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ぴあ 総合TOP > “猫から目線”で見ると、我々の人生はどう映る? 猫写真家 × 作詞家コラボの「猫詩」を詠む

“猫から目線”で見ると、我々の人生はどう映る? 猫写真家 × 作詞家コラボの「猫詩」を詠む

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リアルサウンド

 ゴロゴロ喉を鳴らしていたかと思えば、腕の中からするりと逃げていく。そんな気ままさに遭遇するのは、猫飼いあるある。その瞬間の感情を最優先しながら生きている猫たちは、未来や過去を気にしてしまう私たち人間とは違う視点で世の中を見ているようだ。

 あの瞳に写っている世界を、もっと知りたい―……。そう思い『猫から目線』(及川眠子/沖昌之/ベストセラーズ)を手に取って、ハっとした。自分が見ている世界は、なんて狭かったのだろうと気づいたから。

 本書は、猫写真家の沖氏と作詞家の及川氏がタッグを組んだ斬新な写真集。これまでに4匹の猫と暮らしてきた及川氏は、猫のことを「しっぽを持った哲学者」と感じていたため、人間を見る猫の気持ちになり切って猫詩を綴った。

 美しい写真と心を動かす詩の両方が楽しめる本作には、「かわいい」だけでは終われない奥深さがある。

言葉に頼りすぎな人に響く「猫詩」

 私たち人間は、言葉で絆を深めようとする。けれど、いくら語彙力を高めても気持ちをうまく伝えられない時はあるし、どう表現したらいいのか分からない思いを抱えることだってある。そんなもどかしさを感じた時に刺さるのが、この猫詩。

あんたもさ 言葉をたくさん持ってるくせに 言葉をじょうずに使えないのな だったらさ 言葉なんかに頼るのはやめて 心を通じる相手を探せ みゃーと鳴いたらみゃーと応える 愛ってそんなもんなんじゃないか

 言葉を生業にしているからこそ、筆者は言葉で伝えられないものの多さに苦しくなることがある。この気持ちをどう形容すれば、100%の純度で相手に届くだろうかとプライベートでもよく悩む。だから、余計にこの詩が染みた。そうだった。もっとシンプルなところで心は繋がり合えたんだと思い出せたから。言葉ではなく、ぬくもりを伝えることで愛や気持ちを表現してくれる愛猫たちはもしかしたら、その身を持って絆の育み方を教えてくれていたのかもしれない。

 また、言葉で誰かを傷つけることが簡単にできる世の中であるからこそ、胸に留めておきたい詩も。

にっこり私に笑顔を投げかけながら 指はスマホとやらをまさぐって 凄まじいまでの悪意を綴る 自由にものを言う権利があると言う 私らが持たない言葉ってやつは 凶器にも変わるけど 忘れないで私は 頭を撫でてくれるあなたの指が好き

 1本の指で怒りや涙を生み出すのか、それとも大切な存在を笑顔にするのか―。その選択を誤らない自分でありたい。自由奔放なのに愛情深い一面も持つ、猫という動物。その姿から人間は凛と生きることの大切さを学ぶ。

野良猫が幸せになれる動物愛護とは?

 本書には野良猫目線な詩も多数綴られているため、命の見守り方も考えさせられる。

 例えば、お腹を空かせた野良猫を見ると可哀想になり、ついご飯をあげたくなってしまうものだ。だが、継続できないその優しさは野良猫からしてみれば、優しさに写っていないかもしれない。

どこぞの野良を見つけたら 気まぐれにゴハンをくれるより すぐに忘れてしまえるほどの 侮蔑をこめて無視しておくれ あたしら勝手に生きるものに 期待をさせて楽しいかい 一度っきりの慈善より 知ったことかと立ち去っておくれ

 行き場所がなくて飢えに苦しんでいる猫たちが本当に欲しいのは、気まぐれでもらえる缶詰ではなく、ずっと安心できる居場所と毎日のご飯。それをあげられないのならば、ひとつの命を幸せにすることは難しい。その厳しい事実とちゃんと向き合うことから、真の動物愛護は始まっていくと思う。貫けない優しさは動物を不幸してしまうのだということを、私たち人間はもっと自覚する必要がある。

ごめんね、うちでは飼えないのって あの子は泣きながら背を向ける いいんだよ気にしないで 優しさは充分に伝わってるよ 生き延びるか死んじゃうか それは私の運だもの 知ってるの、生半可に受け入れるよりも 背を向ける方が苦しいってことを

 消えてしまいそうなひとつの命を前にした時、自分はどんな行動を取れるだろう。そんなことも考えたくなる本書は、命に対して責任を持つことの重さも知れる一冊。ひとりの人間としてどう生き、他の生命とどんな風に関わっていくか、ぜひ考えつつ、45篇の詩と写真を心に刻んでみてほしい。

■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。

■書籍情報
『猫から目線』
詩:及川眠子
写真:沖昌之
出版社:ベストセラーズ
出版社サイト