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パソコン音楽クラブが伊藤万理華にビートメイクを伝授? TR-707&TB-303で人生初のDTM体験レポート

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 伊藤万理華が様々なジャンルのアーティスト/クリエイターに会いに行き、これまでのキャリアやクリエイティブについて聞く<インタビュー>と実際に彼女が創作に触れる<体験>を行なう連載企画『Marika’s Labo』。第一回目のゲストに西山と柴田からなるパソコン音楽クラブを迎え、前編ではユニットの結成やクリエイティブにまつわる対談(伊藤万理華がパソコン音楽クラブに聞く、表現に対する思い 新連載『Marika’s Labo』スタート)を展開したが、後編では実際の機材を使って伊藤がビートメイクに挑戦。パソコン音楽クラブが実際に使用しているドラムマシン・ Roland TR-707やベースラインシンセサイザー・ Roland TB-303といった機器でプチセッションを行った模様をレポートでお届けする。(編集部)

【伊藤万理華がDAMを初体験】パソコン音楽クラブによる「reiji no machi」パラデータ解説!
【伊藤万理華がDTMに初挑戦】パソコン音楽クラブがTR-707やTB-303でビートメイクを伝授!

DAWで「reiji no machi」のパラデータを解説

 まず最初は、PCでの音楽制作には欠かせないソフトウェア・DAW(Digital Audio Workstaion)の画面で楽曲「reiji no machi」のパラデータを紹介(画像1参照)。ドラム、ベースといった楽器やボーカルなど、楽曲を構成する様々な音源データが詰まった画面を見た伊藤は、その緻密なデータの集合体に驚きの声を漏らす。

西山:一般的にバンドの場合は、それぞれの楽器パートをレコーディングエンジニアの方に録音してもらい、それをミックスして曲を仕上げていくと思うんですけど、僕らの場合は音の選定からDAWへの録音、加工、ミックスまで、エンジニア的な工程もほとんどの場合すべて自分で行います。

柴田:ここに持ってきた機材は実演向けな機材になるんですけど、実際は様々な音が入ったもっと業務用的な機材があって、そこから音を選んで、DAW上で重ねていくような形です。

伊藤:この中には、どのくらいの音が入っているんですか?

西山:だいたい、70から80個くらいですかね。ただ単純にドラムというわけではなくて、バスドラムやハイハット、スネアみたいにバラバラなものを組み合わせてるんです。

柴田:僕らはシンプルに作っているので、トラック数も比較的少ない方だと思います。人によっては何百というトラックを重ねる方もいますね。

伊藤:ボーカルだけでも色々なパートがあるんですね。

西山:コーラスも分かれていて、重ねると少し合唱っぽい感じになっています。あとこれとは別にピッチをすごく高めた変な声も入ってるんですけど、それも機械なのですぐにできますね。ドラムもドンドンドンっていうキックがあったり、ちきちきちきっていうハイハットがあって。そういうのをあわせてビートというか、ひとつの曲を構築していくんです。

 パソコン音楽クラブは楽曲制作を二人で行うのだという。どちらかがメインで作詞・作曲を担当した際は、もう一方が客観的な目線でアレンジするようなバランスで制作を行っている。

西山:「reiji no machi」はデモを僕が作ったんですけど、そこに面白い音やちょっとしたクセのあるフレーズを入れてもらいました。自分だけで作るとどうしても視野が狭くなることが多いので、分かりやすい方向に進んでしまう節があるんです。やっぱりそういう風にまっすぐ進んでいくと全然面白くない感じになるので、自分に持ってない部分を柴田に入れてもらう。逆の場合は、僕が想定していなかった音を入れて、「あ、それ思ってなかったけどいいな」みたいな作り方ですね。

伊藤:作っていく中でお互いの性格が出そうですね。一連の作業を重ねる中で、「こういう音がほしい」「なんか足りない」みたいに音をどんどん追加していくのですか?

西山:僕の場合は、メロディが頭に浮かぶときに、バックで鳴っているコードも一緒にイメージしているので、それをそのままピアノみたいな音で打ち込んでからベースやドラムで雰囲気を作っていくような流れです。DAW上で見ると何十個も音を重ねるのは難しく見えるのですが、作っているときはノリでバーっと音を入れてしまうので、どちらかというと音を間引いていく作業が大変で。

柴田:音数が多ければ多いほど、全てをバランス良く並べるのにすごくスキルが必要なんです。気付くとごちゃごちゃしていることが多いので、惰性で入れてる音とかを間引いたりして、必要最低限の音に絞るようにしていますね。でも、西山の方が変な音をいれてくるんですよ。歌モノでも歌が聴こえないくらいの音を入れてきたりするんですけど、本人は全然変だとは思っていなくて。そこが面白くなるポイントだと思いますね。

伊藤:良いバランスで成立しているんですね。

ドラムマシン&ベースシンセサイザーでビートメイクを体験

 最新鋭の機材ではなく、80~90年代の音源機材をメインにした音楽制作を徹底しているパソコン音楽クラブ。今回用意したTR-707(画像2参照)やTB-303(画像3参照)も80年代に発売されたものではあるが、リアルタイムではなく、発売からしばらくしてからミュージシャンの間で注目を集めるようになった。

西山:例えばTR-707はドラムマシンと呼ばれる機械で、自宅でデモを作るときやライブでドラマーが見つからないとき、その代わりとしてドラム音が出せる便利アイテムとして発売されたんです。1984年頃の機材ですが、音のクオリティが独特で面白いんですよ。

柴田:どちらも演奏者の代わりになるという目的で作られたもので、本来はクラブミュージックのために作られたものではないんです。当時の音の技術ではベースやドラムの音を正確に再現できなかったんですけど、逆にその奇妙な音が評価されてクラブミュージックに取り入れられていって、一種のジャンルを作った楽器なんですよ。

 まず最初にドラムマシーン・TR-707の試演にチャレンジ。手探りにツマミをいじりながらミディアムタムやバスドラムの音でビート作りを体験すると、伊藤は「すでに音楽が作れている感覚です」とその手軽さに驚きを見せる。パソコン音楽クラブ曰く、音楽の知識がなくても楽しめるところが打ち込み音楽の面白さのひとつであり、そこから試行錯誤を重ねていくことが醍醐味だという。

西山:音を置く位置を選んでボリュームやテンポを調整するだけなんですけど、ダンスミュージックはそこにセンスが全て出るというか。

伊藤:こうやっていろいろ試しながら、いい感じのリズムを探していくんですね。

柴田:今は音が小さいのでわかりにくいんですけど、クラブで大きい音が流れた時に低い音が急に消えたりするとお客さんはすごく盛り上がるんです。低音から受ける振動とかは、しっかり音が出る場所で聴くとびっくりすると思いますよ。聴いていた音と全然違う、みたいな。

伊藤:なるほど。(バスドラとハイハットの組み合わせを聴きながら)もう踊りたくなります(笑)。

柴田:こういうドラムの音を僕たちは楽曲制作で使っているし、軽い音なのでベースの上に乗せて盛り上がりを作ったりします。

 次は「全然ベースの音じゃない!(笑)」と伊藤が指摘したベースシンセサイザー・TB-303の試演へ。1982年に発売された同機も、発売当時はベース音の再現クオリティが低い理由から人気は出なかったものの、のちに海外のダンスミュージック界隈で再評価され、一世を風靡した。

西山:バンドをやろうとしている人がTB-303を買って、この音が鳴ったら結構がっかりすると思うんですよ(笑)。当初は全然売れなくて、外国の方に安価で流れていたんですけど、そしたら向こうの人たちが面白がって、ハウスやテクノミュージックに使われるようになったんです。

 TB-303をいじりながら、TR-707のドラムと合わせていく伊藤が「なんかレトロで懐かしい」「すごい楽しい、面白い!」と嬉々とした表情でツマミをいじると、西山は「こういう同じ音の連続が少しずつ変わるところが、トランス感というか、何かを忘れて音楽に浸るみたいな感覚を生み出してるんだと思います」とクラブミュージックの魅力を解説。伊藤も「観客の反応を見たいです。演奏する人の目線に立ってみて、どんな感じでワーって盛り上がるのか体験してみたい」と同意した。

 すべての機材を触った伊藤は「初めて触ったけど、知識がなくてもこういう風にリズムを刻めるから、私も挑戦できるんじゃないかなって思いました」と二人に感想を伝える。約30分程度、ぶっつけ本番的なチャレンジではあったものの、試演を通してより音楽作りに興味を持ったことが伺えた。

西山:僕たちはもともとバンドをやっていたんですけど、ギターやキーボードの演奏技術を高めることに限界も感じていたんです。そこからこういう音楽制作の仕方に興味を持って、今やったみたいに試行錯誤しながら良いものを作っていくことが面白くなっていって。今はもっと取っ掛かり易いと思うので、みんなに挑戦してもらいたいですね。

伊藤:私みたいに音楽の知識がない人にも触れていただきたいなって思いました。短い時間でしたけど楽しかったですし、学校で音楽の授業に取り入れても面白いかもしれないですね。

柴田:作曲にも、ギターで作る人、楽譜を書く人、いろんな創作のアプローチがあると思うんですけど、そのひとつとしてこうやって音の抜き差しで作る音楽もあるのかなと思います。歌モノを作るにしても、こういうエッセンスを少し足すと面白くて奇妙なものができる。「reiji no machi」にも今回体験してもらった要素も入っていますが、色々な要素を掛け合わせていくことで面白いものが生まれるのかもしれないと思います。

西山:なんか地味な感じですいません(笑)。

伊藤:いえいえ! もっと詳しくなりたいなと思いましたし、これからパソコン音楽クラブの曲を聴くのがもっと楽しみになりました。

 今回の体験を通して、親交を深めたパソコン音楽クラブと伊藤万理華。過去には音楽提供と出演者として『MOOSIC LAB 2018』のオープニング映像でコラボレーションした両者だが、いつかはひとつの楽曲の中でコラボする日が来ることに期待したい。

【『Marika’s Labo』バックナンバー】
第一回(前編):伊藤万理華がパソコン音楽クラブに聞く、表現に対する思い 新連載『Marika’s Labo』スタート

■リリース情報
パソコン音楽クラブ
『Ambience』
発売中
1,500円+税
<収録曲>
1. Breathing
2. Curved River
3. Ventilation
4. Murmur
5. Downdraft
6. Overlay

今作は6曲で構成されるインストアルバム。
自粛期間中の自分たちの生活を取り巻く空気を描いた作品となっている。

■パソコン音楽クラブ プロフィール
2015年結成。”DTMの新時代が到来する!”をテーマに、ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど80~90年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを用いた音楽を構築。2017年に配信作品『PARKCITY』を発表。他アーティスト作品への参加やリミックス、演奏会を重ねながら、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソング、TVドラマ「電影少女 – VIDEO GIRL AI 2018 -」の劇伴制作、アニメ「ポケットモンスター」のEDテーマ制作などを手がける。2018年に自身ら初となるフィジカル作『DREAM WALK』、2019年9月4日にセカンドアルバム『Night Flow』、12月8日に『Night Flow Remixes』をリリース。
そして2020年8月7日に自粛期間中の自分たちの生活を取り巻く空気を描いた、6曲で構成されるインストミニアルバム『Ambience』をデジタル配信リリースした。

パソコン音楽クラブ公式サイト

伊藤万理華オフィシャルサイト