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映画界に激震 もうディズニーは映画館を前提とした作品を作らない!?

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リアルサウンド

 今週の動員ランキングは、『TENET テネット』が土日2日間で動員10万1000人、興収1億7000万円をあげ首位に返り咲いた。これで動員1位は3週目。興収では4週連続の1位。10月11日までの24日間で動員124万8597人、興収20億2165万400円を記録している。

 さて、このように『TENET テネット』は日本で大ヒットしたわけだが、先週取り上げた『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開延期とその余波に続いて、先週末以降、アメリカの映画界はさらなる激震に見舞われている。震源となったのは、ウォルト・ディズニー・スタジオだ。

 発端となったのは10月8日、ディズニーがピクサー・アニメーション・スタジオの新作『ソウルフル・ワールド』を映画館での公開スケジュールから外して、12月25日にディズニープラスで配信リリースすると発表したことだ。劇場公開予定だったディズニーの大作がディズニープラスに流れるのは、これで『ムーラン』に続いて2作目となるが、『ソウルフル・ワールド』はプレミアアクセス料金を必要とした『ムーラン』とは違って、ディズニープラスの通常のサービス内での配信となる。ディスニープラスは『ムーラン』で得た収益を明らかにしていないが(『ムーラン』を観るためにはまずディズニープラスと契約しなくてはいけないので、同じ時期に他の作品が目的でディズニープラスに加入した契約者と区別ができないという実務的な理由もある)、今回の『ソウルフル・ワールド』の通常配信は、現在の映画界を取り巻く環境が「劇場から配信へ」とまた一歩前進したことを意味する。その翌日、日本でも『ソウルフル・ワールド』の劇場公開が中止となり、北米と同日の12月25日にディズニープラスで配信されることが発表された。

 続いて10月12日に、ディズニーはディズニープラス及び各配信サービスの成長を加速させるため、自社が所有するテレビ局や映画スタジオ、消費者直販の各部門をメディア・アンド・エンターテインメント・ディストリビューションという1つの大きなグループに統合することを発表した。その目的は、各部門がストリーミングサービスに作品を供給する際の決定をよりダイレクトにできるようにして、会社全体をディズニープラスを中心とするメディア・エンターテインメント事業へと再編することだと言われている。その過程で、これまで製作と配給が一体となっていたウォルト・ディズニー・ピクチャーズから、配給部門が切り離されることとなった。

 それらの背景には、ヘッジファンド運営会社サード・ポイントのダニエル・ローブをはじめとする株主による強い働きかけがあったと言われている。ちょうど今回の一連の発表の直前となる10月7日に、ローブはディズニーのCEOボブ・チャペックに「ストリーミング事業に資源を集中するように」という内容の書簡を送った。もっとも、チャペックは今回の事業再編への準備は、数ヶ月にわたって進められてきたものだと説明している。

 アメリカの映画メディアIndieWireは今回の動きを受けて、「ディズニー、ストリーミングへの大転換。CEOは『映画やテレビが最も稼げる場所に行く』と語る」(参考:https://www.indiewire.com/2020/10/disney-pivots-to-streaming-as-ceo-says-films-and-tv-go-wherever-they-earn-the-most-1234592280/)という記事を掲載。その記事では「ディズニーの新しいビジネスモデルでは、映画の劇場公開は、その作品の壮大さ、映画賞を受賞する可能性、劇場主をサポートする必要性によっては決定されない。その基準となるのは金(ドル)だけだ」とかなり強い調子でディズニーの姿勢に疑問を投げかけている。

 一方、チャペックは「それらの決定を下すのは消費者です。彼らの意思決定が、私たちを新しい方向に導いてくれるでしょう」と語っている。『ムーラン』にせよ『ソウルフル・ワールド』にせよ、「劇場で観る」という選択肢さえ用意しないで何を言ってるんだという憤りを覚えずにはいられないが、チャペックに言わせれば、ディズニープラスがローンチから1年も経たないうちに、全世界で6050万人の加入者を獲得したという事実が「消費者の意思決定」ということなのだろう。ちなみに、ディズニープラスのサービスが開始される前に、ディズニーは投資家に2024年までの到達見込みを「6000万人から9000万人」と説明していた。つまり、ディズニープラスはその基準を4年以上も前倒しで超えたことになる。

 ストリーミングサービスへのシフトを加速させているスタジオはディズニーだけじゃない。というか、自社のストリーミングサービスをもっているディズニーはまだ存続の危機に瀕していないだけマシなのかもしれない。パラマウント・ピクチャーズは、『シカゴ7裁判』と『ラブバード』をNetflix売却、トム・クランシー原作マイケル・B・ジョーダン主演のポリティカルスリラー『ウィズアウト・リモース』をAmazonに売却。さらに、ちょうど日本時間の今日、「エディ・マーフィー主演の『星の王子 ニューヨークへ行く』の32年ぶりの続編『Coming 2 America』を約1億2500万ドルでAmazonに売却する見込み」というニュースが届いた。世界中の観客が何十年にもわたって親しんできた「ハリウッド映画」は、一体これからどうなってしまうのだろう?

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■配信情報
『ソウルフル・ワールド』
ディズニープラスにて、12月25日(金)より独占配信
監督:ピート・ドクター
共同監督:ケンプ・パワーズ
製作:ダナ・マレー
(c)2020 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式サイト:Disney.jp/SoulfulWorld