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BRAHMAN、初のオンラインライブを開催した意味 ILL-BOSSTINO&KOとぶつけたライブというエンターテインメント

音楽

ニュース

リアルサウンド

 一気呵成。ほぼノンストップだったので、前半、中盤、後半と区切っていいのかわからない。ただ、あえて言うなら中盤の「不倶戴天」が最高だった。

 TOSHI-LOWはカメラににじり寄って〈言い訳すんなよ小僧!〉と中指をおっ立て、ギターソロ直前には「どうなってんだよこの国、お前が言う番じゃねぇのか?」と煽ってみせる。権力者と傍観者を派手に吊るし上げるこの曲は、最後に〈全ては試練 すなわち 赦すってことだ〉とピースサインを掲げることで景色が反転するのだが、この日は違った。〈赦すって…〉と言いながら二本の指を上げた彼は、すぐに人差し指を引っ込めて〈今は赦さねぇことだ!〉と絶叫。その直後、ステージに入ってきたのはILL-BOSSTINO。5人が怒涛のテンションで吠え狂う「CLUSTER BLASTER」になだれ込んでいくさまを見て、思わず立ち上がっていた。冷静なレポートなど無理だ。まさか、自宅のPC前で〈みなごろしぃぃぃ!〉と叫ぶ日が来るとは思わなかった。

 BRAHMAN初のオンラインライブ、『IN YOUR【  】HOUSE』。場所は札幌KLUB COUNTER ACTION。当日は生中継も行われ、全国のライブハウスやクラブで無料配信、ドリンク代のみを負担すれば誰でも入場可能の形が取られていた。ライブハウス支援プロジェクト「LIVE FORCE, LIVE HOUSE」とのタッグを組んでのことである。

 困窮する全国のハコを支援すること。一人でもいいから自らの行動を促すこと。その試みは非常に彼ららしいと思うのだが、なぜ札幌でなのか、ずっと気になっていた。別に北海道は彼らの地元ではないし、想い入れの強いハコは他にもあるだろう。たとえば「東北ライブハウス大作戦」で作られた3軒。あるいは都内でやるほうがシンプルに無駄がない。だが、なるほど。BOSSとの共演の数曲後、SLANGのKOが乱入し「守破離」が放たれた瞬間にすべて腑に落ちた。

 仲間なら各地にいる。助け合ってきた友人や恩人も全国にたくさん。ただ、コロナ禍におけるどうしようもない怒りを体現するなら、ILL-BOSSTINOとKOしかいなかった。怒りを怒りのまま直接ぶつけあい、それを同じ熱量で撃ち返し、結果ちゃんとエンターテインメントに落とし込む。そういうことができるのが北の地に根を張るこの二人なのだ。「守破離」では地獄の使者みたいな叫びを轟かせていたKOが、その後「全国のみなさーん、お久しぶりっす」「またいつかライブハウスでお会いしましょう」と妙にほのぼのしたMCをしていたのも良かった。すっげぇ怖い。けどすんげぇ優しくて頼もしい。これは確かに怒りであり娯楽であり共闘なのである。

 改めて時系列を追っていこう。19時30分ちょうどに始まったライブは「TONGFARR」からのスタート。BRAHMAN結成後に初めて作ったきっかけの歌であり、何度でもここから仕切り直す歌である。ステージに立つ4人は、緊張の中にも確かな喜びを滲ませた表情をしていた。

「大変な時代はまだ続く。迷い続けろ、失い続けろ、闘い続けろ。さぁBRAHMAN始めます!」

 TOSHI-LOWの宣言と共に「The only way」「賽の河原」「BASIS」が連打されていく。曲間をできる限り省いたノンストップの演奏はいつものことで、普段なら続々とクラウドサーファーが沸き、そのフロアにあえて飛び込んでいくTOSHI-LOWがいる、みたいなド密の展開を見せるところ。だが、無観客ゆえに引き立ったのはプレイの揺るぎなさだった。

 大胆に暴れているようで、4人の足並みは驚くほど安定している。ドラムが走れば3人がそれに一瞬で追いつき、長すぎると思えるタメでもぴたりと呼吸が揃う。拍の取り方も難しいようなコーラスだって、なんだかんだ全員が自分のパートを全うしているのだ。阿吽の呼吸、と書けば連れ添った老夫婦のようだが、アスリートのごとくにカラダを張り、たった数曲で汗が噴き出すパフォーマンスを見せながら、BRAHMANだけの「阿吽」が成り立っている。機械的に一定なのではなく、走ったり止まったり静かになったり激しくなったり、極端な動きを見せる楽曲だからよけいに人間臭い。人間同士が互いを信じることでしか生まれ得ない、ロックバンドの究極的なダイナミズムだ。極端な熱のカタマリが向こうから迫ってくる。画面やスクリーンを超えて心臓が鷲掴みにされていく。ただ演者を映す以上のアングルで4人の表情に迫っていくカメラワークも素晴らしかった。

 後半の選曲も興味深い。「CIRCLE BACK」「SHOW」、「LAST WAR」など、近年ライブではあまり披露されなかった楽曲たちである。収録アルバムで言うなら2001年の『A FORLORN HOPE』や2004年の『THE MIDDLE WAY』。震災後に覚醒して“鬼”と呼ばれるようになる前の、さらには彼らの人気に火を付けたエアジャム・ブームが次第に終わっていく、いわば苦悩ともがきの時期だ。ことに「LAST WAR」の歌詞など、やると言ったらテメェでやれよ! と背中を蹴り飛ばす今の“鬼”とは大きくニュアンスが異なっている。

 今ここで、全国のライブハウスにこの歌を届けることに意味があるのだろう。〈日々を賭ける/願い超えて/逃れられぬ悲しみに〉と続く後半、TOSHI-LOWは本気でもがいていた。あるいはもがき苦しんでいる人々の心を代弁していた。混乱、痛み、諦念と格闘しながら、それでも逃げるなと歌っているようだった。選ばれたスーパーマンじゃない。自分たちも死ぬほど迷ってきた。そういう25年ぶんの歴史がまるごと説得力になっているのだ。

 コロナ禍を歌ったとおぼしき新曲(「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」プロジェクト提供曲)を挟んで、「ANSWER FOR…」は事実上の本編ラストのようだった。これもまた迷える初期の曲。ただ自分の掌をじっと見つめ、TOSHI-LOWは震えながら歌っていた。しかも〈What did you say?〉の部分を〈立ち上がれ〉〈ライブハウス!〉と言い換えて。あえてカメラ目線ではなく己の手を見ていたのは、誰かに期待するな、自分に問え、というメッセージだろうか。歌い終えた後にはこの日唯一のMCがゆっくりと語られた。いわく、「生き延びろ、ライブハウス。生き延びろ、ライブハウスのバンド。生き延びろ、ライブハウスを愛する人たち」。「俺たちが死に場所を作りに行くまで、そこを守っていてください」。

 事実上ラストと書いたが、感覚としては、その後ふわりと始まったILL-BOSSTINOとの「BACK TO LIFE」がアンコール、最後の「ARTMAN」がダブルアンコールといったところ。今必要な怒りとメッセージを爆発させ、チルな空気で同士と笑ってみせ、ラストで揺るぎなき原点を叩きつける。見事なまでにBRAHMANらしい一時間。これに心打たれなかった人がいるだろうか。いいものを見た、やっぱりライブが好きだと確認できた娯楽の先には、明日のあなたの行動が問われている。

BRAHMAN オフィシャルサイト