされて昏睡。そのあとの展開がすごかった。

 最初に提示された展開は、まるで映画『セブン』(デヴィッド・フィンチャー監督)のようなバッドエンディング。志摩が夜中に目覚めて久住に銃を向ける。頭脳先行型の志摩もまた刑事を辞めてでも久住を倒す決心をしていたのだ。しかし、久住の仲間(突然出てきた外国人!)に背後から撃たれてしまう。その後に覚醒した伊吹は血まみれの志摩を見つけ、『セブン』のブラッド・ピットのように「ぐぐぐ…」と憤怒に駆られ、死に際の志摩に「(久住を)殺すな」と言われたが、久住を撃つ。久住は倒れてあっさりと死んだ。志摩も死んだ。これで伊吹は刑事の職を失うだろう。「わー、最悪の展開」と、頭を抱えた人も多かったのではないだろうか。

 ところが、そのまま1年後、2020年の東京オリンピックが開催された世界線へ進んだと思ったら、『木更津キャッツアイ』(TBS系)のように時間が巻き戻され、違うパターンの展開が始まった。伊吹と志摩がクルーズ船に乗り込んだ日、元4機捜の九重(岡田健史)は相棒だった陣馬の見舞いに来ていた。そのとき、陣馬が意識を取り戻し、喜んだ九重は伊吹のスマートフォンに何度もメッセージを。バイブレータ設定がしてあったのか、スマホが動いて台から落ち、音に敏感な伊吹はそれで目を覚ました。志摩が死に久住を撃った記憶がある伊吹は恐る恐る周囲を見回すと、志摩の無事な姿が目に入り、喜びながら志摩を起こす。ドラッグのせいでお互いに「最悪な夢を見ていた」という2人。血まみれの志摩は、伊吹だけが体験したバッドトリップだったのだろうか。それとも志摩も同じ夢を?

 その後は刑事ドラマらしいアクション満載の追跡劇に。久住の逃げ込んだ屋形船に追いつく伊吹の脅威の走りっぷり、赤いMTBで久住を追う志摩、九重の運転する4号車ことメロンパンカーも久住の行方をふさぐ。久住は自分から橋に頭をぶつけるなど最後まで悪あがきをするが、結局は逮捕され、本名不明のまま収監されることに。いろいろあったが、4機捜のメンバーをはじめ、誰も死ななかったので、こちらはハッピーエンドだ。その後、再び1年後になって、オリンピックが延期された世界でマスクをした伊吹と志摩が登場するので、こちらが物語上でも「現実」の世界だとするのが素直な解釈だろう。しかし、こちらが夢で、実際にはバッドエンドだったのかもしれないという不穏さは残る。

 ちなみに久住の生い立ちについても、自分が語っていたように10年前の大災害ですべてを失ったと見るのが素直な解釈。ニュースの「復興五輪」という言葉に反応したことからもそう思えるが、そうだとしてもなぜ警察に敵意を持つのかということは謎のままだ。

 これまでリアリティ路線を貫いてきただけに、やや唐突感もある“デッドオアアライブ”の2ルート。しかし、既に第3話から登場していた違法ドラッグという伏線や、やはり第3話から提示された「(人間は)なにかのスイッチで進む道を間違える。その時が来るまで誰にもわからない」(志摩のモノローグ)という人生観から、納得できる展開に。もし、陣馬が目を覚まさなかったら、陣馬と九重が心を通わせていなかったら、九重と伊吹がメッセージアプリでつながっていなかったら、なにかひとつでも人間関係に欠落があったら、伊吹と志摩は覚醒することなく、久住のもくろみどおり海の“藻くず”になっていたのかもしれないのだ。バッドエンドとハッピーエンドは常に表裏一体である、ということか。

 しかし、伊吹と志摩が絶妙に補い合っているように、ひとりひとりは完璧にはなれないが、誰かと関わりあい、力を合わせることで何かを達成できることはある。九重が成川(鈴鹿央士)を救ったように、誰かを助けたり優しくしたりすることで相手が立ち直る勇気を持つこともあるし、「メロンパンカーはテロリストの車」というデマがこれまで関わった人々の情報提供で打ち消されたように、声を挙げることで世間の認識が変わることも。もちろん、久住の仕掛けた虚偽通報のせいで何人かの救援が間に合わなかったように悪い方に転ぶこともある。

 そんな中、警察官は、桔梗隊長(麻生久美子)が言ったように「小さな正義をひとつひとつ拾ったその先に、少しでも明るい未来がある」と信じて仕事していくしかないのかもしれない。ラスト、第10話で久住を取り逃がしたことを選択ミスとして後悔していた志摩が「毎日が選択の連続、また間違えるかもな」とぼやきつつ、伊吹の顔を見て「間違えてもここからか」と言うなど、精神的にひと回り強くなっていたのも印象的だった。

 そして、最終回はとにかくキャストの演技が素晴らしかった。菅田将暉は、志摩に“メフィストフェレス”と例えられたように相手の心のすきにつけ入り誘惑する悪魔のような久住を、一見、とても人間くさく、しかし内面に虚無を抱えた存在として怪演。(夢の中かもしれないが)志摩に銃を突きつけたれたときには笑みを消し、屋形船で逮捕された瞬間、すべての虚飾を捨て素の自分に戻ったときの表情など、落差のある演技が印象的だった。綾野剛は、恩師・蒲郡(小日向文世)がとらわれた復讐心にシンクロしそうになり、志摩にコンビ解消を言い渡されても、刑事としての自分を保とうとする伊吹を熱演。マイルドヤンキー的なオラオラ感はキープしつつ、相棒の裏切りも受け入れ、久住のことも理解しようとするなど、単なる熱血バカではなくなった伊吹の成長ぶりを見せた。このドラマを通して、視聴者が誰に共感し、誰の目線で物語を見ていたかというと、それはやはり綾野が見事に生きたキャラクターにした伊吹ではないだろうか。また、星野源が演じた志摩は“正しい刑事”であることに疲れ、しかもそれが「バレバレ」(伊吹)で、結局、伊吹にも九重にも桔梗にも糸巻(金井勇太)にすら心配されてしまう。そんな“めんどくさい”感じは『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)、綾野と共演した『コウノドリ』(TBS系)でも見せたいかにも星野らしい演技。また、ドラッグでトリップし意識が混濁しているときの芝居はうますぎた。

 他にも、九重はドラマ序盤ではツンツンしていたのに博多弁を解禁したあたりから一気にかわいくなり、最終回では年上のおじさんたちにデレまくり。そんな萌えポジションを岡田健史がキラキラとしたイケメン力全開で演じた。麻生久美子が演じる桔梗は、警視庁の上司たちと折衝しながら警察官としてのモラルを貫く姿が最後までかっこよかった。本作のインパクトが強すぎて、もう『時効警察』(テレビ朝日系)の婦人警官・三日月には戻れない!? 陣馬役の橋本じゅんも、万人に復活してよかったと思わせる、ばつぐんの愛され感があった。

 脚本の野木亜紀子は、結末(2020年)に新国立競技場を登場させ、最後にコロナ禍にある“現在のリアル”とリンクさせた手腕がお見事。『MIU404』と同じく4月始まりだったはずが感染拡大の影響で放送開始延期となった春ドラマは、どれもその現実と乖離し、あえて描かず「パンデミックのなかった世界」としてパラレルワールドのように見せたが、やはり野木作品はそうはならなかった。そのクリエイターとして“攻める”姿勢に拍手を贈りたい。きっと私たちは2020年の出来事と共にこのドラマのことを記憶しつづけるだろう。「あの夏、『MIU404』があった」と。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太 / 
菅田将暉、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS