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“ゆめかわいい”提示した雑誌「LARME」復刊号の狙いは? 人気インフルエンサー起用などの施策を考察

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リアルサウンド

 女性ファッション誌「LARME」の復刊号が9月17日に発売された。

 2012年の徳間書店から創刊して以降、「甘くて、かわいい 女の子のファッション絵本。」というコンセプトの元、ガーリーな世界観を打ち出し、多くの女性読者の心を掴み、一時期は発行部数20万部を計上。創刊編集長の中郡暖菜氏は「徳間書店史上最年少の編集長」としても注目を集めていた。しかしながら、今年3月に休刊を発表。その後、中郡氏が徳間書店より事業譲渡し、株式会社LARMEを立ち上げたことも、出版業界では異例のこととして大きな話題を呼んだ。

 振り返ってみると、創刊当初の「LARME」という雑誌は異端であった。まず、創刊号の表紙はAKB48の渡辺麻友と乃木坂46の白石麻衣だ。今ではアイドルが女性誌のファッションモデルとして活躍することは、珍しくなくなったが、それ以前は少なからず壁があったように思う。例えば、11年に元モーニング娘。の久住小春が「CanCam」の専属モデルに「転身」したが、「男性ウケ」のアイドルと「女性ウケ」のモデルは並行して行うのは難しいという空気があったように記憶している。

 なぜ「LARME」はアイドルとファッション誌の壁を壊すことに成功したのか。もちろん、48Gを中心としたアイドルブームがピーク期だったことや、先述の渡辺や白石、あるいはNMB48の渡辺美優紀など、元々女性から支持の高かったメンバーだったということもあるが、「LARME」が打ち出していたのは、徹底的な「女の子だけの世界」だ。

 アイドル以外のモデルも中村里砂など「お人形のような」という形容される女の子たちで固められており、ファッション誌と比べて笑顔も少ない。異性の目を意識したモテよりも、自分の世界を至上とするスタンスであり、紙面には異性の影はほとんど感じられない(稀に中性的なミュージシャンが登場することはあったが)。そこに、「恋愛禁止」を謳うアイドルグループの持つイメージが、はからずもフィットしたのではないのだろうか。

 また、「LARME」から生まれた、あるいは「LARME」によって拡散された流行、カルチャーも少なくはない。目の下を赤くした「うさぎメイク」だったり、いまやリカちゃん人形にも使用されている「ゆめかわいい(※夢のように幻想的で可愛らしさのこと。ラベンダーや淡いピンクが用いられる)」も、モデルのAMOが2013年頃に提唱した概念である。

 誌面では「ゆめかわいい」というフレーズそのものは使用されていなかったと記憶しているが、「ゆめかわいい」のイメージを広めたのは「LARME」であることは間違いない。

 また、映画「ロリータ」特集を行った時は、撮影に使用したハートのサングラスが、急速に流行したことも筆者は記憶している。

 そんな一時代を築いた雑誌が休刊を経て、初代編集長の手で復活するとあらば、往年の読者の期待は高まらないわけがない。発売前からLINELIVEを使用した、モデルオーディションも開催され、その盛り上がりからも期待の高さが伺えた。

 しかし、満を持して発売された創刊号は賛否がわかれることになった。SNSを見ると、いくつかの大きな理由にわけることができる。

(1)人気インフルエンサーの起用

 先述したように、「お人形のような」モデルやアイドルが誌面を彩っていた「LARME」だが、復刊号の表紙を飾ったのは、多くの読者の様相とは異なり、インフルエンサー・なえなのであった。Tik TokやYouTubeで活躍する彼女は、「10代のなりたい顔ナンバーワン」と呼ばれ、SNSの累計フォロワー数も300万人を超える、人気インフルエンサーであることは間違いない。他にも多数YouTuberなどが登場しているが、従来の「LARME」のイメージとはそぐわないと、一部から反発が発生していた。思うに、インフルエンサーやYouTuberは「親しみやすさ」が重要な要素である。非日常的な孤高の美少を求める読者との需要のミスマッチがあったのかもしれない。

(2)量産型・地雷系ファッションの導入

 なお、量産型・地雷系ファッションを纏ったモデルらが、歌舞伎町の路上やホストの看板前で撮影を敢行したページも話題を呼んだ。

 「量産型・地雷系」のことは、こちらの記事(メイク動画の新潮流「量産型・地雷系」はなぜ人気? 藤田ニコルから峯岸みなみまで、ヒット動画とともに考察)でも触れたが、InstagramやYouTubeで注目されたファッションスタイルで、いわゆる「推し活(あるいはホスト客)」のファッションとされる。例えば、目の下を赤くする地雷系メイクは、「うさぎメイク」の発展系だと推測されるし、これらのファッションに「LARME」は少なからず影響を与えてきたのは間違いないし、歌舞伎町にはこういうファッションの女性が闊歩していることは事実だ(示し合わせたように二人一組で!)。しかしながらネット発のファッションスタイルを雑誌に持ち込んだことや、撮影場所が歌舞伎町という生々しさもあって、従来の「ガーリーで幻想的な世界」を求めていた読者にとってはショックなものだったのかもしれない。

(3)オーディション結果への不信感

 グラビア誌にせよ、ファッション誌にせよ、SHOWROOMなどの課金型動画サイトを通じたオーディションは珍しいものではなくなった。

 なお、課金が直接票となるため、男性ファンを多数抱えたアイドルが有利になる傾向がある。新生「LARME」も同様にLINE LIVEを舞台にオーディションが開催されていた(なお、休刊前の「LARME」も、この種のオーディションを行っている)。

 オーディションを勝ち抜いた上位の数名が撮影に参加したものの、撮影を行ったのに掲載されていないというアイドルのツイートが拡散された。なぜ掲載されなかったのか、理由が定かではないまま、次号に掲載されることが発表されたが、課金を重ねて応援してきたファンからは不信感を表明する声があがっていた。

 様々な理由もあって、SNSでは批判の声も大きいが、9月29日に発表されたプレスリリースによると、「LARME」復刊号は前号の3倍以上の売り上げを記録し完売したという。中郡編集長の最新のInstagramの投稿には「雑誌で描くのは人間の二面性。中心の安定ではなく、揺れる両極を追求する これは自分のための本なんだと思ってもらうこと。やっと自分たちの時代が来たんだと感じてもらうこと。」と綴られている。新生「LARME」は明確な意図を持って、(1)と(2)を行ったことが推測できる。(まあ、3に関しては何かしらの事務的なミスとしか考えられないが…。)

 ネット上にある過去の中郡氏のインタビュー記事を読むと、自身のもとめる雑誌を作る上で、出版社の上層部、いわゆる「おじさん」との意見の食い違いについても語られている。つまり「おじさん」の手を離れて作った新しい国が、新生「LARME」ということになのではないだろうか。自身が創刊した雑誌のために会社を作る、これは現在の出版業界の中では、本当に革命的なことである。一読者として、そして、出版業界の末端にいるフリーライターとして、女の子のための新しい国の行く末が、私は気がかりでならないのだ。

■藤谷千明
ライター。ブロガーあがりのバンギャル崩れ。8月6日に市川哲史氏との共著「すべての道はV系へ通ず。」(シンコーミュージック)を上梓。新刊『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)発売中。Twitter