アニメ『KING OF PRISM』はなぜブームを巻き起こしたのか ベストアルバム発売を機に考える、奇抜な演出のインパクト
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〈みなさんは覚えていますか? 初めてプリズムショーに会ったときのことを……〉
世界は、このセリフを知っている人と、このセリフが気になる人の2種類に分かれている。アニメ『KING OF PRISM(以下、キンプリ)』シリーズで、主人公の一条シンは私たちにこう尋ねた。プリズムショーとは一体何なのか。日本中、そして世界にまでブームを巻き起こした『キンプリ』のすごさとは。2021年1月9日にシリーズ誕生5周年を迎えベストアルバム『KING OF PRISM BEST ALBUM “Music Goes On!”』が発売されることを機に、改めて“キンプリ”を振り返ってみることにしよう。
口コミで広まった1作目『KING OF PRISM by Pretty Rhythm』
そもそも『キンプリ』の発端となった作品は、2013年にテレビ放送されたTVアニメ『プリティーリズム・レインボーライブ』である。歌とダンス、オシャレ、そしてフィギュアスケートのジャンプのような“プリズムジャンプ”をミックスした架空のステージ“プリズムショー”を通じて、彼ら“プリズムスタァ”たちが成長していくシリーズだ。女子のプリズムスタァがメインの『…レインボーライブ』に、男子プリズムスタァとして登場していたのが、神浜コウジ、速水ヒロ、仁科カヅキの3人=Over The Rainbow。当時はサブキャラクターだった彼らを主人公に作られたスピンオフ作品が、2016年1月9日公開の劇場アニメ『KING OF PRISM by Pretty Rhythm』だったのである。
『KING OF PRISM by Pretty Rhythm』はOver The Rainbowの物語であると同時に、新キャラクターである一条シンの物語でもある。Over The Rainbowのプリズムショーを初めて見たにもかかわらず、一瞬でハートをつかまれてしまった一条シン。プリズムスタァを育成するエーデルローズに入学し、同じように夢を目指す仲間たちと共にプリズムショーの特訓を重ねていく。
子ども向けアニメのスピンオフであり、小規模な上映からスタートした『キンプリ』の第1作が、なぜ口コミで大人たちに広まっていったのか。まずは何と言っても、プリズムショーの奇抜な演出のインパクトだろう。フィギュアのような連続ジャンプを行うと同時に、
〈胸キュン体験〜キュン×3!〉
〈無限ハグ……with love(ハート)〉
など、こちらが恥ずかしくなってしまうようなセリフを、コウジたちプリズムスタァたちがうっとりした表情でこちらに向けてくるのだから、照れている方がもったいないというものなのである。そうするうちに観客は自然と、『キンプリ』の世界に染まっていく。
またこの作品は、鑑賞中に発声できる「応援上映」を広めた草分け的な作品でもある。Over The Rainbowと甘い会話ができるデートシーンが用意され、観客たちはアフレコのように彼らのガールフレンドとしてセリフを叫んだ。男性ファンも多い『キンプリ』だが、劇場では男性たちも楽しそうにこのセリフを言っている様子があちこちで見られた。
まさかの続編『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』
前作のヒットを受けて制作されたのが、2017年6月10日に公開された劇場アニメ第2弾『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』だ。紆余曲折のあったOver The Rainbow速水ヒロを中心に、新たなストーリーが紡がれていく。
一方今作では、一条シンが入学したエーデルローズでの生活ぶりも詳細に描かれた。歌舞伎の家に生まれながらプリズムスタァを夢見る太刀花ユキノジョウや、財閥の跡取りである十王院カケルのもう一つの顔など、観客にとって気になる新情報も出されていった。特にエーデルローズと深い因縁の関係にあるライバル校、シュワルツローズについての描写は強いインパクトを残す。シュワルツローズ代表・法月仁の〈『pride』を使いたければ金を返せ! ひゃっくおっく!!〉という悪役らしいセリフは、「芸能界と金」という問題を浮き彫りにした。
物語の後半では、男子プリズムスタァの最高峰を決める大会プリズムキングカップが開催される。数々のプリズムスタァがショーを見せる中、特に話題になったのはエーデルローズ生の大和アレクサンダーだろう。前作『KING OF PRISM by PrettyRhythm』で初めて登場し、Over The Rainbowの仁科カヅキにストリートファイト(のプリズムショー)を挑み、ダークなプリズムジャンプで恐怖を感じさせたアレクサンダー。彼の登場もまた、『キンプリ』人気を高めたと言っていい。プリズムキングカップでも「EZ DO DANCE」を披露し、さらにはスタジアムを破壊。悪辣ぶりを見せつけた。
法月が票操作を行い、エーデルローズは不利な立場に置かれていたが、最後に登場した速水ヒロの圧倒的なプリズムショーが事態を一変。会場にいる全ての人がヒロにひれ伏し、初代プリズムキングはヒロに輝く。ここで披露した「pride」のプリズムショーは必見だ。
7人のストーリー『KING OF PRISM – Shiny Seven Stars-』
盛り上がる応援上映、海外でも作品が上映されるなど、怒涛の展開を見せてきた『キンプリ』だが、2019年4月よりシリーズ初のTVアニメが放送された。『KING OF PRISM – Shiny Seven Stars-』というタイトルの、全12話。これまで応援してくれたファンのために、放送に先駆け4章に分けて劇場上映されるという展開も。ファンが育ててきた『キンプリ』というイメージは定着しつつあるだろう。
プリズムスタァとして輝かしい才能を持つ一条シンを筆頭に、梨園生まれの太刀花ユキノジョウ、祭りに命をかける香賀美タイガ、チャラ男と経営者の顔を合わせ持つ十王院カケル、エーデルローズ生たちの食事作りを引き受ける鷹梁ミナト、かわいいものが大好きな西園寺レオ、楽曲制作を担当するちょっと厨二気質の涼野ユウ。寮生7人の過去と決意が1話ごとに描かれ、ストーリーは毎話涙を誘った。7人は“SePTENTRION(セプテントリオン)”という新ユニットとして新たなスタートを切り、『KING OF PRISM – Shiny Seven Stars-』は幕を閉じた。
初期の『キンプリ』は、奇想天外な世界観とセリフ、応援上映との相性の良さなどによってファンを増やしてきた部分もあったが、一度でも作品を見た人はきっと、その瞬間に幸せを感じていたはずだ。世界中が苦しんでいる今、プリズムスタァたちが放つ“プリズムの煌めき”が、人々の心を照らしてくれるだろう。今こそ『キンプリ』をじっくりと見直してみたい。
■大曲智子
フリーライター。映画、ドラマ、アニメ関連のインタビューを中心にお仕事中。「ボイスニュータイプ」、「TVガイド VOICE STARS」などの声優雑誌や、男性声優写真集でインタビュアーを務めている。『キンプリ』シリーズではオフィシャルでの取材・執筆を務め、『KING OF PRISM ALL STARS プリズムショー☆ベストテン』、『KING OF PRISM SUPER LIVE Shiny Seven Stars!』 などのパンフレットで取材・執筆を手掛けた。
ブログ:OMGZINE