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ブランディ、トニー・ブラクストン、レディシ……現代に息づく誇り高き“レディ・ソウル”の新譜5選

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リアルサウンド

・Brandy『B7』
・Ledisi『The Wild Card』
・Toni Braxton『Spell My Name』
・Victoria Monét『Jaguar』
・Joy Denalane『Let Yourself Be Loved』

 「レディ・ソウル」という言葉には、単純に女性のR&B/ソウルシンガーの作品という意味を超えた、特別な響きと味わいがある。その金字塔として語り継がれるアレサ・フランクリン『Lady Soul』(1968年)の系譜にあるようなゴスペル仕込みの歌力系シンガーから、とんでもない端折り方をすれば近年のエラ・メイやH.E.R.にいたるまで、時代につれてさまざまに変化したスタイルの中にも(主に)黒人女性としての美しく気高いスピリットが反映されている音楽だからだ。

 この時代に女性らしさや男性らしさ、という尺度で語ること自体がお門違いなのかもしれないが……ここではレッテルを貼る意味ではなく、素直に女性を讃える言葉としてあえて用いたい。そんな誇り高き2020年産の“レディ・ソウル”盤5作品をご紹介。

ボーカルバイブルの真骨頂! 癒しと革新が同居したコンセプチュアルな新作
Brandy『B7』

 ティーンエイジスターとしての華々しいデビューから早26年……という前置きは以前こちらで書かせてもらったが(参考記事:『ケラーニ、キアナ・レデ、ブランディ…2020年を彩る女性R&Bシンガーの新譜5選』)、待望とされていたブランディの新作『B7』がついに到着した。

 上述の記事で取り上げた先行シングル「Baby Mama  (feat. Chance the Rapper)」の勢いあふれるイメージから一転、アルバム全体を包むトーンは非常に穏やかでありながら荘厳。ボーカルバイブルとも称される、彼女の歌声が持つ癒しの効能を存分に生かした作風となった。メインプロデューサーを務めたのは、今日のR&Bシーンを支える重要人物 DJキャンパー。ブランディの代名詞でもあるフューチャリスティックなサウンドは保ちつつも、見事な塩梅で音数を最大限まで削ぎ落としているのが流石だ。

 そうした音像は、昨年交通事故により惜しくも急逝してしまったラショーン・ダニエルズ(ブランディの代表曲「The Boy Is Mine」を始め数多くの名曲を生んだソングライター)とヴィクトリア・モネがペンを交えた「Rather Be」や、ドラマチックなMVが印象的な「Borderline」などで顕著に表れており、何層にも重ねられたボーカルが唯一無二の浮遊感を生み出している。曲間がほぼなく、シームレスに繋がっていくアルバムは、終盤にかけてゆっくりとテンションを上げながら音数も増加。刺激的なストリングスが耳に残る娘 シライとの共演曲「High Heels」から、そのままクライマックスの「Baby Mama」へとなだれ込む。ひと息ついた後は『第62回グラミー賞』のベストR&Bパフォーマンスにノミネートされたダニエル・シーザーとのデュエット曲「Love Again」からピアノバラード「Bye BiPolar」で美しくフィナーレ。全編を聴き終えた時に得られる清々しさは、ゴスペルアルバムとも近い感触だ。

Brandy – Borderline

 一聴しただけでは大人しい印象を受けるかもしれないが、聴き込むごとにじわりと染み込んでくる、過去最高にコンセプチュアルな作品。リリースされ早1カ月半が経ったが、長年の盟友でありライバル(?)のモニカと互いを讃え合った、先日のVerzuz(スウィズ・ビーツとティンバランドが主催する配信企画。詳しくは『#Challenge』企画、プロデューサー同士のオンラインバトル……自宅でも楽しめるUSのR&Bムーヴメント』を参照)の効果で、再びチャートアクションも上昇した。単曲のツマミ食いではなく、ぜひ最後まで通し聴きで堪能してほしいアルバムだ。

Brandy Census 2020 performance

生粋のソウルシンガー! 自身のレーベルから放つ、バラエティあふれる意欲作
Ledisi『The Wild Card』

 一度聴いたらすぐに耳を奪われる力強い歌声と、ソウル〜ファンク〜ジャズまでを自在に行き来する多彩なボーカルワーク。故プリンスにも愛され、オバマ前米大統領のフェイバリットプレイリストにも度々登場し、過去12回もグラミー賞にノミネートされているレディシの人気はUS国内において絶大。名実ともに現代のレディ・ソウルを代表するトップランカーだ。

 前作『Let Love Rule』より3年ぶりとなるアルバムは、10年以上在籍していた<Verve Records>を離れ、<BGM>とディストリビューション契約を結んだ自身のレーベル<Listen Back Entertainment>からリリース。とは言うものの、楽曲の半数以上を手掛けるのはメジャーデビューの後見人でもあり、長年共作を続けるレックス・ライドアウトで、信頼のおける制作陣のもとに自由なクリエイティビティを手にした彼女が、これまで以上に伸び伸びと幅広いサウンドの中を歌い泳ぐ快作となった。

Ledisi – Anything For You (Official Video)

 イントロからディアンジェロ「Untitled (How Does It Feel)」を想起させる先行シングルの「Anything For You」だけでも、アルバムを購入する価値アリ、と言いたいところだが、それ以降にも目玉級の曲は続く。ロバート・グラスパー作の切ない別れ際のバラード「Now Or Never」、アイヴァン・バリアスが手がけたフィリー流ネオソウル「Where I Am」、弾けるブギーナンバー「WKND」、コリー・ヘンリーとともにジャジーに攻める「What Kinda Love Is That」……と、書ききれないほどバラエティに富んだ良曲がひしめき合う。

 意外な選曲で驚いたBadfingerのカバー「Without You」が、アルバムの流れで聴くとすんなりと耳に入ってくるのは、主役であるレディシの歌声が一貫して存在感を保っているから。流石、デビュー作のタイトルで『Soul Singer』を堂々と掲げていた根っからのボーカリスト。この声さえあれば向かうところ敵なしだろう。

Ledisi – What Kinda Love Is That (ft. Cory Henry) (Audio)

これぞベテランシンガーの貫禄! 他の追随を許さない通算10枚目の快作
Toni Braxton『Spell My Name』

 一時はレコーディングからの引退宣言もしていたが、盟友ベイビーフェイスの支えで見事に現役復帰。その後は息を吹き返したかのように活発的なトニー・ブラクストンが、2018年の『Sex & Cigarettes』以来となる、通算10枚目のスタジオアルバムを新天地<Island Records>から発表した。

 「私の名前を綴ってごらんなさい」と自信満々に言ってのけるアルバムタイトルは、若い男性と恋仲に落ちる同名曲から後付けされたようで、「随分と長いことこの業界にいるし、少し自信たっぷりになってみてもいいと思ったの」とiHeartRadioのインタビューでトニー本人が語っている。実はこのタイトルが由来するのは、現在トニーと恋仲にあるラッパーのBirdmanが流行らせた〈Put Some Respect (Respect) On My Name(= もっと俺/私のことをリスペクトすべきだ)〉というフレーズ。一時は破局も報じられていた両者だが、どうやら順調に愛を育んでいるようだ。

 新作は、そんな私生活を反映するかのようなディスコ曲「Dance」から、意外にも初顔合わせとなるミッシー・エリオットが指揮を取り、ベイビーフェイスがソングライティングで関わった「Do It」など、冒頭からアップ曲の出来栄えが素晴らしく、H.E.R.をギタリストとして客演に迎えた「Gotta Move On」以降は、彼女の真骨頂である物憂げなミッド〜スロウをじっくり聴かせていく安定の内容となった。

Toni Braxton – Dance

 アントニオ・ディクソンが手がける「O.V.E.Rr.」は、そのH.E.R.に触発されたようなトラップソウル仕様だが、常に先鋭的なプロダクションに挑んできたトニーはこの楽曲を難なく乗りこなす。どんなトラックでも官能的に仕上げてしまうのが彼女の専売特許でもあり、最大の魅力だ。ファンが求めるアーティスト像を絶対に抑えつつ、新しいサウンドにも躊躇しない。ベテランシンガーかくあるべき、というお手本のような作品である。

Toni Braxton – Gotta Move On (Audio) ft. H.E.R.

アリアナ・グランデが信頼を寄せる才能! 飛躍が期待される大注目のアルバム
Victoria Monét『Jaguar』

 「Billboard Hot 100」チャートで8週連続首位を獲得したアリアナ・グランデ「7 Rings」の作者であり(アルバム『thank u, next』では全6曲に関与)彼女の親友としても知られるサクラメント出身のシンガー、ヴィクトリア・モネ。実のところ業界でのキャリアは長く、10代の頃にロドニー・ジャーキンスのもとで組んだガールズグループがデビュー前に頓挫するも、その後はナズやT.I.への客演を務めながらソングライターとして活動。<Atlantic Records>からの誘いを断ってまでインディペンデントで制作を続けてきたツワモノだ。そうして着実に積み上げてきたソングライティングの実力は、今年に入ってからもChloe x Halle「Do It」などの話題曲で示されているが、新作『Jaguar』ではフロントマンとしての才能をいかんなく発揮している。

 ほぼ全曲の制作を手掛けたのは、近年H.E.R.やカリード、ラッキー・デイらをはじめ、モダンR&Bの傑作に携わり続けるブルックリン出身の敏腕プロデューサー、D’Mile(嵐の新曲「Whenever You Call」も彼とブルーノ・マーズの共作)。家族の影響で親しみがあった60〜70年代のモータウンサウンドに、自身のベースである90年代R&Bの要素をミックスして完成させたという本作は、Earth, Wind & Fireにインスパイアされたホーンセクションが随所に散りばめられ、可憐なヴィクトリアの声を後ろからバックアップする(「Jaguar」や「Dive」がその好例)。1分足らずの尺にとどめておくにはもったいない出来栄えのスウィートソウル「We Might Even Falling In Love (Interlude)」も最高だ。

Victoria Monét – Experience (Lyric Video) (with Khalid & SG Lewis)

 カリードとSGルイスをフィーチャーした先行曲「Experience」は、すでに日本でもクラブDJにヘビープレイされているが、〈この体験があなたを変えてくれることを祈っているわ〉と歌うフックが偶然にも一連のBlack Lives Matter運動と相まって、より大きなメッセージを含むようになった。一時はリリースをするか迷ったそうだが、「痛みとトラウマの最中でも、音楽によって喜びを感じて欲しい。」(ヴィクトリアのInstagramより抜粋)との想いを込めて発表。こうしたパーティーソングであっても、メッセージ性を伴って同胞をエンパワーメントできることを証明してみせた。

 作品は全9曲でトータル25分と短めだが、このプロジェクトは3部作のうちの1つで、すべて揃ったときにフルアルバムとして完成するとのこと。長い間ジャガーのごとく冷静に好機を伺っていた彼女が、この勢いのまま、国内外で活躍する歌姫として羽ばたくのが楽しみだ。

Victoria Monét – Jaguar (Official Music Video)

ドイツが生んだ歌姫! 名門<Motown>から送る、とびきりのソウル盤
Joy Denalane『Let Yourself Be Loved』

 2002年、ラッパーである夫のマックス・ヘーレがプロデュースした処女作がいきなりゴールドディスクを獲得。その後、レイクウォンやルーペ・フィアスコらを迎え、LAで録音された全編英詞のアルバム『Born & Raised』(2006年)が、ここ日本でも話題となったドイツのソウルクイーンことジョイ・デナラーニだが、この度、名門<Motown>よりニューアルバムを発表した。

 「それぞれの言葉が独自のメロディを持っているの」と語るように、デビュー時から変わらずドイツに拠点を置きつつも、作品によって言語を使い分けてきた彼女。今作ではロベルト・ディ・ジョイア総指揮の下、彼女が幼い頃から聴いて育ってきたビンテージなUSソウルサウンドを描くことにフォーカスを定めたことで、自然と英詞の作品に仕上がったという。

Joy Denalane – I Believe ft. BJ The Chicago Kid

 その中でもマーヴィン・ゲイ「What’s Happening Brother」を下敷きにしたような「The Ride」など、とりわけ60年代末〜70年代初期に起きたニューソウル・ムーブメントからの影響が色濃く、この時代特有のヒリヒリとした肌触りを再現しつつ、真摯な愛の詞が歌われていく。潮の満ち引きのような歌い口が素晴らしい「Hey Dreamer」では、ジョイの歌声が以前と比べて随分と柔らかくなった印象も伺え、レーベルメイトとなったBJ・ザ・シカゴ・キッドとの「I Believe」、C.S.アームストロングとの「Be Here In The Morning」といったデュエット曲で醸し出す円熟味は、USシーンでもなかなか得難いクオリティの高さだ。

 「自分自身を愛してあげて」というアルバムタイトルも含め、使い捨てではない音楽への愛情が存分に込められた至極のレディ・ソウル。配信だけではなくLP盤で大切に抱きしめたい作品だ。

Joy Denalane – I Gotta Know (Live at the Metropol Berlin 2020)

◾️Yacheemi / ヤチーミ
ダンサー / DJ / ライター / タコ神様。
国内~ジャマイカでダンスバトルでの入賞を経験後、 ヒップホップ・グループ「餓鬼レンジャー」 にマスコットとして加入。3密のナイトクラブを中心に年間100本近くのステージに立つ傍らで、地上波TVにも幾度か出演。またR&B音楽にまつわる座学や執筆活動も行うなど、独自のフリースタイル・グルーヴ道を歩む七変化系男子。