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嵐、“騒がしい未来”の訪れまでを感じさせる映像がここに 愛と感謝が詰まった『ARASHI Anniversary tour 5×20』を見て

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リアルサウンド

嵐 『ARASHI Anniversary tour 5×20』を鑑賞し終えた直後の感想は、「最初から最後まで愛と感謝が詰まった4時間」だった。

 コンサートやライブにはそれぞれアーティストの個性やこだわりがあり、それぞれの形がある。嵐のコンサートの形は常に“幸せな空間”や“夢の時間”がベースにあると感じていたが、このツアーファイナルに関してはその土台に加え、今まで以上に濃密で濃厚な“愛”と“感謝”が凝縮された集大成だった。

 ここ近年の嵐のツアーの中では珍しくシングル曲を中心にしたシンプルでストレートなセットリストは、もちろん『5×20』のタイトル通り、20年間のシングルを詰め込んだベストアルバムを踏襲する意味もあるだろうが、その一方で初見や新規のファンでも楽しめるように、という配慮にも受け取れる。

 そのくらい、嵐のシングル曲は日本のエンタメに少しでも興味のある人であれば耳にしたことのあるヒットナンバーばかり、という実績の表れでもある。実際メンバーからも、新しいファンに向けた感謝の言葉が多々見られた。しかし、ほぼシングル曲のみというのは王道かつターゲット範囲の広い選曲である反面、“ありきたり”な展開にもなりがちで、ある種、諸刃の剣ともいえるだろう。

 そこを“ありきたり”や“単調”なコンサートにならない/しないところが、嵐のコンサートの魅力の一つだ。今回は特に、20周年という長い歴史に重きを置いている演出が素晴らしく、過去のコンサート映像やジャケットビジュアル、写真などが多く活用されていた。

 個人的にも、特に“粋”を感じた演出は「ハダシの未来」だ。シングル曲といえど、嵐が“低迷していた時期”と言われていた、まだブレイクする前の2003年に発売された曲であり、両A面での収録となった「言葉より大切なもの」と併せて、“世間的・ジャニーズ的には売れなかったが(それでもオリコン最高2位を獲得)、ファンにとっては超ド定番のコンサート曲”という、ある意味、少し特殊な位置づけの曲なのだ。

 さらに「言葉より大切なもの」はダンス曲というより、煽り曲としてコール&レスポンスが楽しみなナンバーだが、それと対になるようサビに特徴的なダンスがある「ハダシの未来」は、ハイクオリティなダンスが多い嵐の中では比較的シンプルで覚えやすい、ファンも一緒に踊ることのできる楽曲の一つである。

 この「ハダシの未来」の演出。メンバーの背後に控える超巨大LEDモニターには、2003年からほぼ毎年のように踊ってきた“コンサート毎の嵐”が映し出されていた。その映像は、まさに歴史を見ていると同時に、ファンの思い出そのものでもあった。まだ日の目を見ない(と言われていた)頃の曲を、それでも腐らずにずっと大事にして、毎年毎回積み重ねてきた軌跡が今現在のメンバーの映像と重なる。

 これには、長年ファンを続けている人ほど心震えるものがあったのではないだろうか。さらに映像作品の旨みとして、モニター演出を存分に楽しめる固定カメラの別アングルも収録されているので、こちらも必見である。

 その他にも、まだ5人が20代の頃に書かれたメンバー紹介のラップ曲「La tormenta 2004」や「Lucky Man」「COOL & SOUL」など、歴戦の古参ファンこそ“沸き上がる”、サービス的な曲もスパイスとして挟まれていたり、今までであればライブの後半以降に配置されがちだった「感謝カンゲキ雨嵐」や「言葉より大切なもの」をあえてスタートセクションに持ってくることで生まれる新鮮味など、シングルを中心としたストレートな選曲でも飽きさせない、ありきたりと思わせない工夫がそこかしこに散りばめられている。

 また、ファンとステージの一体感が強く感じられる点も、嵐のコンサートの強みの一つである。定番のコール&レスポンスはもちろんのこと、櫻井翔がピアノ伴奏を務める「アオゾラペダル」の大サビでの合唱など、ファンを信頼しているからこそ成り立つ仕掛けが、より大きな一体感を生み出している。MCでは櫻井が「20年も経つと、僕らと(会場のファンが)声と拍手で会話ができるようになってきたね」と発言する場面もあったように、一方通行ではなく、ファンも一緒になってその場を共有していると実感できるのだ。

 これは賛否両論あるかもしれないが、運営制御システムを搭載したペンライトの導入も、その一つであったのだろうと思う。もちろんペンライトはあくまでもコンサートグッズであって、強制的に所持を義務付けられているものでもない。だが、ライブの随所で見られるペンライトは、現地にいるときはもちろん、 映像作品になった時にも映える照明演出の一つとなる。嵐が、試行錯誤して魅せる演出の一端を、我々ファンの一人ひとりが担っているのだと思うと、まさにファン冥利に尽きる、の一言だ。

 嵐のエンターテインメントの魅力は、まだまだそれだけではない。嵐の真骨頂といえば、何度も何度も称賛されてきた“メンバー仲の良さ”だろう。

 コンサートではそれこそ、バラエティや音楽番組で見るよりも遥かにオーバーなスキンシップを至るところで拝むことができる。いくらオーバーなスキンシップでも、これっぽっちも演出的な要素を感じないところが本当に真骨頂であると思った。肩を寄せ合い、額を擦り合って歌ったり、隣り合ったメンバーの背中から腕を伸ばしてその隣のメンバーの腕を掴んで引っ張り合ったり、ハイタッチからのハグや曲が始まってるのにふざけ合っていたり……とにかく終始楽しくて仕方ない笑顔が溢れていた。

 終盤戦の「Troublemaker」では、通常は大野智・櫻井コンビの定番となっていた〈ハートビート〉のハートマークを、櫻井・松本潤で披露したかと思えば、その後ろでは二宮和也・相葉雅紀コンビがユニット曲「UB」の密着シンクロダンスを披露したりと幸せなじゃれ合いが全開で、思わず顔を綻ばせずにはいられなかった。ラストの挨拶でも、各メンバーがそれぞれ「(他の)4人が本当に楽しそうな笑顔でよかった」と繰り返すほどで、お互いがお互いの笑顔を引き出す、幸せのループが完成されていた。

 そして、やはりこのツアーファイナルの最大の見所は、ラストのMCと、そこから繋がる「5×20」のパフォーマンスだ。ここはもう、ぜひ心して見てくださいとしか言いようがない。当日現地にいた方も、映画館で見ていた方も、もちろんライブビューイングすら見れなかった方々も。

 意外に思えるかもしれないが、映像作品として見ると「活動休止発表後のコンサートツアー、かつ(現時点で)活動休止前最後の“有観客”コンサート」を収めた唯一の作品となる。

 今このタイミングで見るからこそ、一瞬たりとも見逃せない、切実な熱量が詰まったメンバーからの真摯なメッセージが心に深く響く。「5×20」のパフォーマンスも含め、涙腺が緩むことを覚悟の上、どうかしっかりと目に焼き付けて欲しい。

 とはいえ、感動の涙だけで終わらないのが、やはり嵐のエンターテインメントだろう。本編が終わってからさらに幸せ度の最高到達点を更新してくるかのようなお祭り騒ぎのアンコールに、これぞ嵐と満面の笑顔にさせられる。「Happiness」を最終曲に持ってくる演出もニクすぎて、最後の最後まで本当に最高だな、と震えた。〈思い出の後先を考えたら 寂しすぎるね 騒がしい未来が向こうで きっと待ってるから〉ーーまるでこれからの休止期間のそのまた先に、“騒がしい未来”があるのだと教えてくれているかのように、あたたかく胸に響く。

 まさに最初から最後まで愛と感謝と幸せに満ちたエンターテインメント。嵐の真髄ともいうべきステージの、その熱気も衝動も感動も存分に楽しめる満足の一枚であり、嵐からファンへの愛情と感謝が余すところなくパッケージされた、ファン必携、珠玉の映像作品だ。

■佐久良夏生
1988年生まれ。茨城出身。日本の音楽・コミック・サブカルチャーが好きです。