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どっこい生きてる、マックG! 『ザ・ベビーシッター ~キラークイーン~』で20年越しのおかえりなさい

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 どっこい生きてる、マックG! というわけで先日からNetflixで配信が始まった『ザ・ベビーシッター 〜キラークイーン〜』(2020年)である。Netflixオリジナル映画『ザ・ベビーシッター』(2017年)の続編だ。監督は鬼才マックG……と大見得を切ってみたが、マックGがブイブイ言わせていたのは、2000年代初頭、もう20年近く前になる。私も30を超えたあたりから時空が歪み始めたせいか、うっかりマックGを新人扱いしそうになるが、そんなことは全くないわけで。「マックGって誰よ?」となる人も多いだろう。さらに彼は山あり谷ありのキャリアで今日まで来た人であり、「谷」の時期に遭遇した人も多いはずだ。そんなわけで今回は、『ザ・ベビーシッター 〜キラークイーン〜』の話に入る前に、まずマックGという男について書いていきたい。

 マックG、52歳。彼の映像作家としてのキャリアは、90年代後半、ミュージックビデオから始まる。手がけたのは威勢のイイ(そして、ひねくれている)ロックバンドたちだ。彼らの音楽性に合致した、奇妙だけど、どこかユーモラスでポップなMVで評価を高めていく。そしてこの時期、ハリウッドはまさに大MTV系監督時代。流行りの音楽を流し、スタイリッシュな映像で見せるMTV出身監督たちがしのぎを削り合っていた。デヴィッド・フィンチャー、マイケル・ベイ、スパイク・ジョーンズ、ミシェル・ゴンドリー、ジョセフ・カーン……作風はバラバラだったが、こうした多くのミュージックビデオ監督がそうだったように、彼もまた映画の世界へ足を踏み入れる。そして最初に手がけたのが『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)だ。3人の女探偵のドッタンバッタン大騒ぎを、(これまた当時大流行していた)ワイヤーアクションたっぷりで描き、そのあまりのバカ騒ぎっぷりで全世界に衝撃を与えた。かくしてマックGは、映画デビュー作にしてバカ騒ぎ映画の巨匠として確固たる地位を築く。

 続く『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(2003年)では、さらにバカ騒ぎ度に磨きがかかった。このままマックGはバカ騒ぎ映画の巨匠として突き進むのかと思いきや、何か思うところがあったのか、シリアス系の映画に挑戦。しかし超大作『ターミネーター4』(2009年)を手がけるも、今一つ上手くいかず、以降は中規模の、よくいえばまとまった、悪くいえば無難な映画を作り続けるようになる。そして2010年代、気がつけば、あの頃にいたMTV系監督たちは、各々の道でひとかどの人物になっていた。フィンチャーは賞レースの常連となり、ベイは国と結託して物をブッ壊す人になった。ミシェル・ゴンドリーやスパイク・ジョーンズはマイペースに活動を続け、世紀の傑作『トルク』(2004年)を撮ったジョセフ・カーンはMVの世界に戻った。いつの間にか消えていった人も多い。そう考えると、彼が映画を撮り続けているだけでも良かったとも言える。しかし「映画を作り続けているだけでも偉い!」と理屈でわかっていても「もう昔のようなバカ騒ぎはやってくれないのか……」という寂しさがあったのも事実だ。しかし、やはり50を迎えるあたりで、人間は何かフッ切れるのか。マックGが久々に全力でマックGをやってくれた。それが『ザ・ベビーシッター』(2017年)である。

 中学生のコール(ジュダ・ルイス)は、学校では腰抜けとバカにされ、親もどこか間が抜けている。そしてイイ歳なのに、まだベビーシッターがついていた。ところが、このベビーシッターのビー(サマラ・ウィーヴィング)は、優しく、頼もしく、コールのオタク趣味にも全力で付き合ってくれる絵に描いたような“理想の年上のお姉さん”で……。コールはビーに淡い恋心を抱きつつ、とはいえ自分もベビーシッターって歳じゃないしと、悶々とする日々を送っていた。そんなある日、コールは同級生でイイ感じのメラニー(エミリー・アリン・リンド)から「ベビーシッターは子どもを寝かしつけると、男を連れ込んでセックスをするものだ」と聞かされる。そんなわけないと思いつつ、しかし思春期の好奇心に負けたコールは、眠ったふりをして夜を待つ。そうした迎えた深夜、コールが見た光景は……ビーが連れ込んだ男の頭にナイフを突き立てる血みどろの大惨劇だった。実はビーは悪魔崇拝者であり、仲間たちと悪魔と契約を交わすためコールの「無垢な血」を求めていたのだ。かくして悪魔崇拝者とコールによる血みどろ『ホーム・アローン』(1990年)が始まるのだった。

 だいたい伝わると思うが、本作はコメディである。もちろん血はジャンジャン出るし、頭に何か刺さったりするが、悪魔崇拝者が度を超えたバカ集団であること、何よりマックGのマックG節は健在であるため、まったく怖くはない。パロディ、下ネタ、音楽ネタ、テロップネタ……全編通してボケ倒しである。かなりの勢いで人体が損壊するのだが、陰湿な印象も全くない。

 そして『キラークイーン』だ。まず大前提として、1作目はすごく綺麗に終わっている。何をやっても蛇足になると表現していいくらい、まとまった作品だった。その続編を作るわけだから、スタートラインに着いた時点で不利な戦いを強いられるのは目に見えている。しかしマックGは『ターミネーター4』を引き受けたクソ度胸を発揮し、さらにあの頃にはなかった自分の持ち味を最大限に活かす「開き直り」も手にしていた。前作にあった淡い青春要素は薄まった反面、バカさ加減はフルスロットル。ご都合主義の連発ながら、ひたすら瞬間最大風速を重視したギャグの連打(パロディ、下ネタ、音楽ネタ、テロップネタ)をブチ込み続け、最後まで見せ切ってしまう。特に“イメージ映像”のシーンなど、「今日日こんなギャグを!?」と目を疑った。『チャーリーズ・エンジェル』で掴んだものの、大人になるにつれて失われていったマックG節が完全復活したと言えるだろう。やや破綻気味のストーリーに反して、「俺はこういう映画が一番得意なんだ!」と言わんばかりのテンポの良さと強気の姿勢には清々しさを感じた。あの頃のマックGを多感な時期に体験した身としては、20年越しの「おかえりなさい」である。

 気がつけば、かつてマックGとしのぎを削り合った“MTV系監督”たちがNetflixに集まってきている。マイケル・ベイは『6アンダーグラウンド』(2019年)を撮ったし、デヴィッド・フィンチャーも『Mank(原題)』(2020年)が待機中だ。辛い仕事を乗り越えて、バカ騒ぎ映画の達人としてパワーアップした(開き直った)マックGが、Netflixという場で彼らと再び競い合うのが楽しみでならない。どっこい生きてる、マックG!

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■配信情報
『ザ・ベビーシッター 〜キラークイーン〜』
Netflixにて配信中