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エンジニアが明かすあのサウンドの正体 第19回 サウンドエンジニアは普段どんなことをやっているのか

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かねこきわの

誰よりもアーティストの近くで音と向き合い、アーティストの表現したいことを理解し、それを実現しているサウンドエンジニア。この連載ではこれまで中村公輔がさまざまなエンジニアに話を聞いてきたが、今回は中村自身がエンジニアを務めたかねこきわののアルバム「チョコレートムンク」を題材に、彼が普段どのようにエンジニアリングを行なっているのか、詳しく解説してもらった。

文・構成 / 中村公輔

プロデューサー、ディレクター、アレンジャー、エンジニアの役割

エンジニアの中村です。昨年から音楽ナタリーで、レコーディングエンジニアにインタビューする連載をやらせてもらっています。その記事中で録音テクニックや、現場でのエピソードなどが語られているのを読んで、読者の方は漠然とすごさを感じ取ってくれていると思います。ただ、実際のところそれをやって、どれくらい変わったのか、クオリティが高まったのかは、リスナーは完成品しか聴くすべがないのでブラックボックスですよね。ビフォー / アフターを知っているのは、仕事で関わった人だけなのが普通です。大御所のアルバムだとリマスターの際にデモが追加されたデラックス盤が発売されたりしますが、それもデモというよりは完成一歩手前のNGテイクといったほうが正しく、スタジオ録音に入る前のデモが流出するのはレアなケースだと思います。ところが偶然、僕が先日録音を担当したアルバム、かねこきわの「チョコレートムンク」は、作品が発売されたあともデモがSoundCloudに残っているのを発見。これはいい機会なので、本人の了承を得て、いったいレコーディングでは何が行われているのかを解説したいと思います。

まず、そもそも音楽制作にはどのような人が関わっているのか、実際にやったことがない人にはわかりづらいと思います。少し説明が長くなりますが、それぞれどんな仕事をしているのか紹介していきますので、しばらくお付き合いください(知ってる人は飛ばしちゃってください)。

楽曲は作曲者やボーカリスト、楽器プレイヤーのほかに、プロデューサー、ディレクター、アレンジャー、エンジニアといった方々が分業して作っていきます。プロデューサーは、金銭面やプロジェクト自体を管理する役割の人と、音楽の内容に関与する音楽プロデューサーがいて、一般的に「◯◯プロデュース」などと言って名前が出てくるのは音楽プロデューサーのほうですね。「こういうことをやりましょう」と音楽の方向性をアーティストと相談して決めたり、音楽的なアイデアを出したり、場合によってはバックトラックを全部作る人もいます。すべての楽器を自分たちで演奏するバンド形式の活動で、ある程度経験を積んでいる人はセルフでプロデュースすることも多いです。

ディレクターは現場監督で、プレイヤーに「こういうニュアンスで演奏してほしい」とか、エンジニアに「こういう質感で音を作ってほしい」とか、具体的に指示を出してクオリティをコントロールする仕事です。最近は作曲家かエンジニアが兼任することも増えました。例えばノウハウの蓄積がある演歌のようなジャンルでは指示の方向性を明確にしやすいですが、新しいジャンルの場合は同じように指示するのが難しかったり、技術革新のペースが早くてどこまでできるのかわかりにくかったり、以前よりリリースするタイトル数が増えてメーカーの人が現実的に対応できなかったりします。これらの理由から、作曲家なりトラックメーカーなり楽曲を一番理解している人が担当するか、バンドなどの場合は自分たちが演者で客観視しづらいので、エンジニアが担当する形が増えていますね。

アレンジャーは楽曲に音楽的な肉付けをしていく係です。ポップスの著作権はメロディに発生するので、極端な話、「フンフンフーン」と鼻歌を歌っただけでも作曲になるんですね。僕はアレンジの仕事をしていたこともあるんですが、本当に鼻歌のファイルだけが送られてきたことも何度かありますし、それにギターとかピアノでベーシックなコードの伴奏だけを付けたものが送られてくることは普通でした。そこから、各楽器がどんなフレーズを弾いたり、どんなコードを押さえたり、どんなリズムパターンで演奏するのかを決めて、楽曲を膨らませていくのがアレンジです。ただこれは、作曲家本人が全部自分でやってしまうことも多いですし、バンドならできないことだけ、例えばストリングスのアレンジだけをアレンジャーにお任せするという形も多いです。プロデューサーと似た部分がありますが、違いはアレンジャーが方向性を決めることはまずないことですね。「これはレゲエ調で行きましょう」とか「ヒップホップっぽい味付けにしましょう」といった決定はプロデューサーが下して、そういうのが得意な専門家=アレンジャーに頼むという流れです。

エンジニアの仕事は大きく分けて、マイクを立てたりレコーダーを回したりする録音作業と、それぞれの楽器の音量バランスを整えたり適切なエフェクトをかけたりするミックス作業の2つです。これは両方とも1人でやることも多いですが、大規模なプロジェクトで並行作業するようなときには、分業をすることもあります。その場合にはクレジットが、レコーディングエンジニアとミックスエンジニアに分かれて表記されていますね。自宅録音を除いて、録音作業の際には常に同席する仕事なので、プロデューサーやディレクターを兼務するような場合も増えています。日本の場合、プロデューサーはレコード会社の社員か、音楽家やミュージシャンがなることが多い職業ですが、海外ではエンジニアからプロデューサーに転身したり兼務したりするケースが多いです。例えば初期Pink Floydのプロデュースは、The Beatlesの元エンジニアのノーマン・スミスがやっていました。作曲家がプロデューサーになった場合は音楽的に凝ったもの、アレンジが音楽性に沿ったものになりやすく、エンジニアから転身した場合には音響的に凝ったもの、音質が素晴らしいものになる傾向があると思います。

リズムの精度が向上した「HAUTE COUTURE」

さて、前置きが長くなりました! まず今回のかねこきわのさんケースでは、Cubaseで作ったデモの段階から世界観ができあがっていて、これを崩すべきではないと感じたので、セルフプロデュースということになります。その中で、このままの線でもっとみんなに聴いてもらいやすいように、安心して聴けるように、ただしイビツな部分とか毒っぽい要素は残したままパッケージできるようにと考えて制作に入りました。

かねこさんは“いい曲を作る”とか“ドラマ性のある歌詞を書く”とか、内容の部分に全精力を注いでいて、“これをみんなに聴いてもらう”というところまで意識が回っていないように感じました。これだと最初から付き合ってくれるつもりのファンには絶賛されるかもしれないですが、まったく興味がない人には不親切で、通して聴いてもらえれば好きになってもらえるかもしれないのにもったいない。アレンジもかねこさん本人がやっているので、制作に入るにあたって、まずはそこを底上げしましょうという話をしました。特にリズムは打ち込みの打点が合っていないところもあり、手を入れてもらったほうがいいと思いました。最低でも縦線はきっちり合うように、欲を言えばグルーヴが出るくらいまで詰めたいところ。打ち込みだとDAWソフトのグリッドに沿っていれば、一見リズムは合っているように見えるんですが、楽器ごとに立ち上がりの速さが違うため、同じ位置にあってもバラバラに聞こえるんですね。例えばチッチッと鋭く鳴っているハイハットと、フワーっと立ち上がってくるストリングスを同時に鳴らすと、ストリングスのほうがかなり遅く聞こえますし、同じドラムでも音色が違うだけでノリが変わって聞こえます。これは実際に演奏していればプレイヤーが自然と合うように調整していく部分なんですが、全部1人でやっていると得意な楽器以外は目が届いていないことが多いです。もう1つ、グルーヴについては「好きな曲のリズムパターンを同じようなタイム感でコピーしまくれ」という話をしました。「メロディには著作権があっても、リズムパターンやノリに著作権はないので、コピーして自分のものにしよう。特にポップスだと2拍目、4拍目のスネアの位置や、ハイハットの揺れ方、音量差の付け方などが重要なので、そこに注目して真似していくとノリが格段によくなる」という話をして、前よりもリズムの聞き取りの精度を上げてもらうことにしました。デモ曲が上がっている中で、この違いがわかりやすいのは「HAUTE COUTURE 」だと思います。

まったく同じ曲ですが、完成版のほうがスッキリとしてそれぞれの楽器が聴き取りやすくなっていると思います。これはミックスのバランスの取り方できれいに聞こえている面もありますが、かねこさんが細かくタイミングを詰めていったことのほうが大きいです。このあたりの指導というか、方向性付けは普通はエンジニアは行わないので、プロデューサー / ディレクターの領分だと思うんですが、今回はそこを担当する方はおらず、制作の前段階から僕が関わっていたので、注文を付けてやってもらいました。もちろんミックスでもよくはできるんですが、川下で処理をするより、川上で対策したほうが何倍も音はよくなるんですよね。ゴチャついているものを無理にエフェクトをかけてよく聴かせようとすると、余分な処理が増えるので音の抜けが悪くなってフレッシュさが減ります。僕がミックスで大変な思いをしたくないので、楽をするためにやってもらったという説もありますが(笑)、たぶん、このタイミングを詰める作業をやってもらったことで、リズムに対する意識が向上して、歌のリズム感もよくなったと思います。ほかの楽器への理解が深まると、もともとできていたこともさらにできるようになるので、音楽は面白いですね。

有機的でソフトな音色にした「ハートは消えない」

逆に、「ハートは消えない」のようにチップチューン的なものだと、リズムがグリッドに沿っていても問題ないのと、かねこさんがなるべくファミコンの同時発音数の中で作ろうと思ったみたいで、アレンジがシンプルでミックス前からスッキリした音でした。なので、この曲は歌を録り直した以外は、デモとほとんど変わらないと思います。ただ、曲順で並べたときに前の曲がストリングス、後ろの曲も生バンドのような音色で柔らかめで、間にピコピコしたサウンドがくると浮きすぎてしまうので、真空管っぽい味付けになるエフェクターなどを使って、少し有機的でソフトな音色にしています。あとはボーカルのマイクもNEUMANN U47という古い真空管マイクをアルバム通して使っているので、それによって存在感のある主軸を作っている面もありますね。アルバム中でこの曲と「曖昧」という曲以外は、すべての音色がソフトウェア音源のSteinberg HALionのみで打ち込まれているのも、アルバムに統一感がある一因になっています(※「ハートは消えない」は、チップチューンの音色にMagical 8bit Plugを使用。「曖昧」ではドラムにTOONTRACK Superior Drummer 3、ピアノにKEYSCAPE Spectrasonics、オルガンにArturia B-3 Vを使いました)。僕は録音で請け負った仕事でも、ほかの音色のほうがいいと思えばアーティストと相談して差し替えてしまうことも多く、今回も最初はそのつもりだったんですが、HALionの音色が思いのほかハマりがいいのでそのまま採用することにしました。もっと大容量のサンプルを使ったリアルな音源も巷にあふれているんですが、生っぽくなればなるほどカワイイから遠ざかるようなところがあります。ちょうどこの音源は1990年代のPCMシンセのように整理された音で、もう少しハイファイにリファインしたような雰囲気だったので音楽性にマッチしていました。スペック的にいい音と音楽的にいい音はまた別で、音楽的にいいかどうかはジャンルや内容によっても変わってくるので、その都度判断していきます。これは楽器にも言えることで、同じモデルの10万円のギターと50万円のギターでも、10万円のギターのほうがいいケースがあったりします。センスがいい人だと自分の持っている楽器の音色に合わせて、それが気持ちよく響くような楽曲を作ってくるので、単純に差し替えると魅力が薄まることもありますね。

ボーカルの録音はたくさん歌ってもらった曲もありますが、基本は3テイクくらいで、その中から選びました。編集画面を見るとかなりツギハギで作っているように見えますが、ほとんど同じように歌ってもらって微妙なニュアンスの違いを選んでいる感じです。3テイク以上歌ったのは、どういうニュアンスで歌うかが定まらないで、練習になってしまったテイクですね。人によっては1行ずつ録音してつなぐ場合もありますが、流れが悪くなってしまうんですよね。今回は自作曲なので大筋でどうすればいいか本人が把握していたということもあり、1曲通して歌ってもらいました。

うまい下手よりも、かねこきわのらしさを重視した「ねむるプリン」

「ねむるプリン」の完成版を聴いてもらうとわかると思いますが、ピッチ補正的なものは多少していますが、大幅にはやっていません。それでも「ねむるプリン」のデモと完成版を比べてみると、かなり上手になっているように聞こえると思います。ミックスに興味のある方は、このあたりでボーカル修正の超絶テクニックが出てくるのではと期待するかもしれないですが、実はこれ、ほとんどモニタの返し方でうまく歌えていたりするんですね。具体的にはバックの演奏のバランスを、録音するときからある程度ちゃんと取っておく、歌いやすい音量で自分の声をヘッドフォンに返してあげる、これだけでかなりピッチもニュアンスも改善します。オケのバランスが悪くボーカルが入るスペースがないような状態だと、ほかの楽器にマスキングされてボーカルが聞こえたり聞こえなかったりします。歌を単なる素材として押さえるだけという考えだと、このあたり雑にやりがちですが、たったこれだけのことで結果は大きく変わってくるのです。あとは自分で機材を操作して録るのと、人に録音してもらっているのとでは、気持ち的な安心感が変わってきますね。「音が割れないように」とか「トラブルが発生しないように」と気を使う必要がないというのもありますし、単純にコンピュータに向かって歌うのと人に対して歌うのとでは、歌自体が変わってきます。それ以外では、Aメロのこの箇所だけボーカルを大きな音で返すとか、歯切れが悪かったり余裕がなくてアップアップするようなところではリバーブを余分に返すなどして、歌いやすくすることで、歌っている本人が気付かないうちに歌い方を変えるようにコントロールしていたりします。それだけでは改善しそうにないところだけ、相談して歌い方自体を変えてもらったりしています。

例えば「ねむるプリン」の冒頭で「ベッドの中プレゼントを待ちかまえてる」という歌詞がありますが、これがデモだとちゃんと歌おうとするあまり、“待ちかまえてる感”が希薄になってると思うんですね。曲のど頭で特に大切な部分なので、「えー? ホントに待ちかまえてるの? 待ちかまえてる感じが全然しないなー」とか言って、内容に沿った気持ちで歌ってもらうことにしました。本人が録音していると、どうしてもうまく歌わなくてはという意識が先にきて、硬くなってしまいがちです。でも実際はうまい下手よりも、かねこさんらしいかどうかのほうが重要で、ファンはそこにしか付かないと思うんですね。ソフトを使ってピッチをもっとガチガチに修正することもできたんですが、本人らしさ、うわずっていてかわいいとか、明るく聞こえるといったメリットを取りました。このあたりの判断は本来ディレクターが行うことで、ディレクターがいればお任せしますが、今回は本人と僕だけで録音していたので兼任する形をとりました。余談ですが、この曲の導入部に「ねむるプリン……プリン……プリン」とリフレインする箇所があって、普通はディレイというやまびこのように繰り返すエフェクターを使うんですが、デモでは本人が全部口でやっていて、それがかわいいと思ったので本番でもやってもらいました(笑)。気付いた方はいたでしょうか?

譜面に書けない部分を詰めていった「哀しい予感」

「哀しい予感」でも行ったのは主に歌い方のディレクションでした。本人が頭の中の楽譜に書いてある音符を歌ってしまうようなところがあり、それはそれで間違いではないんですが、このようにストリングスが流れるような曲調だと、ぶっきらぼうに聞こえてしまいます。例えば冒頭の「ローソクを揺らすエピローグ」では、デモの時点では「ローソクを」で1回区切り、「揺らす」の最後の「す」をしっかり伸ばし切る感じで歌っていました。それよりも区切らないでひと息で歌い切り、最後も息を抜いていくような感じで自然に消えていくほうが、比べてみると楽曲に合っているような感じがしませんか? カラオケなどで歌うときには、アーティストが歌ったお手本があるので真似していけば上手に歌うのは簡単ですが、イチから楽曲を作るとなると、こういう細かいニュアンスをすべて決めていかないといけないので、ただ歌うのとは似て否なる作業なんですね。経験を積むと聴き取りの解像度が高まって、ニュアンスや音色込みの作曲ができるようになるんですが、最初からそこまで深く意識が届いている人は少ないので、一緒に考えながら成長していくことが多いですね。あとこの曲に関しては、オケがかなりアップグレードしているように聞こえると思いますが、音色自体は大して変えていません。音量のバランスを細かく調整した結果こうなっているだけです。アマチュアの方は何かプロが使っている特殊なエフェクターがあるんじゃないかとか、スペシャルな技術があるんじゃないかと考えがちですが、一番基本かつ重要なのが各楽器の音量バランスを細かく取っていくことなんですね。もちろん最初からできていればほとんど何もしないこともありますが、先に挙げた図のようにボーカルを子音母音まで細かく音量のオートメーションを書いていくことも多いですし、楽器もそれぞれ音量を上下させることが多いです。この曲のストリングスは、生でやっていたなら指揮者が音量のコントロールをして、そこまでいじらなくても最初からいい感じに仕上げてくれていると思います。今回は打ち込みなので指揮者は不在のため、指揮者がやっているようなことをミックスでやっている感じです。アレンジとしてはデモの段階で完成していますが、それを譜面通りやるのと、譜面に書けない部分を詰めていくのとで、こういう差が出てくるということですね。指揮者が変わると演奏が変わるように、エンジニアによって楽曲に対する解釈に違いが出るので、音が変わってきます。また人によってはデモのほうが、自分の頭の中で別な解釈をして聴けるからいいと思う人もいるかもしれません。なお、デモと完成版を比べて、完成版のほうが音が小さいと感じるかもしれないですが、これはプラットフォームの仕様なのであしからず。ストリーミングのほうが少し小さめに出力されています。

ミックスは未処理に近い「椿」

この曲もギターとボーカルを録音した以外は、取り立てて大したことはしていません。ギターの録りのマイクはボーカルと同じくNEUMANN U47を使っています。僕は普段あまりこのマイクでアコギを録ることはないんですが、今回は奥行き感がちょうどよかったので採用しました。あとでこねくり回すより、川上で音を決めたほうが音抜けがよくなるので、これもマイクを選ぶだけ選んで、ミックスは未処理に近いです。指を移動したときにキシキシ鳴るスクラッチノイズが大きい箇所をノイズ除去ソフトで下げたくらいですね。曲の最後のほうにおじいさんっぽい話し声のナレーションが入るんですが、これはピッチシフターでピッチを落としています。ピッチを落としたときの感触がソフトによってけっこう違うので、どれが一番作品のイメージのおじいさんに近いか悩みましたね。曲中になんで急に小芝居が入ってくるんだという感じですが、かねこさんはYouTubeで1人3役を演じるラジオ「ヘルシーなんちゃらステレオ」というのをやっていて、僕はもともとこのシュールすぎる世界観のファンでした。楽曲を聴いて、アルバムを買って、さらに深掘りしたいくらい興味を持った方は、さらにディープな世界がありますよ!

かねこさんの音源を題材に、エンジニアが何をやっているのか解説してきました。今回は録音した素材がほとんどボーカルばかりでしたが、生楽器の録音が増えると、同じような工程をドラムやベースなど、各楽器で細かくやっていくことになります。また音楽によっては、激しく音色を変えるようなエフェクトをかけたり、質感を脚色したりすることもあります。すべては一緒にやる人と楽曲次第で、1つとして同じやり方になることはありません。同時にアーティストも、どのエンジニアとやるかによって、作品が全然違ってくると思います。以前、使うマイクもマイクの立て方も、機材もすべて指定してほかの人に録ってもらったことがあるんですが、自分が録音するのとはまったく違う音になりました。エフェクトも重要ですが、おそらくそれ以上に頭の中で考えていることや、音楽の趣味のほうが作品の仕上がりに大きく影響を及ぼすのだと思います。これを読んだことで、音楽への理解が深まったり、自分で作品を作るときのヒントを得てもらえれば幸いです。もし僕と一緒にレコーディングしてみたいという方がいたら、いつでも声をかけてください。連絡お待ちしています!

かねこきわの

岡山県出身のシンガーソングライター。2015年に東京・mona records主宰のオーディション企画「モナレコ女子!2015」で楽曲賞を受賞し、2019年には1年間毎月新曲をSoundCloudでリリース。2020年8月に1stアルバム「チョコレートムンク」を発表した。また、さとうもかと共にユニット・moca & canonとしても活動している。

中村公輔

1999年にNeinaのメンバーとしてドイツMille Plateauxよりデビュー。自身のソロプロジェクト・KangarooPawのアルバム制作をきっかけに宅録をするようになる。2013年にはthe HIATUSのツアーにマニピュレーターとして参加。エンジニアとして携わったアーティストは入江陽、折坂悠太、Taiko Super Kicks、TAMTAM、ツチヤニボンド、本日休演、ルルルルズなど。音楽ライターとしても活動しており、著作に「名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書」がある。連絡先:info@kangaroo-paw.com