JABBA DA FOOTBALL CLUB JUQIに聞く、現状への危機感とソロ活動に向かうまで 「“何もしない”っていうのは最悪」
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JABBA DA FOOTBALL CLUBのMCとして活動するASHTRAYがMCネームをJUQI(ジュキ)に改名し、ソロとして活動を展開。7月にリリースされた「Bye again」に続いてリリースされる「Miss Untouchable」は、奔放な女性に翻弄される男性をストーリーテリング的に描き、pinokoを客演に迎えた「Bye again (pinoko Remix)」と併せて、JABBAとは違う、センチメンタルな光景をソロMCとして表現している。グループでの活動に加えて、なぜソロという歩みと表現にはしごをかけたのか。初のソロインタビューという形で語ってもらった。(高木“JET”晋一郎)
自分の中で「いい歌」って、「みんなの歌」になるような曲
ーーJUQIさんはこれまでASHTRAYという名前で活動してきましたが、アーティストネームを変更されたきっかけは?
JUQI:正直言えば、そこまでASHTRAYっていう名前に対して大きな意志があったわけではなかったっていうのがあって(笑)。それでソロプロジェクトを始めようと思った時に、より多くの人に届くんじゃないかなと思って、名前を変えたんですよね。
ーー世の中の禁煙ブームも考えて?
JUQI:ってことはないんですが(笑)、でもより呼びやすい、キャッチーな名前になったほうが、自分の音楽を広く聴いてもらうきっかけが増えるかな、と。
ーー名前を変えてからマインドの変化はなにかありましたか?
JUQI:そこまで強くはないですね。コロナ禍も影響して、ライブもイベントもないので、リスナーの方に会う機会がほとんどないから、名前を呼んでもらう機会が単純に減っていることもあって、自分でも名前が変わったことをまだあまり自覚していないかもしれないですね(笑)。
ーー確かに、リスナーやオーディエンスの前に出ればそこで自覚が生まれるかもしれないけど、その機会が乏しいと。
JUQI:そうなんですよね。だから音源や作品をリリースしていって、知ってもらって、そこからだと思いますね。頑張っていかないと忘れられちゃうし。
ーーでは、ソロの動きはどのように始まったんでしょうか?
JUQI:JABBAと並行してソロをやりたいなっていうのは、2~3年前から考えてたことだったんですよね。そのためにメンバーのBAOBAB MCにトラックを貰って、ソロとしての習作を作る動きは細々とやっていて。それから、以前に所属してたOMAKE CLUB(注:TOKYO HEALTH CLUBのTSUBAMEが立ち上げたレーベル。週末CITY PLAY BOYZやTOSHIKI HAYASHI (%C)などがリリースを展開している)の『オマケのコンピ』っていうCDで、chop the onionさんの「Leave Me Alone feat. ASHTRAY(JBHFC) 」に参加させてもらったんですね。1ヴァースは書けたんですけど、2ヴァース書くのにすごく手間取っちゃって。
ーー確かに、グループだと大体1ヴァース書けば自分の持ち分は終わりますからね。
JUQI:それが癖になってたんでしょうね。チョップさんにも「ちゃんと2ヴァース書き切れるようになった方がええな」って言われて。それで、ちゃんと1トピックを立てて、そこに16小節×2とか、8小節×3みたいに、ソロで一曲ちゃんと仕上げる能力が必要だなって痛感したんですよね。自分自身を鍛えるためにも、そこで何か発見があるだろうなという思いもあって、ソロでリリックを書き始めて。
ーーその時書いたリリックはどんな内容でした?
JUQI:かなり生々しい内容になってたと思いますね。
ーー生々しいというのは具体的には?
JUQI:自分の内面が出過ぎた曲になってたと思います。自分では好きな曲だったし、メンバーにも聴いてもらって、みんな気に入ってはくれたんですが、まだ甘いところとか、荒削りな部分はあったなって。
ーーそのまま自分の思いを吐き出したような曲になってた?
JUQI:そうですね。それが悪いことではないと思うんですけど、「いい歌にすること」を考えてはいなかったかもしれません。
ーーその「いい歌」というのは?
JUQI:自分の中で「いい歌」って、「みんなの歌」になるような曲だと思うんですよね。
ーー多くの人に共有されるような曲というか。
JUQI:そうですね。だけど自分の最初のソロは「自分だけの歌」でした。
ーーJABBAのように「グループ」として曲を作るという手続きは、共同作業故にそもそもそこに「社会」が生まれると思うんですね。だから、グループの人がソロの作品を作るときに、その社会性を抜けてもっと「エゴ」を出したいから、という発言をされることが多いですが、JUQIくんはそれとは違う感覚だったと。
JUQI:確かに、自分ひとりの感覚を出したいっていう思いはあるし、自分がインディレーベルに所属して、そこからリリースを展開するなら、そういう曲でも良かったのかもしれない。でも自分はメジャーに所属しているし、デモで作っていた「自分だけの歌」は、流通させる作品か、といったらその部分はクリアできていなかったと思う。もうちょっと試行錯誤して、メジャーで流通させるっていうハードルを超えた作品を作らなくちゃなって。だから本格的にソロのアプローチを考えたのは、その目標が見えたときからでしたね。
ーーJABBAのメンバーであるROVINくんもソロ活動が活発ですが、それはどう見えていましたか?
JUQI:面白いと思いますね。それは僕だけじゃなくて、JABBAのリスナーの方にとっても。オートチューンをバリバリにかけた歌ものに近いアプローチって、JABBAのROVINでは表現されて無かった部分だと思うんですよね。そういった差異の面白さもありますし、ROVINの音楽性も広がっていったんじゃないかなって。
ーーそういったソロの動きは、グループの中ではどういう風に捉えていますか?
JUQI:ライブもイべントも思うように出来ないから、なにかしようと思っても、アクションを起こしづらい状況ではあると思うんですが、それで「何もしない」っていうのは、最悪だと思うんですね。それだと忘れられちゃうし、そこに対する危機感っていうのは、メンバーみんながもってたことで。ただ、現実問題としては、揃って動くのがはばかられる状況ではあるから、それを逆手に取って、ソロっていう形でアプローチするのはいいんじゃないか、というのは、メンバーの総意としてありました。だから、ROVINと僕とでリリースはかぶらないように考えたし、そういう段取りに関しては連絡を密に取り合って。そして、そこで得た経験を、JABBAに持って帰ろうという意識は明確にありましたね。やっぱり、ソロで新しいファンが生まれたなら、その人たちにもJABBAの音源を聴いてほしいってすごく思いますし。
ーーJABBAの『国道9号線』のリリースは3月18日でしたが、ちょうどその時期からコロナ禍の雲行きが怪しくなってきましたね。あの時期って、どのようなことを考えていましたか?
JUQI:3月ぐらいって、まだちょっと楽観視出来るような感じがあったじゃないですか。夏にはなんとかなるかな、みたいな。だからいまの状況は厳しいかもしれないけど、ちょっと我慢すれば、って考えてたんですが、その計画がどんどん難しくなっていって。だから、一気に絶望感というよりは、可能性がどんどん無くなっていくっていう、ジワジワとした辛さみたいなありましたね。
ーー真綿で首を絞められるというか。
JUQI:そうですね。でもJABBAのライブだけがダメになってるんだったら、そこでフラストレーションもあったと思うんですけど、世界全体、社会全体がそういうモードになっていったんで、ネガティブに陥ってしまうよりは、拗ねてる場合じゃないなってマインドではありましたね。だからソロに進むこともすぐに考えられたし。
ーー昨年の12月にはJABBAとして『ヒプノシスマイク』に「School of IKB」(山田二郎ソロ曲)を提供しましたね。
JUQI:面白かったですね。ラップって「自分のことを書く表現」だと思うんですが、キャラクターに対してリリックを書くっていう、普段のアプローチとは真逆の表現をすることになったんで、どうしたら楽しんでもらえる楽曲を作れるのか、どういう仕掛けを込められるのかというチャレンジは楽しかったし、そのアプローチは自分の性にもすごく合っている感じがしました。
ーーそれはJUQIさんのソロ作にも繋がってる感触があるんですね。JUQIさんのソロ作のリリックは、一人称であることはJABBAとは変わらないんだけど、ストーリーテリングで構成される部分も含めて、いわゆる「俺語り」よりも、もっと一人称の枠が広いと思うんですね。だからエゴではあるんだけど、そのエゴの押し出しがそこまで強くないというか。そして、その究極の形がヒプマイだと思うので、先程のヒプマイでの作詞が性に合ってたというのは、そういった部分に繋がっていくのかなって。
JUQI:あ~、なるほど。確かにそうですね。ストーリーテリングはやってて面白いし、音楽の中で物語を作っていくアプローチにはチャレンジしたいと思っいてたので、ソロとヒプマイが繋がっているとしたら、その部分は大きいと思いますね。やっぱり一人で物語を完結させるっていうアプローチはJABBAでは出来ないことだから、無意識的にかもしれないけど、JABBAで出来ないことを、ソロでは目指してたのかもしれないですね。
(ソロは)自分のオリジナリティを探すという作業でもありました
ーーソロの初作となる「Bye again」は7月22日にリリースされましたが、この楽曲の制作はどのように進められましたか?
JUQI:ビートメーカーのSUIさんと僕、それからJABBAのノルオブやスタッフと、JUQIのソロはどういった形で打ち出すべきか、話し合いをしたんですよね。そこで出たアイデアがストーリーテリングで。映画を元にして、それをベースに作り上げていくっていうのはどうだろうっていう話になって。ただ、当然ですけど、内容をなぞっただけの曲じゃ意味がないし、単調な曲にもしたくなかったんで、もっと自分の個人的な感覚や、自分らしいノリをしっかりと作品に込めようって。だから、フロウやグルーヴの部分でどう変化をつけていくのかは、腐心した部分ですね。
ーーグループなら自然に変化は生まれるけど、ソロだとそこに自覚的にならないと、どうしても一本調子になってしまいますね。
JUQI:そうですね。だからこそすごく考えたし、自分の好きなフロウやアプローチでしっかり一本筋を通そうとしました。
ーーロングライムを踏んだりする部分でもJUQIさんらしさは出ていますね。
JUQI:そこは絶対に外せない部分でしたね。それをやらないと自分の好きな音楽じゃなくなってしまうと思うんですよ。音楽のジャンル分けは人が決めるところだと思うので、そこに対しては意識はしなかったですけど、自分の好きな音楽はこういう形やフォーマットがあるんだっていうことは、作品に落とし込みたかった。だからライミングしながら筋の通った話をするのは外せない部分でしたね。他にも〈忘れたリング〉と〈どうすればいい〉っていう歌詞も、スタッフからは変えたほうが良いかも、って意見がでたんですよね。でも、そこは響きとして重要だったから変えたくないっていう自分のエゴは通させてもらって。それが出来ないとアーティストとして面白くなくなってしまうと思ったし、自分のオリジナリティを探すという作業でもありましたね。
ーーこの曲のMVはアニメーションで制作されていますね。それはいわゆるローファイヒップホップのような流れとの親和性も感じたのですが。
JUQI:コロナ禍っていう状況が影響してるのは間違いないですね。やっぱり時期的にも撮影が難しかったので。それに、切ない物語をストーリーテリングしてた曲に、自分が登場するのもまたちょっと違うかなって。安いカラオケ映像みたいになっちゃいそうで(笑)。それでアニメがMVの中心になりました。
ーー新曲となる「Miss Untouchable」ですが、このテーマはどのように?
JUQI:SUIさんから頂いたビートに合わせてサビを考えているときに、「Miss Untouchable」っていうフレーズとメロディがバッと浮かんできたんですよね。そこからアンタッチャブルな女の子と翻弄される男、っていうイメージが繋がっていって、楽曲を広げていったんですよね。
ーー登場する男性はかなり女性に振り回されていますね。
JUQI:『女々しい』っていう言葉は基本的に男にしか使わない言葉だと思うんですけど、僕はどっちかというとそっちのタイプだと思うんですよね。でも、それが悪いっていう話じゃなくて、こんな人って他にもいるよね? という仲間探しみたいな気持ちで書いたんですよ。“あるある”だと思ってくれる人がいないかなって(笑)。確かに、古い価値観だったり、ラップ的なマッチョな価値観からすると、男らしくない内容だとは思うんですけど、それでも良くない? って。
ーーRHYMESTER「肉体関係 pt2 逆featuringCrazy Ken Band」の引用も印象的ですね。
JUQI:そういう遊びも入れたいなと思ったし、やっぱり男女やパートナー同士のいざこざっていうことを考ええると、真っ先に浮かんだのは「肉体関係 pt2」で。だから「Dさん、すみません、お借りします!」って(笑)。
ーー〈頼りになるのは月明かり〉からのライミングも固いですね。
JUQI:ストーリーテリングとしても成り立ってると思いますけど、同時に音楽の気持ちよさもちゃんと落とし込みたいと思ったんですよね。最悪、歌詞の意味は伝わらなくてもいいから、ラップの気持ちよさだったり、フロウの面白さみたいな部分が届いてくれればいいなって。
ーーそして「Bye again」のリミックスにはpinokoさんを迎えられています。
JUQI:1stヴァースは置いていかれた男性目線、2ndヴァースは置いていった女性目線で作りたかったんです。なのでせっかくだから実際に女性目線のリリックを、女性ラッパーに書いてほしいなと思って。それでラッパーを探すなかで、pinokoさんに出会ったんですよね。インタビューを読んだらNORIKIYOさんとかライミングの固いハードなラッパーもお好きだったので、ぴったりだなと思って。pinokoさんのリリックに出てくる〈呪い〉みたいなフレーズは自分の中からは出てこなかったと思うし、pinokoさんのカラーも込められた楽曲になったと思いますね。
ーー今までリリースされた曲はラブソングが中心ですが、あまり明るい形ではないですね。
JUQI:一緒に作ってる人の性格かなあ(笑)。
ーー人のせいにしてどうするんだ(笑)。
JUQI:あんまりそこは考えてなかったですね。いま作ってる曲はめちゃくちゃハッピーなラブソングだったりするので、現時点での表現になるんだと思います。でも、自分の性格的にはどっちかと言うと湿っぽかったり、湿気を帯びたような曲が好きなんで、その部分も反映されてるのかなと思いますね。それに、ソロとして登場するのに、いきなり明るいラブソングっていうのもまた違うのかなって。そういうタイプでもないと思うし。
ーーJABBAの「きみは最高」みたいな曲とのカウンターではない?
JUQI:意識はしてなかったけど、たしかに言われればそうですね。だから潜在的にはそう感じてたのかもしれない。あとJABBAで四人のおっさんが失恋ソング歌ってもしょうがないって部分はあるので(笑)、ソロだと表現できるのが、そういう悲しいラブソングだったのかもしれないですね。
ーー最後に、これからソロはどのような動きを考えていますか?
JUQI:お話したとおり、新曲も着々と作っているので、それを丁寧に形にしていければなって。作品を作ることは止めないと思うし、一歩ずつ進んでいければなと。あとメインとなるJABBAの動きも進んでいて、完全な新曲も作り始められる段階には入ってきているので、近いうちに新曲をお聴かせすることが出来るんじゃないかな。この半年ぐらいは本当にメンバー全員で会う機会がなかったんですけど、4人で会う機会も増えているんで、お待たせしてすみませんが、もうちょっとだけ待っててください! っていう感じですね。
■リリース情報
「Miss Untouchable」
2020年10月7日(水)配信
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