『TENET』エリザベス・デビッキらオーストラリア出身俳優台頭のワケ ハリウッドとの関係も深い!?
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日本でも大ヒット中のクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』で、ひときわ鮮烈な印象を放っているのがキャット役を演じたエリザベス・デビッキだ。女性キャラクターの描き込みに賛否があるノーラン作品といえども、主演のジョン・デヴィッド・ワシントンやロバート・パティンソン、そして夫役であるケネス・ブラナーらの“お飾り”になることは決してなく、191cmの高身長から放たれる圧倒的な存在感で見事なまでに観客の視線を独り占めしている。
そんなデビッキのフィルモグラフィを遡ってみれば、バズ・ラーマン監督が手がけた『華麗なるギャツビー』やガイ・リッチー監督の『コードネーム U.N.C.L.E.』、さらにはMCUの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』、日本では未公開でソフトスルーになったスティーヴ・マックイーン監督の『ロスト・マネー 偽りの報酬』と、すでに一線級の活躍をしていることは言うまでもない。それでもこのコロナショックで世界中の多くの人々が映画館に戻るきっかけを作った『TENET テネット』において、物語の中心核を担うひとりとして活躍を見せたということはあまりにも大きく、本作を契機にさらなるブレイクを果たすことは待ったなしであろう。
このデビッキをはじめ、ハリウッドの映画界ではオーストラリア出身俳優のめざましい活躍がかなり長いことつづいている。その間口を最初に開いた俳優は、1930年代に活躍したエロール・フリン(マーティン・スコセッシの『アビエイター』でジュード・ロウが演じたことでも知られている)であり、その後2代目ジェームズ・ボンドに抜擢されたジョージ・レイゼンビーや『マッドマックス』で脚光を浴びたメル・ギブソン、オーストラリア人俳優として初めてアカデミー賞を受賞したジェフリー・ラッシュらが強固な礎を築いてきた。
その後90年代に入り、地元の作品で確かな力量を見せたニコール・キッドマンやラッセル・クロウらが注目を集めるようになると、いまやオーストラリア出身俳優の代表格であるケイト・ブランシェットとヒュー・ジャックマンが登場。ほかにも『メメント』のガイ・ピアースや『ダークナイト』のヒース・レジャー、『ヘレディタリー 継承』や『もう終わりにしよう。』で怪演女優としてその名を轟かせるトニ・コレットらが続々ハリウッドで頭角を現し、ルーク、クリス、リアムのヘムズワース兄弟や、『アバター』のサム・ワーシントンなど、枚挙にいとまがない。
なぜここまでオーストラリア出身俳優はハリウッドで強いのか。その理由を挙げれば様々なことが考えられる。アメリカ・イギリスに次ぐ英語圏の大国であることを第一に、ギブソン、ラッシュ、ブランシェット、ワーシントンらを輩出したオーストラリア国立演劇学院などの育成環境の充実。そしてなんといっても、長年にわたって培われてきたハリウッドとの関係の深さも忘れてはなるまい。ハリウッドメジャーの映画会社の多くがオーストラリアにスタジオを建設したことによって、米豪合作の作品も数多く作られてきた歴史があり、地元の人材が雇用されるチャンスがスタッフのみならずキャストにも与えられることとなったことも極めて重要なファクターといえるだろう。
前述した『華麗なるギャツビー』はオーストラリア国立演劇学院出身のラーマン監督による米豪合作映画であり、デビッキもそうしたチャンスを見事にもぎ取った一人である。とりわけ2010年代以降にハリウッドで頭角を現した“第三世代”においては、女優の活躍が目立つ。それはやはりブランシェットやキッドマンがハリウッドで積み上げてきた功績によるものが大きいのかもしれない。エミリー・ブラウニングにミア・ワシコウスカ、『ピッチ・パーフェクト』のレベル・ウィルソン、そして『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でオスカー候補にあがり、DC作品でのハーレイ・クイン役で人気が急騰したマーゴット・ロビーと、それぞれ持ちうるカラーが明確に異なっているのも興味深いポイントだ。
ちょうどこのコロナ禍において、ハリウッドはもちろん世界中の映画業界が足踏みをしているなかで、比較的早い段階で事態の収束がみられたオーストラリアとその隣国ニュージーランドでは、大作映画の製作がすでに段階的ではあるが再開されている。ニュージーランドでは『アバター』の続編の撮影が進められており、オーストラリアではMCUの最新作『Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings(原題)』の撮影が再開。年明けには『Thor: Love and Thunder(原題)』も再開する見通しだ。オーストラリアの映画界がこれまで以上に活気付くとなれば、さらなるスター俳優が続々誕生し、ハリウッドだけでなく世界中を賑わすことになるに違いない。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『TENET テネット』
全国公開中
監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
製作:エマ・トーマス
製作総指揮:トーマス・ハイスリップ
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ディンプル・カパディア、アーロン・テイラー=ジョンソン、クレマンス・ポエジー、マイケル・ケイン、ケネス・ブラナー
配給:ワーナー・ブラザース映画
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公式サイト:http://tenet-movie.jp
公式Twitter:https://twitter.com/TENETJP