坂東龍汰、板垣瑞生、醍醐虎汰朗 作品に溶け込む、期待の若き映画俳優たち
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テレビドラマのみならず、映画でも大注目の俳優たちがいる。10月16日より公開となった話題作『スパイの妻』で主要な役どころに配されている坂東龍汰、『響 -HIBIKI-』(2018年)に出演以降、話題作への出演が続く板垣瑞生、そして醍醐虎汰朗。ここでは映画を盛り立てる、若き映画俳優たちに注目したい。
坂東龍汰ーー怒涛の勢いで急成長
『十二人の死にたい子どもたち』(2019年)への出演以降、着実にキャリアを積み上げているのが坂東龍汰。さらに昨年は『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』でも顔を見せ、今年は『犬鳴村』『静かな雨』と出演作の公開が続き、今夏は『#ハンド全力』『弱虫ペダル』が公開と、現在の映画界において一気に存在感を増している一人だろう。
そんな坂東が俳優デビューを果たしたのは2017年のこと。もちろんそれ以前にも学びの期間はあったのだろうが、本格的な活動開始からはたったの3年しか経っていたないのだ。現在の彼の活躍ぶりに目を向けると、異例のスピードでの大出世だといえるだろう。冒頭で挙げた『十二人の死にたい子どもたち』では、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙らという、すでにキャリアも豊富な強豪たちのなか、“オーディション組”として出演。日本映画界の未来を担っていくであろう12人の若手俳優たちが集った同作において、ときに場をかき回すポジションを務めた坂東の姿を振り返れば、なぜ製作陣が彼を選んだのかにも頷ける。
さて、今夏さらに勢いづいた坂東だが、『#ハンド全力』『弱虫ペダル』の2作で、これまで以上にその存在を知られることとなったのは間違いない。特に後者は公開規模の大きさや、彼の演じた人物が非常に目立つ役どころだったことから断言できる。大人気作品の“実写化成功”を謳われている同作だが、坂東のアジのある関西弁と圧倒的な熱量は、それに一役買っている。
出演最新作である『スパイの妻』で坂東が演じるのは、高橋一生が扮する“スパイ”だと目されている人物の甥。本作の一つの軸でもある、二人のコンビネーションに注目だ。
板垣瑞生ーー硬軟自在のプレイヤー
『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』(2015年)での好演が、いまだに鮮明に記憶に残っている板垣瑞生。それから彼が数年ぶりにスクリーンに返り咲いたのが、先に触れた『響 -HIBIKI-』である。平手友梨奈が演じた響の幼なじみの青年役として、多くの観客に認識されたに違いない。
昨年は出演した映画の公開本数が大幅にアップ。堀未央奈を中心に、清水尋也、間宮祥太朗らと恋愛劇を繰り広げた山戸結希監督作『ホットギミック ガールミーツボーイ』は長く語り継がれる作品だろうし、初主演映画『初恋ロスタイム』や、過酷な映画撮影の現場で「呪われた脚本」に体を蝕まれる“壁ドン俳優”を演じた『ゴーストマスター』での演技も印象深い。
そんな板垣の現段階での出演最新作が『映像研には手を出すな!』だ。こちらでは、ロボットに情熱を燃やすロボット部の部長をハイテンションで好演。これまでの板垣とはまた違う、大胆な振り切れた演技が見ものだ。彼は硬軟自在に演じ分けられる俳優なのである。そして間もなく封切りとなる『鬼ガール!!』では、“鬼と人間のハーフ”の少女の幼なじみを演じており、ヒロインとどのような共闘を見せるのかに注目だ。
映画界での活躍には今後も期待が高まる一方だが、朝ドラ『エール』(NHK総合)にも間もなく登場する模様。演技の幅はまだまだ広がりそうである。
醍醐虎汰朗ーー『天気の子』からの大躍進
弱冠20歳にして、すでに『天気の子』(2019年)という名刺代わりの出演作を持つ醍醐虎汰朗。爆発的なヒットとともに、世間を感動の渦に巻き込んだあの主人公・帆高の声を務めたのが彼なのだ。まだ二十歳を迎えたばかりの醍醐はここ最近、映画にドラマにと大活躍が続いている。
今夏は『#ハンド全力』『宇宙でいちばんあかるい屋根』というタイプの異なる2作で存在感を発揮。醍醐が演じたキャラクターもまた、それぞれ大きくタイプが異るものであった。前者では、主人公の幼なじみであり、ハンドボールに全力で打ち込む、どちらかといえばマジメな高校生を。一方の後者では、清原果耶演じるヒロインにちょっかいをかける不良然とした高校生を演じている。
醍醐が演じた人物を“タイプの大きく異るもの”と記したが、それでいて各作品へのフィット感は非常に高い。自身の演じる役どころにおいて、いったいどの程度までキャラクターを“押し出す”べきか、あるいは“引く”べきか、それが自然と実践できる俳優なのではないだろうか。もちろん、観客の推し量ることのできないレベルで、“計算”して演じているのかもしれない。
今年は映画だけでなく、坂元裕二の脚本による『スイッチ』(テレビ朝日系)や、『3人のシングルマザー~すてきな人生逆転物語~』(フジテレビ系)などのスペシャルドラマで主要なポジションを担っていることも、彼の今後の俳優人生において大きいだろう。声の演技が優れているのは『天気の子』で証明しているとおりだ。醍醐の姿を目にする機会はますます増えていくことだろう。
ここに挙げた3人に共通するのは、いい意味での“顔の安定のしなささ”ではないかと思う。エンドロールで彼らが出演していたと気がつく方も多いのではないだろうか。彼らは俳優なのだから、当然その見た目の変化にも力を入れることだろうし、もちろんまだ彼らを目にする機会が比較的に少ないということもその一因ではあるだろう。だが、演じる人格ごとに、“作品世界に溶け込んでいる”とも言えるのではないかとも思う。作品ごとにおける彼らの顔は、まるで違うのだ。こう感じているのは筆者だけだろうか。いまは彼らにとって、得意な役どころを探したり、いろいろと試す時期でもあるはず。これからバイプレイヤーとなるか、あるいは作品を牽引する主演俳優として育っていくのか。いずれにせよ、今後の日本映画界に欠かせない存在となっていくことは間違いない。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter
■公開情報
『スパイの妻』
新宿ピカデリーほか全国公開中
出演:蒼井優、高橋一生、坂東龍汰、恒松祐里、みのすけ、玄理、東出昌大、笹野高史ほか
監督:黒沢清
脚本:濱口竜介、野原位、黒沢清
音楽:長岡亮介
制作著作:NHK、NHK エンタープライズ、Incline,、C&I エンタテインメント
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ビターズ・エンド
配給協力:『スパイの妻』プロモーションパートナーズ
2020/日本/115分/1:1.85
公式サイト:wos.bitters.co.jp