Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 『MIU404』を印象的なセリフで振り返る “表の世界”を築くためのヒントに

『MIU404』を印象的なセリフで振り返る “表の世界”を築くためのヒントに

映画

ニュース

リアルサウンド

 富める者が悪事を働いてまた富を築き、貧しい者は吸い上げられてまた貧しくなっていく。国も世間も弱者に厳しくあたる、真実も道徳も動作しない理不尽な日本社会の中で、見えなかった(Not Found)ことにされる人々の小さな声に耳を傾け、法を守りながら彼らを救って未来を築こうと奮闘する「404」の物語だった『MIU404』(TBS系)。

 「プライムタイムの民放ドラマで堂々と社会問題を扱うこと自体に意義がある」(引用:「MIU404」最終回目前に脚本・野木亜紀子氏を直撃取材! | TVガイド)と言い切る野木亜紀子の脚本は、日常にはびこる理不尽な問題に切り込み、人と人がかかわることで起こる人間ドラマを描きつつ、息つく暇のない「機捜エンターテイメント」に仕上げる見事なものだった。

 ここでは1話から11話を振り返って、印象的なセリフ、ドラマのテーマに深く関わっているセリフなどを取り上げてみたい。

「機捜っていいな。誰かが最悪の事態になる前に止められるんだよ。超いい仕事じゃ~ん! なっ」
伊吹藍(綾野剛)

 第1話であおり運転事件を解決し、行方不明になっていた老婦人(平野文)を探し出してから伊吹が軽い調子で言ったもの。誰かが最悪の事態になる前に「スイッチ」になって元の道に戻すという機捜の役割そのものが『MIU404』全編を貫くテーマとなった。

 志摩一未(星野源)は平静を装いつつ内心では感動しており、最終回で久住(菅田将暉)を逮捕した後、「最悪の事態になる前に俺たちが止めた」と言っていたのは伊吹のこの言葉を受けたものだった。

「あいつがしたことをわからせて、僕がこうなった責任を、あいつが取るべきなんだ!」
加々見崇(松下洸平)

 幼少期に父親から虐待を受け、ネットカフェ難民を経てようやく就職した先で上司からパワハラを受けて、はずみで殺してしまった加々見の悲痛な叫び。「あいつ」とは父親を指すが、加々見のような若者を搾取し、彼らにツケを回して逃げ切ろうとする父親世代全体を指しているようにも聞こえる。

 加々見を信じたのは、息子を信じることができずに死なせてしまった初老の夫婦(鶴見辰吾、池津祥子)だけだった。最終回でメロンパン号の無実を証言した彼らのSNSアカウントは「shinnzirukimochi(信じる気持ち)」だった。

「誰と出会うか、出会わないか。この人の行く先を変えるスイッチは何か」
志摩一未(星野源)

 タイトルどおりシリーズ全体の「分岐点」となった第3話で志摩が九重(岡田健史)に語った言葉。誰かが罪を犯すのは、必然ではなく偶然の要素が大きい。誰と出会うか、誰の言葉に従ってしまうのか。一度避けても、また違う障害が現れることもある。『MIU404』は市井の人々の「スイッチ」をめぐる物語だった。

 なお、志摩がこのとき説明に使っていた「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」は、もともと機械化に突き進んだ世界のいびつさと複雑さを風刺するために考案されたものだった。いびつで複雑な世界の中で、我々はいくつもの「スイッチ」に遭遇することになる。そのとき、誰が助けてくれるのか、自分はどんな道を歩むのか。


「私はそれを、彼らが教育を受ける機会を損失した結果だと考えてる。社会全体でそういう子どもたちをどれだけ掬いあげられるか。5年後、10年後の治安は、そこにかかってる」
桔梗ゆづる(麻生久美子)

 第3話で交わされた少年犯罪についての会話での桔梗の言葉。彼女はいつも弱者に寄り添い、あるべき未来を見据えている。それでいて自分たちの役割に真摯でごまかしがない。「自己責任」という考え方と他罰的な風潮が蔓延する日本の社会の中で放たれる彼女の言葉は、『MIU404』という作品が発するメッセージに聞こえる。

 また、桔梗には「顔で隊長になってない」「古くっさい男社会の中でめげずにきっちりやってきた人の努力をさ、なんだと思ってんの」など、組織や社会の中で女性だからというだけで攻撃される立場を代表したストレートな言葉も多かった。

「弱くてちっぽけな小さな女の子」
「逃げられない何もできない」
「そんなの嘘だ」
「自由になれる」
「わたしが助ける」
「最後にひとつだけ」

青池透子(美村里江)

 裏カジノの罠にかかって風俗嬢にされた上、裏カジノで働いていたところを逮捕された青池透子。銃撃されて余命を悟った彼女の一世一代の「賭け」は、暴力団から持ち逃げした大金を女子児童慈善団体に寄付することだった。

 慈善団体のポスターには「恵まれない少女たち、なんて呼ばないでほしい」「あなたの支援は少女たちを差別や貧困から救ってくれる」と記されていた。青池の寄付は「逃げられない少女たち」の「スイッチ」になるはず。泥沼の中で見つけた希望の光。

「ジャパニーズドリームは全部嘘だ!」
水森祥二朗(渡辺大知)

 社会問題への切り込み方が深かったのが、外国人技能実習制度を扱った第5話だ。長時間労働、最低賃金違反、暴力、パワハラなどの問題だけでなく、その背後にある民間のブローカー、監理団体の存在にまで踏み込んでみせた。

 「理不尽には理不尽で返せ」とコンビニ強盗を煽動していた日本語学校の事務員・水森は、最後に自らコンビニに押し入り、わざわざ人目の多い場所まで逃げて、顔を晒しながらこう叫ぶ。「日本人だ! 強盗した俺は日本人だ!」。

「玉突きされて入った俺が、404で志摩と組むことになって、二人で犯人追っかけて、その一個、一個、一個が全部スイッチで! なんだか人生じゃん! 一個一個、大事にしてえの。諦めたくねえの」
伊吹藍(綾野剛)

 「相棒殺し」の汚名を着せられた志摩の過去を探るため、伊吹が桔梗に語った言葉。伊吹藍という人物のまっすぐさ、純粋さがよく表れているが、彼が大事にしていた蒲郡慈生(小日向文世)との出会いという「スイッチ」がその後どうなってしまったのかを考えると、彼の絶望の深さが垣間見える。

 綾野の名演とともに心に深く残るとともに、聞くたびに自分は「スイッチ」を一個一個、大事にしているのかどうか自問してしまうセリフだった。

「法を守らずに力をふるったら、それは権力の暴走だ!」
志摩一未(星野源)

 志摩が証拠を捏造したかつての相棒、香坂義孝(村上虹郎)に向かって叫んだ言葉。志摩は自分たちが権力を持っているからこそ、法やルールを遵守しなければいけないという意識が強い。第1話では伊吹に対して「俺たち警察は権力を持っているからこそ慎重に捜査しなければいけない」と諭していた(ゴミ箱を蹴っ飛ばした後で)。

 権力を持っているから法を破ってもいいのではなく、権力を持っているからこそ法を守らなければいけない。『MIU404』は、当たり前のことを当たり前に投げかけている。

「間違いも失敗も言えるようになれ! パーンッて開けっぴろげによ! 最初から裸だったら何だってできるよ!」
陣馬耕平(橋本じゅん)

 警察庁刑事局長を父に持つ若きエリート、九重と、叩き上げのアナログ人間・陣馬とのバディもとても魅力的だった。何かにつけて古臭いが、熱く、激しく、人としての器が大きい男・陣馬が「自分が使えない奴だと認めるのは怖い」と漏らした九重にかけた言葉は、間違いなく九重にとって大きな「スイッチ」となった。

「まあ、安心しろ。俺の生命線は長い」
伊吹藍(綾野剛)

 『MIU404』の太い縦軸になっていたのが、伊吹と志摩がかけがえのない相棒としてパートナーシップを築いていく物語だった。相棒を死なせてしまった取り返しのつかない過去を悔やみ続ける志摩に向かって差し出した伊吹の手のひらは、まるで太陽のように輝いていた。

「悪い大人もいるけど、ちゃんとした大人もいる。諦めないで、まずは福祉や公共に頼る。君たちはひとりじゃない」
ジュリ(りょう)

 大人が子どもを食いものにするのが当たり前になりつつあるこの世界で、コスプレイヤーのジュリが家出少女たちに語りかけた言葉も、とてもまっとうなものだった。最終回で彼女たちがメロンパン号の窮地を救うために声を上げたのも、かけられた言葉や善意の積み重ねがあったからじゃないだろうか。

「ガマさん、何があってもあなたは人を殺しちゃいけなかった。全警察官と、伊吹のためにも」
志摩一未(星野源)

 『アンナチュラル』とのコラボで沸いた第8話は重く辛いエピソードだった。愛する妻を理不尽に殺され、犯人を手にかけてしまった伊吹の恩人で元刑事の蒲郡。逮捕されて連行されていく彼に志摩がかけた言葉には、どんなに激しい感情があったとしても倫理と法の秩序を大切にしたいという彼の信念が表れている。

「表の世界だけ。悪い人が捕まって、頑張ったら報われて、正しいことをした人が後悔しないで済む世界」
羽野麦(黒川智花)

 警察に情報を提供したことで裏世界の実力者、エトリ(水橋研二)に狙われた女性・羽野麦の言葉。つまり、今の日本は頑張っても報われない、正しいことをした人が後悔をする世界ということになる。

 理不尽な暴力にさらされ続ける彼女は「どうして私が逃げなきゃいけないの? 女だから? 力が弱いから?」と語っていたが、「仕方ない」「自己責任」で済ませずに「一緒に戦おう」と寄り添ってくれたのが桔梗であり、伊吹や志摩たちだった。

「窓の一つ一つに人がいて、んー、なんつーかなぁ、みんな暮らしてるんだなぁ、って」
伊吹藍(綾野剛)

 姿を見せないエトリ、SNSを操って人を追い詰めていく久住や動画配信者のREC(渡邊圭祐)の存在感が増していく中で、伊吹がふと漏らした印象的な一言。匿名のSNSアカウントが跋扈し、数字がお金に替わっていく世界の中で、その先に人がいるという想像力の有無が大切になる。

「間に合ったぁ!」「間に合った……!」
伊吹藍(綾野剛)、志摩一未(星野源)

 相棒を死なせてしまった志摩と、恩師の罪を止めることができなかった伊吹。大切な人の危機に間に合わなかった二人が懸命に力を合わせ、暗く深い闇の底に手を伸ばして羽野麦と成川岳(鈴鹿央士)を助け出すことができた。何ごとも絶対に間に合わないことはない。安堵して抱き合う伊吹と志摩の姿が感動的なシーンだった。

「なぁ、志摩ちゃん。死んだ奴には勝てないって言ったけど、それ違うよ。生きてりゃ何回でも勝つチャンスがある! な?」
伊吹藍(綾野剛)

 「生きてりゃ何回でも勝つチャンスがある」とは、世の中、取り返しがつかないことばかりではなく、暗闇の中でも泥沼の中でも精一杯手を伸ばせば間に合うこともあるということだろう。だから、伊吹と志摩は最後まで諦めずに走り続ける。より良い未来を信じて。

「言うとくけどな、俺はたいしたこと何にもしとらん。作りたい奴が薬作って、使いたい奴がつこうて、人形になりたい奴がなった。ま、みんな、頭悪いんやな。頭悪い奴はみんな死んでもろたらええねん」
久住(菅田将暉)

 思わぬ「スイッチ」によって罪を犯してしまった加々見、青池、成川らとは違い、久住は最後まで得体の知れない悪だった。同情や共感でコーティングされた久住の甘い言葉は、宿主に寄生し、本体を蝕み、破滅へと追い込んでいく。それを高笑いして見物する彼の意志は見えない。まるで新型コロナウイルスのような存在だという指摘もあった。

「小さな正義を一つひとつ拾ったその先に、少しでも明るい未来があるんじゃないんですか?」
桔梗ゆづる(麻生久美子)

 どんなに社会が歪んでいても、どんなに人々の悪意が飛び交っていても、それでも希望を捨てず、法を守って、小さな正義を一つひとつ拾っていく。羽野麦が言う「表の世界」、桔梗が言う「明るい未来」を手繰り寄せるには、それしか方法はない。

 久住を追う伊吹と志摩が着ているTシャツに書かれていたフレーズは「I Love Japan」。この国を愛しているからこそ、良くしていきたいと思っている。そんな人たちが奮闘するドラマだった。

「俺は……お前たちの物語にはならない」
久住(菅田将暉)

 黙秘を貫く久住が、最後に伊吹と志摩に投げかけた言葉も波紋を投げかけた。さまざまな架空の物語で人々を翻弄してきた彼は、誰かに物語として理解されることを拒んでいる。

 抽象的な言葉から読み取れるのは、彼が2011年の東日本大震災で大きな絶望を味わったということ。点と点を勝手につないでストーリーをでっち上げる陰謀論は唾棄すべきものだが、事実からその人のことを想像して思いやることは人と人が手を取り合って生きていく中で必要になる。いつか、久住のことを理解し、共感し、寄り添う人が現れるかもしれない。


「まぁ、間違えても、ここからだ」「機捜404、ゼロ地点から向かいます。どーぞ!」

志摩一未(星野源)、伊吹藍(綾野剛)

 巨大な「0」である新国立競技場から二人は再び車を走らせる。間違うことがあっても、生きているなら、何度でもやり直せばいい。一つひとつの「スイッチ」を大事にして生きていけば、必ず気づくときがある。

 ゼロはやり直しのスタート地点でもあるし、無限の可能性を感じさせる数字でもある。この国は歪んでいることがたくさんあるけど、まだ終わったわけじゃない。声の小さな人たちだって、手をとりあっていくことぐらいできる。その先に「表の世界」を築くことだってできるかもしれない――。『MIU404』はそんなことを感じさせてくれる爽快なドラマだった。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■作品情報
金曜ドラマ『MIU404』
Paraviにて全話配信中
12月25日(金)Blu-ray&DVD-BOX発売
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、菅田将暉、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/