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『BLEACH』ヒロイン・井上織姫は一護たちをどう変化させた? 太陽のような愛を振り返って

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リアルサウンド

 連載終了から4年が経ってもなお高い人気を誇る久保帯人『BLEACH』。家族を護るために悪霊である虚を退治する死神となった高校生・黒崎一護と、死神、人間、滅却師といった仲間たちとの戦いを描く。

 今回ピックアップするのは、一護の同級生で『BLEACH』のヒロインである井上織姫だ。

生死をかけた戦いの中で複雑化していく想い

 奇想天外な発想力を持ち、ちょっと天然。キュートな外見で「姫」と呼ばれるのがぴったり。でも成績はトップクラス、一護の幼なじみのたつきから教えてもらって空手は初段程度の実力を持っている。「柳に雪折れなし」なんて言葉がぴったりなヒロインだ。

 しかし、明るいキャラクターとは裏腹に両親のDVから兄と逃げ、その兄も交通事故で亡くすという過去を持っている。更に、兄は虚となり織姫を道連れにしようとした。そのときに、織姫を助けたのが一護だった。

「兄貴ってのがどうして一番最初に生まれてくるか知ってるか…?」
「後から生まれてくる弟や妹を守るためだ!!」

 織姫から一護への好意は初登場時からわかりやすかった。どこが好きなのか、と聞かれて「おもしろいところ」などと言っていたが、一護の優しさ、家族に対する愛情を感じ取っていたからだろう。

 たつきが「あたしはあれに気づくのに3年かかったもん」というような一護の些細な変化にもすぐに気がつく。それだけ一護のうわべではなく芯の部分を見ていると言える。

 一護の霊力に刺激されて「事象を拒絶する」という能力を発現させ、当初から一護と共に戦う。特に傷を治すことができる「双天帰盾」は戦闘において大きな役割を果たした。だが無邪気だった恋心は次第に複雑なものになっていく。「自分はずっと守られている」という引け目。

 一護の「強くなって次は絶対オマエを護るから」という言葉に、いつもの一護だとホッとしながらも、護られること自体は喜ばない。ずっと一緒に戦いたかった。だからこそ、最終決戦で一護に「頼むぞ 井上」と言われたときに一番嬉しそうに、そして誇らしげな表情を浮かべる。

「やっと黒崎くんを護って戦える」

ワンシーンに込められた織姫の本音

 織姫の想いの強さが最も現れたのは27巻だ。破面との戦いの中、能力の特異性から愛染に目をつけられてしまった織姫は、愛染の部下で破面のウルキオラに虚圏に連れ去られてしまう。それも、拒否をすれば仲間を殺すと言われながらも「1人にのみ別れを告げることを許可する」と12時間の猶予を与えられる。

 その中で織姫が選んだのは一護だった。破面との戦いで重傷を負った一護を治療するという理由があるにせよ、もう二度と会えないかもしれない中で最後に会っておきたいと選んだ相手。眠っている一護にキスをしようとするが、「やっぱりできないや」と涙をこぼす。

「あーあ!人生が5回ぐらいあったらなあ!」

「それで5回とも…同じ人を好きになる」

 こんな強烈で、想いが籠った告白があるだろうか。一護は眠っていて聞いていない。返事はない。でも、届かない言葉だからこそ本音が言える。こんなにも強い想いを、読者は知っているのに一護は知らないというもどかしさがある。

 ルキアの存在もあり、そんな強い織姫の想いも叶わないのではないか。破面との戦いで大ケガを負った織姫に対し、一護は激しく落ち込む。元気がない一護を自分ではどうしてやることもできない。なのにルキアの登場によって一護は元気になってしまう。ルキアに嫉妬していると正直に吐露し、涙する織姫。自分の重く暗い部分を受け止めることができる、真っ直ぐな心を持っているのが分かる。作中、織姫がヒロインであることは揺るがない。

 織姫はウルキオラや愛染に「太陽」とたとえられることがあった。

「笑いなさい。太陽が陰ると皆が悲しむだろう」

 太陽と言えば、一護の母親・真咲だ。家族の中心で、家族みんなが大好きで太陽のような人。ひとつのことを護るためにつけられた名前なら、いつも自分を護ってくれている母親を護りたいと思っていた一護にとって「愛する人」は長く母親だった。そんな母親と同じように太陽と例えられる織姫は、一護にとって特別な存在として位置づけられていたのではないだろうか。

 また、一護が真咲を失った日は雨の日だったり、斬魄刀の名前が「斬月」、技が「月牙天衝」と「月」が入っていたりと、太陽と対になるモノや思い出を一護が持っているのも印象的だ。

一護以外にも平等に注ぐ愛

 雨の日と言えば、ルキアが慕っていた海燕が亡くなったのも雨の日だった。客観的に見れば、ルキアは一護の運命を変えた人物で、重要な立ち位置にいる。嫉妬していると自覚しつつも、織姫はその想いをルキアにぶつけることはしない。むしろ戦いで力になれないことが寂しいと伝え、ルキアも本音で答える。やがて織姫は、ルキアの友人へとなっていく。

 織姫に変化をもたらされていたのは、敵だったウルキオラもそうだろう。誰にも興味を持たず、冷酷なウルキオラだが、分け隔てない態度で接する織姫に次第に「心」というものを知っていく。織姫もまた、ウルキオラと一護の戦いに複雑な表情を見せる。一護に敗れ消えていくな刹那、ウルキオラは織姫に向かって手を伸ばし問いかける。

「俺が怖いか」
「こわくないよ」

 織姫の回答にウルキオラは「心」を感じて消えていく。

「これがそうか。この掌にあるものが 心か」

 自分を拉致し、自分が愛する人をぎりぎりまで追い詰めた敵。そんな相手にさえも愛を持って接することができる。織姫は「愛されること」が当たり前ではないと知っている。だからこそ、「愛すること」の大切さもわかる。太陽が地を平等に照らすように、織姫の優しさも平等なのだろう。

(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))

■書籍情報
『BLEACH』(ジャンプ・コミックス)74巻完結
著者:久保帯人
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/bleach.html