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向井理が伝えた足利義輝の無念と儚さ 『麒麟がくる』一つの季節の終わり

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 大型台風関連のニュースのために1週間先送りされたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の第23回「義輝、夏の終わりに」が9月13日に放送された。将軍・足利義輝(向井理)のために力を貸してもらおうと、明智光秀(長谷川博己)は小牧山城を訪ねる。だが、美濃の斎藤義龍(伊藤英明)の息子・龍興と3年も続く戦をしていた織田信長(染谷将太)には光秀の話を聞く余裕がない。それどころか、信長の家臣の木下藤吉郎(佐々木蔵之介)から義輝を闇討ちにするとの噂があることを聞かされ、さらには裏で糸を引いているのが松永久秀(吉田鋼太郎)だと知った光秀は、怒り心頭で大和の松永の元へ乗り込むのだった。

 焼き物の目利きとして名の通っていた松永は、焼き物の値打ちと義輝の存在を重ねて「物の値打ちは人が作るもの。将軍の値打ちもそうだ。人が決め、人が作っていく。値打ちが下がれば壊したくなる」と光秀に話す。三好長慶(山路和弘)の手腕によって保たれていた、義輝を生かさず殺さずの政治はもはや崩れかかっている。傀儡と化した将軍なら、裏で政治の実権を握る者が操りやすい人物を据えたいのが本音だろう。松永だけでなく細川藤孝(眞島秀和)までもが次の将軍を迎え入れようと準備していると知った光秀は動揺するが、松永に義輝を討たないことを約束してもらうのが精一杯だった。

 時を同じくして大和に来ていた駒(門脇麦)は先日会った僧侶・覚慶(滝藤賢一)に再び会うことに。そこで覚慶の口から “麒麟のくる世”の話を聞いた駒は驚きの表情を見せる。これはかつて駒が命の恩人である光秀の父・明智光綱(尾関伸次)から聞いた話と同じだが、覚慶と義輝は自身の父である12代将軍足利義晴から聞いたと明かしている。麒麟の話の出所がどこなのか、今後本作を追う中で重要なポイントとなるだろう。 “麒麟のくる世”に人生をかけているといってもよい光秀と義輝。麒麟がくる世を願ってやまない感情が互いの心の中で共鳴しあう所以は、光綱と義晴との間に何らかの関係性があった可能性を浮かび上がらせているようにも思う。

 そして光秀は信長を連れてくることができなかったことを義輝に伝えなければならなかった。その様子から全てを察知した義輝は「夏は終わった。わしの夏は……」と観念にも似た言葉を残す。「欲を言えば、もっと早うに会いたかった。遅かった!」と訴えた義輝は、光秀と共に涙するのであった。

 早朝に人の気配を感じた義輝が、純白の寝衣に裸足で紅葉の散る庭に飛び降りたときの気持ちを「今朝起きて風の音に驚いた。いにしえの歌の通りじゃ。秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ(おどろかれぬる)」と話すが、このセリフの中の歌は古今和歌集に収録されているもので、立秋の日に詠まれた歌である。この歌は義輝の言葉通り「立秋とはいえ、秋が来たと目に見えて分かることはないけれど、風の音に秋が感じ取られハッと驚いた」という意味のもの。一つの季節の終わりを自分に重ねる義輝の心情が痛いほど伝わってくる。紅葉の舞う庭にただひとり美しくたたずむ義輝、そして孤独を噛み締める姿と一筋の光は、最後まで麒麟のくる世を願った男に相応しいシーンであった。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00〜放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00〜放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin