『エール』智彦が生きるもう一つの戦後史 池田は裕一の時計の針を進める存在に?
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戦争が残した傷痕は、それぞれの生活に影を落としていた。元軍人の経歴が邪魔をして、就職もままならない智彦(奥野瑛太)。闇市で安酒をあおっていると、見知らぬ男たちに罵倒される。男たちに蹴りつけられ、うずくまる智彦のポケットから、戦災孤児のケン(浅川大治)が財布を抜き取る。
ほんの少し前まで、軍人に逆らうことなど到底考えられなかった『エール』(NHK総合)第92話。急激な時代の変化に誰よりも戸惑っていたのは、智彦たちだっただろう。踏みつけられ、軍人の象徴である記章を持ち去られた智彦は、文字通りプライドが地に堕ちた状態。智彦がどう立ち直っていくかは、『エール』が描くもう一つの戦後史である。
時計の針が止まったままなのは、裕一(窪田正孝)も同じだった。「どうしたらいいか、わからん」と話す音(二階堂ふみ)に、吟(松井玲奈)は「音が音楽の楽しさを思い出させるの」と歌を再開するように勧める。保(野間口徹)と恵(仲里依紗)の紹介で、ベルトーマス羽生(広岡由里子)の元に通いはじめた音は、懐かしい顔と出会う。
「先生!」(音)、「何回言ったら分かるの? 私はミュージックティーチャー」(御手洗)。ひさびさの登場となった御手洗(古川雄大)は口ひげを蓄え、占い師になっていた。「悩みや苦しみを抱える人のために『今、私にできることはなに?』って考え始めたの」。オーディションに落ちて豊橋に帰った御手洗は、空襲で東京に出てきたのだろうか。再登場を熱望していたファンにとって、うれしいサプライズだった。
「譜面が怖い」と話す裕一。譜面に向かうと、爆撃で吹き飛び兵士や崩れ落ちる藤堂(森山直太朗)の姿が脳裏に浮かぶのだった。自分の作った歌が、恩師や多くの若者の命を奪ったという自責の念。自身の手がまるで呪われたもののように思えるのだろう。音は裕一に「あなたを信じてる。私は待つ」と呼びかける。
それから1年半が経ち、学校に行った華(古川琴音)は中学3年生になって帰宅。智彦はまだ仕事が見つかっていない。仕事をして「あなたを支えたい」という吟の申し出に、智彦は自尊心を傷つけられる。軍人のプライドを失った智彦に残るのは、男の意地だけ。闇市でヤケ酒を呑む智彦はケンと再会する。占領軍の浮浪児収容、俗にいう「刈り込み」に追われていたケンは、智彦を見て、とっさに「父ちゃん!」と叫ぶ。
何かが始まりそうな気配。それは裕一にも。占い師・御手洗は「今度来る仕事が人生を変えるわ」と予言。その言葉を裏付けるように、池田(北村有起哉)が古山家を再訪する。ラジオドラマ『鐘の鳴る丘』の音楽を依頼する池田に「僕には無理です」と断る裕一。自称「諦めの悪い」池田の熱意は裕一に届くだろうか?
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、松井玲奈、奥野瑛太、古田新太ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/