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70年~80年代名作のリメイクや続編が増えた理由とは? 『コブラ会』『透明人間』などから探る

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リアルサウンド

 皆さんは、なぜハリウッドで頻繁に続編、前日譚、そしてリメイク作品が手がけられるのかと、過去に思ったことはないだろうか? 近年、鑑賞してきた映画の中で、前例のないスマートで、独創性のある作品に出会うことは、ごく稀であると思ったことはないだろうか?

 そんなハリウッドで続編、前日譚、リメイク作品が増えた理由の1つに、ここ10年間のディズニーの成功にある。ディズニーは過去に興行的に成功したアニメ『シンデレラ』『美女と野獣』『アラジン』などを、今度は実写リメイク化することで、新たな若い世代に作品を新鮮に届けながら、子供連れの観客も呼び込むことに成功した。さらにディズニーは、2009年に米国最大のコミック出版社マーベル・エンターテインメントを買収したことで、多くのアメコミを続編、前日譚で実写化させたり、シリーズ化させることで、家族全員が観れる映画シリーズを作り上げてきた。

 つまり、続編、前日譚、リメイク作品を手がけるということは、ハリウッドのスタジオにとっては、ある意味、成功したオリジナル映画という知的財産を所有し、それを利用して、この不安定なハリウッドの映画界で安定した興行収入を見込める経営対策をずっと図ってきたということなのだ。ただこの形態自体は、最近始まったことではなく、長年ハリウッドが行ってきたことでもあって、ディズニーだけでなく、ソニー・ピクチャーズの『スパイダーマン』シリーズ、20世紀フォックス(現、20世紀スタジオ)の『X-Men』シリーズなどで、同様の対策を取ってきた。

 だが、こういったスタジオの大作の成功で、人々が独立系映画に足を運ぶ機会が少なくなったのは事実だ。2017年の調査によると、独立系映画の全体の5分の3が劇場公開され、残りの5分の2は(劇場公開なしで)配信されている。ただ、その公開された独立系映画の中で、製作者が自費で映画館を借りて上映している作品もあるため、ごく少数の独立系映画作品しか、興行的には成功していないと言える。

 それに、独立系映画が多く出展されるサンダンス映画祭では、高く評価された独立系映画は、Netflix、Amazon、HBOなどに買い付けられ、映画館の上映というルートを辿らず配信されるケースも、近年では良く見られる傾向だ。その上、人々は大作は大きな映画館のスクリーンで観たいが、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、Huluなどの動画配信サービスの台頭により、独立系映画は、映画公開後の動画配信サービスまで待つという人々も、近年はかなり増えている。

 したがって、原作もないオリジナルストーリーで製作された映画で成功することは、実際にはかなり難しい。その例として、昨年アメリカで最も批評家の間で評価の高かったオリジナル映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』でさえ、世界興行はわずか2400万ドルだった。当然、そういった独立系映画を、我々観客が映画館で鑑賞することでサポートしなければ、このようなオリジナル映画を作ることに、スタジオは二の足を踏むことになる。もちろん、この未曾有の状況下に堕ちっているコロナ禍では、経営難に陥っているハリウッドのスタジオが、それほどお金にならない独立系映画を自ら製作して、冒険することは余計に少なくなるだろう。

 ところが、そんなコロナ禍でハリウッドのスタジオは、新たな制作形態を打ち出していることがわかった。それは、1970年~80年代に生まれたハリウッドの名作、カルト的作品、ヒット作を、新たに続編、前日譚、そしてリメイク作品として手がけることだ。ここ1、2年で、その数が圧倒的に増えているのだ。今回は、なぜそのような形態がハリウッドで、今注目されているのか、下記でその新作を紹介しながら、その理由について検証していきたい。

 まずは1970年代の名作であり、新たに前日譚TVシリーズとして生まれ変わる作品が2作ある。その一つは、1975年に製作されたアメリカン・シネマを代表する映画『カッコーの巣の上で』。ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー主演のこの名作は、刑務所の強制労働から逃れるため精神異常を装ってオレゴン州立精神病院に入ったマクマーフィが、絶対権力を誇る婦長ラチェッドと対立しながら、入院患者たちの中に生きる気力を与えていくというもの。70年代当時、映画は高く評価され、アカデミー賞作品賞も収めた。そしてこの度、サラ・ポールソン演じる若き日の看護師ラチェッドを主人公にした前日譚TVシリーズ『ラチェッド』が、9月18日よりNetflixで独占配信されることが決定している。

 もう一つが、1974年に製作された映画『チャイナタウン』。ロマン・ポランスキー監督、ジャック・ニコルソン、フェイ・ダナウェイ共演の本作は、1930年代後半のロサンゼルスを舞台に、ある浮気調査の依頼を受けた私立探偵が、調査をしていく過程で巨大な黒幕のうごめく殺人事件に巻き込まれていくというもの。こちらは、昨年11月、その『チャイナタウン』の前日譚を描くTVシリーズを、デヴィッド・フィンチャー製作総指揮で、Netflixのもと製作されることが発表された。

 まず名作を、前日譚TVシリーズとして手がける魅力としては、オリジナルの名作に登場したキャラクターの若き日を新鮮に描いていることだ。若き日をどのように描くかを視聴者に想像させることで、すでにオリジナル映画のファンである人々に、新作への期待を膨らませることができる。そして、次にオリジナル映画作品のファンにとっては、いかにその前日譚の設定が、最終的にオリジナルの名作映画に繋がっていくのか、ストーリー上でも想像させて、展開を追っていく点も魅力なのだ。

 ではカルト的人気の映画『ヘル・レイザー』はどうだろうか? 1987年公開のクライヴ・パーカー監督によって制作された『ヘル・レイザー』は、究極の快楽は究極の苦痛より生まれるという妖しくもおぞましい世界観を描いたもの。今年の4月に『ゴジラ・キング・オブ・モンスターズ』のマイケル・ドハティ監督が、HBOのもとドラマ版『ヘル・レイザー』を企画した。マイケルは脚本家兼製作総指揮を務め、映画『ハロウィン』のデヴィッド・ゴードン・グリーンがパイロット版でメガホンを取る。実際、カルト的な作品『ヘル・レイザー』をTVシリーズ化する利点は、2時間ものの長編映画だと表現できなかったシーンも、TVドラマとして時間をかけて描くことで、新たなキャラクターを登場させたり、新設定で描ける。そのうえ、近年のCG映像の技術発展によって、オリジナル映画の世界観を、忠実にCGでTVシリーズでも再現できやすくなったことも大きな要因だ。

 これは、今年4月に発表されたJ・J・エイブラムス製作総指揮で、HBO Maxのもとスティーヴン・キングの小説『シャイニング』に登場する恐怖のホテル「オーバールック・ホテル」を舞台にしたTVドラマシリーズも、そうであると言える。要するに、あのスタンリー・キューブリックの名作の世界観を、しっかり追求できるような技術があることは重要なのだ。

 名作と繋がる新作TVシリーズを作る利点は、それだけではない。現在は新型コロナウイルスで映画館に足を運ぶことに懸念している人々にとっては、自宅のTVで鑑賞できるため、健康面でも心配がないのだ。そんなじっくり時間をかけて鑑賞できるのが、80年代の『ベスト・キッド』シリーズの続編TVシリーズ『コブラ会』だ。オリジナル映画は、1984年にジョン・G・アヴィルドセン監督、ラルフ・マッチオ主演。そのストーリーは、転校生のティーンエイジャーが、いじめっ子たちから自身の身を守るために、剛柔流の空手をミスター・ミヤギから学ぶというもの。

 続編TVシリーズ『コブラ会』は、オリジナル版から34年後。かつては不良グループのリーダーで空手少年だったウィリアム・ザブカを主人公に、彼が所属した空手道場「コブラ会」を再開させていく。同続編TVシリーズはすでに第2シーズンまでYouTube Premiumで配信されたが、日本では観られなかった。だが今年の8月28日から日本でもNetflixで第1、2シーズンまで、一挙に鑑賞できるようになった。

 一方、オリジナルの名作映画を続編映画として手がけるケースを見ると、まず、映画『ダーティ・ダンシング』の続編企画が今年8月に発表された。オリジナル映画は、60年代を舞台に、一家で避暑地を訪れた17歳の少女が経験するダンス・インストラクターとの青春ラブストーリー。そんな『ダーティ・ダンシング』を続編映画として描く魅力は、オリジナル映画で主演を務めたジェニファー・グレイが、そのまま続編でも主演兼製作総指揮を務めることだ。つまり、80年代当時オリジナル映画を鑑賞した観客が、その後、ジェニファーと同じように歳を重ね、過去に回帰しながら鑑賞できるのだ。

 そして、これらのオリジナルの名作のリメイク・リブートを追っていくと浮かび上がる最も重要な点は、デヴィッド・フィンチャー、J・J・エイブラムスなど、映画界で実績のある人物を雇って、続編、前日譚、あるいはリメイクとして新鮮な息吹を吹き込むことだ。直近で言えば、映画『ソウ』シリーズや『透明人間』を手がけたリー・ワネルもそうだ。現在リー・ワネルは、1981年にジョン・カーペンター監督、カート・ラッセルがタッグを組んだ近未来のSF映画『ニューヨーク 1997』のリメイク作品を数年前から企画し、今年3月にメガホンを取る予定だった。だが新型コロナウイルスで、現在はリメイク作品が棚上げ状態にあることを明かしている。

 逆に、名作から新作を生み出すうえで、映画界で実績のある人たちに頼らずに、新たな才能に頼るケースもある。その一つとして挙げられるのが、1978年の名作『グリース』の前日譚を描いた新作映画だ。今年の7月にその前日譚を、映画『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』のブレット・ヘイリー監督が、パラマウント・ピクチャーズのもと手がけることが決定している。ただハリウッドが、このような形態を新たに打ち出しても、当然、問題点も沢山ある。その一つに、名作の続編や前日譚、あるいはリメイクを描くうえで、当然、オリジナル作品のファンは世界中にいるため、オリジナル作品に関わる新たな作品を企画しただけでも、否定的な人も結構いるのだ。

 それをクリアするために、オリジナル映画ではなく、原作に忠実に捉えることのできる監督や脚本家を雇う必要があり、さらに実績のある俳優のキャスティングも必要となってくる。例えば、1983年製作の映画『スカーフェイス』のリメイク版企画も、そのケースに当たる。数年前からユニバーサルのもと企画されているリメイク版は、2018年に『トレーニング・デイ』のアントワーン・フークアが監督交渉を入ったものの、今年2月に主演予定だった『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のディエゴ・ルナが降板したため、フークア監督の交渉も決まらず、新たに主演を雇わなければならなくなった。ただファンの期待値が高いため。単に知名度のない俳優を新たに雇えば、それで解決するという問題ではないことも、明確に理解できる。

 当然、名作を新たなTV作品や映画として描いて成功すれば、配信サービス会社の新規の会員やオリジナル作品のファンも味方につけることができる。ただその新作への評価が低いと、もともとオリジナル作品の評価が高いために、最低の作品に与えられるゴールデンラズベリー賞などの最低評価を受けやすいことも事実だ。

 最後に現在のハリウッドは、このコロナ渦で上記に挙げた新たな形態で、起死回生の一発を図っているが、彼らは1970~1980年代の名作、カルト的作品、ヒット作を通して、どんな新たな作品を生み出してくれるのだろうか?

参考

https://deadline.com/2019/11/chinatown-prequel-series-pilot-robert-towne-david-fincher-netflix-1202789041/
https://variety.com/2020/film/news/ben-affleck-chinatown-movie-adaptation-1234729201/
https://deadline.com/2020/07/grease-prequel-summer-lovin-brett-haley-director-paramount-1202988943/
https://variety.com/2020/film/news/texas-chainsaw-massacre-reboot-the-dig-ryan-andy-tohill-1203496585/
https://www.theverge.com/2016/7/5/12096420/the-russo-brothers-the-warriors-adaptation-hulu
https://variety.com/2018/film/news/enter-the-dragon-remake-david-leitch-1202881469/
https://www.cnn.com/2020/08/07/entertainment/dirty-dancing-sequel-trnd/index.html
https://www.cinemablend.com/news/2551289/scrapped-shining-prequel-would-have-answered-a-long-standing-fan-question
https://bloody-disgusting.com/movie/3602436/universal-blumhouse-developing-new-version-thing-will-adapt-long-lost-original-novel/
https://ew.com/tv/hellraiser-hbo-series-david-gordon-green/
https://www.tvinsider.com/945612/cobra-kai-season-3-netflix-details/
https://collider.com/diego-luna-leaves-scarface-remake/
https://www.thewrap.com/escape-from-new-york-writer-leigh-whannell-gives-status-update-remake/
https://www.quora.com/Why-does-Hollywood-keep-on-making-sequels-and-remakes
https://www.theatlantic.com/entertainment/archive/2014/05/hollywoods-real-superhero-problem/370785/
https://stephenfollows.com/the-prevalence-of-sequels-remakes-and-original-movies/
https://mediau.com/content-wars-state-of-independent-film-2019/
https://www.indiewire.com/2019/09/half-of-independent-films-theatrical-release-few-make-money-1202177121/

■細木信宏/Nobuhiro Hosoki
海外での映画製作を決意し渡米。フィルムスクールに通った後、テレビ東京ニューヨーク支局の番組「ニュースモーニングサテライト」のアシスタントとして働く。現在はアメリカのプレスとして働き13年目になる。

■配信情報
『コブラ会』シーズン1~2
Netflixにて、独占配信中