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スピンオフドラマ熱望! 複数のヒーローたちが輝いた『半沢直樹』

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 『半沢直樹』(TBS系)が熱狂的な支持の中、最終回まで見事に完走した。怒鳴り合いがパワハラそのものではないかという指摘や、役者たちの顔面の圧力から「半沢歌舞伎」などという揶揄もあったが、そのド迫力は他のドラマの追随を許さなかった。作品が最後に放ったコロナ禍における日本と為政者に対する強いメッセージも心に響いた。

 主役の半沢直樹を演じた堺雅人の熱演もさることながら、特に印象に残ったのが周囲の俳優たちのテンションの高さだ。すさまじい演技がラリーのように応酬し、どんどんエスカレートしていったようにも見える。さながら『ドラゴンボール』の激しいバトルのような演技合戦。他のドラマに放り込むと絶対に浮いてしまうような登場人物たちが見事に調和していたのが『半沢直樹』というドラマだった。

 たとえば、「お・し・ま・いDEATH!」「銀行・沈・ヴォツ!」などの名言を生み出した東京中央銀行が誇るダークヒーロー、大和田暁(香川照之)は、もはや主人公の半沢直樹をしのぐ人気を獲得したと言っていい。昨今のコンプライアンス事情を実力でねじふせる国税庁の黒崎(片岡愛之助)も、終盤で半沢の協力者として登場すると視聴者の喝采を浴びた。

 常に献身的に半沢をサポートする渡真利(及川光博)の半沢を想う言葉に胸ときめかせる視聴者が多かった一方、前シリーズでは半沢と敵対していたタブレットマン・福山(山田純大)が支持を集めていたのには少々驚かされた。「お前がしっかりしろ」とツッコミを浴びがちだった中野渡頭取(北大路欣也)が最終回で放った「さらばだ!」の一言に目頭を熱くした視聴者も少なくなかったのではないだろうか。

瀬名社長、箕部幹事長、白井国交相……『半沢直樹』を盛り上げた面々

 新シリーズからの登場人物も負けてはいない。スタートアップIT企業の社長で気合を入れる声がとんでもない瀬名(尾上松也)と、半沢から大きな影響を受けた東京セントラル証券の森山(賀来賢人)コンビのまっすぐさ、青さ、清々しさはいつも眩しかった。前半の「半沢歌舞伎」を引っ張った中ボス、伊佐山(市川猿之助)はさすがの本物ぶりだったし、最後の大物黒幕、箕部幹事長(柄本明)は『スター・ウォーズ』のシスの暗黒卿さながらのド迫力を見せつけた。70歳を超え、飄々とした枯れた味わいが持ち味としていた柄本明の凄み、恐ろしさを引き出すことができたのも『半沢直樹』だったからなのかもしれない。

 前時代的、あるいは軽んじられているのではないかと指摘されていた女性陣も、終盤にはそれぞれ見せ場があった。「お飾り」と言われていた白井国交相(江口のりこ)は箕部に反旗を翻すことで本作のヒロインたり得たし、半沢の妻・花(上戸彩)は夫の良き理解者でありつつ、ピュアすぎる言葉で白井の決心を後押しした。開発投資銀行の谷川(西田尚美)の決然とした債権放棄拒否宣言には胸が熱くなったし、智美(井川遥)が女将をしている小料理屋が本当にあったらぜひとも行ってみたい(残念ながらない)。

 タスクフォースの乃原(筒井道隆)はどこまでも憎々しく、グレートパイロットの木滝(鈴木壮麻)はいつも凛々しく、帝国航空の山久(石黒賢)はいつも気の毒で、金融庁の古谷(宮野真守)は黒崎に急所を掴まれただけだった。小悪党らしい小悪党の諸田(池田成志)、下がり土下座の曽根崎(佃典彦)、腐った肉の匂いがする永田(山西惇)、太洋証券の広重(山崎銀之丞)も物語を盛り上げたし(4人とも舞台で活躍している俳優だ)、三木(角田晃広)の小人物ぶりも忘れ難い。

複数の登場人物にファンがつく作品は強い

 これだけの個性的な登場人物が顔を揃えているドラマは滅多にない。キャスティングの豪華さ、人数の多さは通常のドラマを軽く凌駕しており、大河ドラマ、朝ドラに次ぐレベルだと言える。大ヒットドラマの待望の続編であり、局の看板である「日曜劇場」だからこそ実現したのだろう。スピンオフドラマが軽く5~6本は作れそうな顔ぶれだし、ぜひとも実現してほしい(誰のスピンオフドラマが観たいか、『半沢直樹』ファンにアンケートを取ってみたい)。

 しかも、単にキャストが豪華なだけではなく、それぞれに見せ場があり、それぞれが視聴者の注目を集め、場合によっては登場人物に熱いファンがついているドラマは稀有である。視聴者たちは、自分に近い年齢や立場の登場人物に感情移入したり、自分とかけ離れた登場人物を憧れのまなざしで見たり、彼らの言動に腹を立てたり、応援の声を送ったりしていた。

 50話前後ある大河ドラマや15分ながら130話前後ある朝ドラならともかく、全10話の連続ドラマでそのようなことが可能になったのは、長大な原作を整理し、登場人物それぞれに見せ場を与えた丑尾健太郎をはじめとした脚本家チームの功績が大きい。また、短い出番を120%、150%の力で演じることができる力量のある俳優たちを、知名度に頼らずに集めた伊與田英徳プロデューサーの手腕も欠かせない。先に「キャストが豪華」と書いたが、それまで知名度がなかった俳優でも『半沢直樹』に出ることで「豪華キャスト」の仲間入りをするケースが多々見られる。

 複数の登場人物がそれぞれ活躍し、それぞれにファンがつく作品は強い。近年では海外テレビドラマ、2.5次元と呼ばれる舞台作品、『仮面ライダー』シリーズなどがそうだろう。『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』のような長編コミック(アニメ)もそうだし、古くは『忠臣蔵』などのオールスター時代劇、歌舞伎の顔見世興行なども複数のヒーローが輝くコンテンツだった。

 とはいえ、人気や知名度のある役者を揃えただけでそうなるとは限らない。脚本、演出、演技力、予算……すべてが揃ったとき、『半沢直樹』のように複数のヒーローが輝く作品が出来上がるのだろう。『半沢直樹』の新しいシリーズが制作されるかどうかはわからないが、またこのような日本中を巻き込んで盛り上がるような作品が観てみたいと願っている。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■配信情報
日曜劇場『半沢直樹』
Paraviにて全話配信中
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS