MCU『シーハルク』主演候補が明らかに “弁護士モノ”×アメコミの化学反応に期待
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9月18日、Disney+(ディズニープラス)で配信が予定されているMCU/マーベル・シネマティック・ユニバース・ドラマ『シーハルク(原題)』の主役ジェニファー・ウォルターズを、タチアナ・マスラニーが演じると報じられました。タチアナ・マスラニーはSFドラマ『オーファン・ブラック 暴走遺伝子』の主人公サラ役を演じていて、日本でも知っている方はいると思います。ファンにとっては『シーハルク』実現に向けて動き出したということでこのニュースは大きな話題になりました。
ここではシーハルクというキャラについて、今後彼女がもたらすであろうMCUへの影響について書いてみたいと思います。なお、最近翻訳版が発売された『マーベル・エンサイクロペディア』において“シーハルク”表記になっているので、このコラムでは“シー・ハルク”ではなく“シーハルク”とします。
まず前提として、MCUは今後、劇場用映画とDisney+の配信ドラマを組み合わせて展開していくということになります。現在ドラマの方ですでに製作に入っているのが『ファルコン&ウィンター・ソルジャー(原題)』『ワンダヴィジョン(原題)』『ロキ(原題)』であり、今後『ミズ・マーベル(原題)』『ムーンナイト(原題)』そして『シーハルク』が予定されています。Disney+でのMCUドラマの第1弾は『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』と言われていましたが、コロナ禍で撮影が中断。なので撮影が先に終わっている『ワンダヴィジョン』が最初の配信になると言われています。
ここで注目したいのは、ドラマ『ワンダヴィジョン』は劇場用映画『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス(原題)』(長いタイトルですが、要はドクター・ストレンジの続編です)につながると言われており、今後は“映画と映画”だけではなく“ドラマと映画”もMCUの中ではつながっていきます。なので、この『シーハルク』もまず配信ドラマでデビューして今後映画の方に登場するでしょう。“今後彼女がもたらすであろうMCUへの影響”と書いたのはそのためです。
さて、『シーハルク』は1980年のマーベル・コミックでデビューしました。そのタイトルからわかるとおり、シー(SHE:女性)なハルクで女性ハルクです。昨今の女性ヒーローブームが来る40年も前に、マーベルはこのユニークな女性超人を世に出していました。すごく簡単に言うと、彼女はハルクの従妹(笑)。ハルクに変身してしまうブルース・バナーの血を輸血した彼の従妹ジェニファー・ウォルターズが、やはり緑色の巨人になってしまうのです。
このキャラが紹介された正式なコミックのタイトルは『The Savage She-Hulk(原題)』です。1962年に創刊されたハルク第1号『The Incredible Hulk(原題)』の表紙はブルース・バナー博士の後ろに巨大なハルクが立っていて周りの市民がビックリしているという構造でしたが、このシーハルクの表紙はジェニファー・ウォルターズの後ろにシーハルクが立っていてやはり市民たちが驚いています。ハルクはIncredible(無敵)でしたが、シーハルクはSavage(獰猛な)とより過激なフレーズになっています。ハルクに負けないぐらいすごい超人として売り出したかったのかもしれません(ちなみに、この号の表紙には1979MARVEL とコピーライト表記がありますが、実際にこの号が発売されたの1980年なのでこの年をデビューとしています)。
『The Savage She-Hulk』第1号で語られた、このヒーローのオリジン(誕生秘話)は以下の通りです。ハルクに変身してしまうブルース・バナーは人目を避けながら、ずっと会っていなかった従妹で、弁護士をやっているジェニファー・ウォルターズの事務所をたずねます。彼女はブルースを保護しようと車で自宅に連れて行きますが、街を少し離れたところでギャングに襲われます。実はジェニファーは、このギャングたちが絡む事件を担当していたために狙われたのです。あっという間の出来事でジェニファーは撃たれてしまう。このままではジェニファーは死んでしまうと判断したブルースは、空き家に押し入りそこで彼女に自分の血を輸血します。これが彼女の運命を大きく狂わせる。ブルースの血を受け継いだジェニファーは従兄同様ハルクのように変身してしまう。シーハルクになった彼女はまず自分を襲ったギャングたちをぶちのめします。こうしてジェニファーの波乱の人生が始まるのです。コミックを読む限り、当初周りはジェニファー=シーハルクと気づいておらず、彼女もこれを秘密にしています。
この第1号はあのスタン・リーさんがシナリオを書いたようで、久しぶりに彼が直接制作にたずさわったヒーローの一人と言われています。このキャラが生まれたいきさつは諸説あるのですが、実はTVドラマ化を前提としていたようです。当時、ハルクを主人公にしたTVドラマ・シリーズ『超人ハルク』(1978年〜1982年)が大人気でした。一方、この少し前に『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』という女性ヒーローのTVドラマが人気。バイオニック・ジェミーは『600万ドルの男』というサイボーグ・ヒーローのスピンオフ(女性版)として登場して成功していました。それでこのやり方をまねて『超人ハルク』のドラマのスピンオフとして女性版ハルクのアイデアが生まれたそうです。それを受け、マーベルがコミックを出したのではないかと。
いわれてみると“犯罪と戦う女性弁護士がピンチの時、超人になって悪党どもをやっつける”というのはTVドラマ向きではありますよね。この後、シーハルクはマーベルのコミックの世界の住人として大活躍するのですが、ハルクとちょっと違うのは、ジェニファーはシーハルクになっている時にかならずしも制御不能の巨人にはなっておらず、そして彼女自身もシーハルクの姿でいる時の方が楽みたいでこの格好の時が多い(映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』の時のブルースの人格とハルクの肉体を持つ、みたいなものだと思ってください)。
そしてヒーローが絡む事件を専門とする弁護士をやっているという、非常にユニークな存在なのです。とはいえ“ハルク”ですからものすごく強く、アベンジャーズの一員として大活躍もしました。
シーハルクがどういうキャラかわかっていただいたところで、彼女の実写ドラマ化が今後のMCUがどう面白くなるのか? 先にも書いたように、実はシーハルクってドラマ向きの素材だと思いました。つまり、海外ドラマの鉄板である“弁護士モノ”に仕立てやすい。このシリーズを担当するのはまた『ラブ・アフェア 年下の彼』やTVドラマのコメディで活躍する女性監督カット・コイロという報道もあるので、コミカルな作品になるかも。ドラマの方は弁護士として活躍しつつ、映画に登場する時は最強ヒーローの一人として大暴れするんでしょう。
彼女の登場でいっきに現実味を増すのが、A-FORCEの映画化。これは女性ヒーローのみで構成されたアベンジャーズと思っていただければいい。コミックではシーハルクはA-FORCEの重要メンバーですから。 またコミックには「シークレット・ウォーズ」という大クロスオーバー・エピソードがあります。シーハルクはここで大活躍するのですが、この「シークレット・ウォーズ」もMCUで映画化されるとの噂があり、そこへの布石になるかもしれません。またシーハルクはファンタスティック・フォーのメンバーだった時もあり、MCUにファンタスティック・フォーを呼ぶきっかけを彼女が担うかもしれないのです。
さらに彼女は、コミックでスパイダーマンを敵視するデイリー・ビーグル紙のジェイソン編集長の息子と結婚したことがあります(ちなみに、この恋愛にはサノスの弟でエロスという“エターナルズ”の一人が関与していたという複雑な事情もありました)。
ジェイムソンは先の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』に登場したし、またあの映画から考えるに次のスパイダーマン映画で、スパイダーマンことピーターに必要なのは彼の疑いをはらす弁護士なので(笑)、MCUスパイダーマンの世界とシーハルクのリンクも考えられるのです。
当初、シーハルク役には『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』のアリソン・ブリーが候補と言われていましたが、蓋を開けたらタチアナ・マスラニ―になりそう。私見ですがマーク・ラファロにちょっと似た感じで、だからマーク・ラファロのブルースの従妹として違和感がなかったのかもしれません。マーク・ラファロもタチアナ・マスラニ―決定の報に、「ファミリーへようこそ、従妹よ」と歓迎のツイートをしています。なおこのドラマには当然のことながら、マーク・ラファロ演じるブルース・バナーの登場も予定されているようです。
ちょっと気になるのは、タチアナ・マスラニーがジェニファーの姿での出番が多いのか、彼女をベースにしたシーハルクでの登場が多いのかです。タチアナ・マスラニー自身とてもキュートなので、ジェニファーとしてのシーンもたくさん観たいですね。来年撮影開始のようなので2022年リリースでしょうか? 楽しみです。
■杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画に関するコラム等を『スクリーン』誌、『DVD&動画配信でーた』誌、劇場パンフレット等で担当。サンディエゴ・コミコンにも毎夏参加。現地から日本のニュース・サイトへのレポートも手掛ける。東京コミコンにてスタン・リーが登壇したスパイダーマンのステージのMCもつとめた。エマ・ストーンに「あなた日本のスパイダーマンね」と言われたことが自慢。現在発売中の「アメコミ・フロント・ライン」の執筆にも参加。Twitter