『はたらく細胞』は学べるエンタメ作品! 謎解きクリエイター・松丸亮吾が解き明かす
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体内の細胞を擬人化したアニメ『はたらく細胞』の特別上映版『「はたらく細胞!!」最強の敵、再び。体の中は“腸”大騒ぎ!』が9月5日から公開されている。
本作は、『月刊少年シリウス』(講談社刊)に連載中の清水茜の漫画をアニメ化したものだ。赤血球や白血球(好中球)、血小板など人体を構成する細胞を擬人化し、身体を健康に保つために奮闘する姿を通じて、各細胞の働きや特徴をわかりやすく伝え、楽しみながら学べる作品として大きな話題となった。今回の劇場版は、原作コミックス第5巻に描かれたエピソードを、2021年1月から放送予定のTVシリーズ第2期に先駆けて上映している。
今回は、そんな本作の魅力を、「楽しく学ぶ」をモットーに活動している謎解きクリエイターの松丸亮吾に語ってもらった。
「楽しく学ぶ」という点で高いレベルにある作品
――率直に本作にどんな感想を抱きましたか?
松丸亮吾(以下、松丸):TVアニメの放送時から話題になっていたので、細胞を擬人化したアニメだという事前情報は持っていたのですが、実はここまでエンタメだとは思っていませんでした。想像よりもずっとアクション要素も多くて迫力があり、ワクワクしながら楽しめました。
――もっと教育要素に寄った作品というイメージをお持ちだったんですね。
松丸:そうですね。でも、観ている最中は勉強のことを忘れるくらいのめり込んで、「この先どうなるんだろう」と思っていると、途中に挿入される細胞や菌の紹介に「へぇ~、そうなんだ」とか「だからこういうストーリーなのか」とすごく勉強させてもらいました。エンタメでありながら、かといって勉強要素を抜くわけでもなく、すごくバランスの取れた作品だと思います。それにキャラクターがすごく魅力的ですね。血小板ちゃんがかわいいなと思って観ていました。大ボスのがん細胞もお気に入りですし、乳酸菌ちゃんたちもかわいくて、ぬいぐるみが出たら絶対買うと思います。
――「楽しく学ぶ」という点で、本作は松丸さんの活動とも重なる部分があると思いますが、松丸さんはなぜ「楽しく学ぶ」ことを大切にしているのですか?
松丸:例えば、子どもがゲームをするときってすごく長く集中できるんですけど、勉強で3時間、4時間続けることは難しいですよね。じゃあ、勉強とゲームでなぜ集中力の持続時間に差が出るかというと、そこには「楽しさ」という軸があるからです。ゲームが楽しいからずっと続けていられるのなら、学びもゲームやアニメのように楽しいものに変えられれば、集中して学ぶことができるんです。
――本作は松丸さんから見て、「楽しく学ぶ」という点で高いレベルにありますか?
松丸:そう思います。例えば、キラーT細胞とかメモリーT細胞という用語を教科書で見てもなかなか覚えなかったでしょうが、この作品を観てすぐに覚えました。おそらく、説明文をちょっと読んだだけではわからないくらい難しい内容を扱っているはずなのに、この作品を観ると「あの細胞はこんな役割を果たしているんだよ」と誰かに説明したくなりますね。
――そうですね。例えばインフルエンザも本作に登場しますが、インフルエンザがどうして厄介なのかを実感するのは難しいですけど、本作のようにうまく楽しい物語に落とし込んでくれると理解しやすいですね。本作のストーリーの運び方などについて何か工夫を感じましたか?
松丸:細胞や菌の働きについて説明が入るときと、入らないときがありましたよね。例えば、インフルエンザの場面ですと、毎年突然変異が発生し性質が変化するので、同じ抗体で戦っても太刀打ちできないわけですけど、それを最初から全部説明するんじゃなくて、一回キャラクターたちに失敗させていました。それで「なぜ効かないんだ!?」となったタイミングでナレーションが入るのがうまいなと思いました。それとバトルで盛り上がっているときには、極力ナレーションが入らないんです。とことん観る人を楽しませて、キャラクターたちと一緒に体験させているのが素晴らしいと思います。理科の実験の先生なども、教えるのがうまい人は「なんでこうなるんだろう?」と一緒に考えさせる仕掛けをたくさんしているんです。教えるというより、疑似体験させている。この作品にも同じスタンスを感じました。それと途中で気づいたのは、善玉菌や悪玉菌、日和見菌の話が途中で出てきて、そこでちゃんと菌の特徴を説明した上で、その後にそれをなぞる展開が出てきました。作中で学んだ知識を楽しく復習させてくれるのも工夫されていると思います。
世界観がしっかりしている。
――学習要素を物語に落とし込むのはなかなか難しいことだと思います。松丸さんも謎解きの講演を作るときには「世界観が重要」とおっしゃっていたことがありますが、松丸さんから見て本作は世界観もうまくできていると思いますか?
松丸:めちゃくちゃうまくできていると思います。謎解きを作るときも、例えば「このままでは船が沈没します。防ぐためには、この壁に貼られた謎を解いて解除コードを手に入れてください」と出題しても、それだけでは「その壁の問題は誰が作ったの?」と思われてしまいます。それだと謎解きとしては世界観が崩壊していて、お客さんも楽しめないんです。今回の作品で例えると、各細胞の特徴を説明するために、展開を色々試行錯誤していると思うんです。でも、完成した作品を観ると、無理に展開を捻じ曲げているという印象は全くなく、作品世界が崩壊していません。相当計算して作っているのだと思います。
――ちなみに『はたらく細胞』で謎解きを作ることもできそうですか?
松丸:『はたらく細胞』は謎解きと相性がいいと思います。なぜかと言うと、この作品を観ると知識が増えるからです。謎解きは基本的に知っていることからしか問題が出せないんです。ニッチな知識を求めるものでは成り立たないんですが、本作を観れば、NK細胞とかキラーT細胞などの名前を覚えるので、それに絡めた問題が作れるし、アニメの復習にもなりますよね。
楽しく学ぶために大切なこと
――松丸さんは、普段から子どもやその親御さんから勉強を楽しくするためにどうすればいいのかなどの相談を受けることも多いと思います。そういうとき、どんなアドバイスをしているのですか?
松丸:いかに目的に対して楽しい手段が取れるかが大事だと思います。僕は、国語の勉強のために読書をしたりしなかったんです。その代わり、RPGゲームを遊んだり、映画やアニメをたくさん観たりしていました。そうすると作品の中に出てくる言葉の意味や使い方が気になってくるんです。それから、それらの言葉をどうしてこのキャラクターがこういうニュアンスで言ったのかなとか、考えるようになっていきました。そういう感情を推し量る力が身につかないうちに小説を読んでもなかなか勉強にならないと思うんです。算数の場合も、僕はトレーディングカードが大好きだったので、カードを集めてデッキを組んで戦うとき、掛け算や割り算を使ってダメージ計算をしないといけません。そういうゲームをやっていたらどんどん計算が早くなっていったんです。僕は机に向かってじっと勉強するのが得意じゃなかったので、ひたすら楽しくするにはどうすればいいかを考えていましたね。
――なるほど。そういう意味ではアニメを観て楽しく学ぶことも有効なわけですね。
松丸:そうですね。やはり子どもに学ばせるときには動きのあるものがいいと思います。その意味で、アニメーションははっきりとした動きがあるものなので、有効だと思います。
――本作を親子で観る人も多いと思います。子どもと一緒に観る大人に何かアドバイスはありますか?
松丸:観終わった後に何か疑問に思ったところがないか、子どもに聞いてみるといいと思います。僕は、関心は疑問から始まると思っていて、疑問に思っていることを話し合ってみて、そこから「じゃあ、図鑑を見てみようか」という形でより深い学びにつなげていけるといいですよね。あと、この作品は、細胞や菌についてだけでなく、人間関係や社会を営むことについての勉強にもなる作品だと思います。いろんな意味で子どもたちに良い影響をたくさん与える作品だと思いますので、そういうところにも注目していただけるといいのではないでしょうか。
■公開情報
『「はたらく細胞!!」最強の敵、再び。体の中は“腸”大騒ぎ!』
公開中
TVアニメ第2期、2021年1月より放送
キャスト:花澤香菜、前野智昭、小野大輔、井上喜久子、長縄まりあ、早見沙織、行成とあ、小林裕介、吉田有里、高橋李依、藤原夏海、久保ユリカ、石田彰
ナレーション:能登麻美子ほか
原作:清水茜(講談社『月刊少年シリウス』連載)
監督:小倉宏文
シリーズ構成・脚本:柿原優子
キャラクターデザイン:吉田隆彦
サブキャラクターデザイン:玉置敬子
細菌キャラクターデザイン・プロップデザイン:三室健太
総作画監督:吉田隆彦、玉置敬子、北尾勝
美術監督:細井友保(スタジオちゅーりっぷ)
美術設定:曽野由大
色彩設計:水野愛子
撮影監督:大島由貴
3DCG監督:石井規仁
編集:廣瀬清志(エディッツ)
音響監督:明田川仁
音響制作:マジックカプセル
音楽:末廣健一郎・MAYUKO
アニメーションプロデューサー:若松剛
アニメーション制作:david production
製作:アニプレックス・講談社・david production
配給:アニプレックス
(c)清水茜/講談社・アニプレックス・davidproduction
公式サイト:http://hataraku-saibou.com
公式Twitter:@hataraku_saibou