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トロント映画祭:ヴェネチア金獅子賞『ノマドランド』がプレミア上映

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Courtesy of TIFF

ヴェネチア、テリュライド、トロント、ニューヨークという、秋の4つの映画祭すべてでかかる『ノマドランド』が、10月のニューヨークを除3つの映画祭で、ほぼ同時にプレミア上映された。

テリュライドは今年、コロナのためにキャンセルされたが、L.A.のローズボウルに特設されたドライブインシアターで、「テリュライド・イン・L.A.」の名のもとに、一般に向けて上映されている。トロントでも現地の一般観客のためにドライブインシアターで上映が行われたが、マスコミ試写はデジタルのみだった。この同時プレミアの翌朝、今作は、ヴェネチアで、最高賞にあたる金獅子賞を受賞。主演のフランシス・マクドーマンドは受賞を逃したものの、オスカー候補入りはほぼ間違いないと思われる。

『ノマドランド』は、夫を亡くし、勤めていた会社が倒産したために仕事も失った60代の女性ファーンが、RV車で移動しつつ、あちこちで仕事を探して生活していく様子を描くもの。原作であるノンフィクション本の映画化権を買った主演のマクドーマンドは、『Songs My Brothers Taught Me』と『The Ryder』でアメリカ西部を描写した中国生まれのクロエ・ジャオ監督にこのプロジェクトを持ち込んだ。ジャオは過去作品で、プロの俳優ではない、一般人を映画に起用してきたが、オスカー女優マクドーマンドが主演する今作でも、基本的にその方針を貫いている。その結果、映画は、時にドキュメンタリーを見ているような錯覚を起こす、とてもリアルなものに仕上がっている。

ファーンをはじめとするノマド(遊牧民)たちが見せつけるのは、現代社会で見逃されている、リタイアする経済的余裕のない高齢者たちの実態だ。60代かそれ以上の彼らは、働きたくても安定した雇用がなく、アマゾンの倉庫業務など、季節労働の職を求めて動き回るしかない。だが、彼らには威厳があるし、決して不幸ではないのだ。そんな彼らを、温かな目線で、敬意を持って見つめるのが、この映画なのである。

アメリカの話ではあるが、日本を含む多くの先進国では、多くの高齢者が同じような問題に直面している。それらの人々に共感を呼ぶであろう今作は、これからのアワードシーズンで健闘が期待されそうだ。

アメリカ公開は12月4日、日本公開は来年1月。

文=猿渡由紀