二階堂ふみが『エール』で見せる、確かな演技力 ヒロイン・音の心をより強く代弁
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一番近くで見ているからこそ、その変化を敏感に感じ取り時に不安を抱えてしまう。夫が変わっていく姿に動揺を抱えながらも、音(二階堂ふみ)は裕一(窪田正孝)が戦地に慰問に行く姿を見送る。『エール』(NHK総合)第17週「歌の力」では裕一の作った曲に力をもらい戦地に出向く人がいる一方、裕一が軍の姿勢に傾倒していく姿の危うさが生々しく描かれた。
第4週目から本格的に登場した二階堂ふみは、まだ幼さの残るあどけない表情の音から、裕一の妻としての堂々とした音までを、その卓越した表現力で演じ分ける。特に第16週から第17週にかけては、戦時下を生きる一人の女性として、そして母としてのたくましささえも感じられた。
裕一と一緒に泣き、笑い、時に怒り、喜怒哀楽をはっきりと表現してきた、かつての音には、どちらかというと素直で無邪気な印象があったし、裕一をリードする力強さはあったものの、どっしりと構えて「待つ」といった余裕は無いように思えた。しかし、ここのところの音は、不安や動揺を抱えながらも子育てや社会的な付き合いをこなし、裕一の仕事に対して真っ向から否定しない「中庸」を保っている。
パートナーとの価値観がズレていくもどかしさは、現代の夫婦やカップルにおいても同様に苦しいものだろう。音が裕一の思想に危うさを感じ、不安に思う姿からは、視聴者も同様の不安を煽られる。二階堂はそんな不穏な古山家の緊張感を、佇まいと表情からひしひしと感じさせた。
さらに裕一が慰問に行くと決意してからは、裕一に無事でいて欲しいが、為す術もない心の痛みを抱えながらも「あなたの音楽で兵隊さんたちを勇気づけてきてください」と言葉をかけ、裕一の頬を優しく両手で包む。久しぶりに裕一から音に宛てられた手紙は、慰問に向かう決意と音との暮らしへの感謝が綴られた切ない文面だった。ひとりこの手紙を読み、夕陽に照らされる音は「あなたを信じる」と口にし、裕一の無事を願う強い思いをにじませた。音はどんな時も裕一の音楽を否定せずに、一番の理解者であろうとする。
二階堂は2012年に園子温監督作『ヒミズ』で第68回ヴェネチア国際映画祭の最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。染谷将太と共に手にした日本人初の快挙を提げ、その後ドラマ・映画に立て続けに出演してきた。GACKTとダブル主演を務めた『翔んで埼玉』(2019年)では少女のような風貌の少年・壇ノ浦百美役で初の男性役にも挑戦。
数々の受賞歴に加え、コメディからシリアスな役まで、幅広く演じられる確かな実力ですぐに知名度を獲得した二階堂は、『エール』でもその実力を遺憾なく発揮している。10代から20代後半へと差し掛かるまでの音を、確かな成長としなやかな強さを感じさせる芝居で魅せた。さらに後半は、戦争に向かう夫を見送るという複雑な立場に。裕一を送り出すために溢れ出た愛情と気丈さが滲む視線には圧倒された。
まだ結婚したばかりの頃、音楽の表現力を磨くためとカフェーで働いていた頃の音を思い起こすと、なんだか懐かしく感じられる。そして、梅(森七菜)や華(根本真陽)の隣にいる音はもう、立派な大人なのだと実感する。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/