田中ヤコブ×石塚淳(台風クラブ)対談、エレキギターで生み出すロマン 曲作りから録音まで“理想のサウンド美学”を語り合う
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ギタリスト、ソングライター、そして東京の4人組バンド・家主のメンバーとしても活動する田中ヤコブが、10月14日に2ndアルバム『おさきにどうぞ』をリリースする。9月にリリースされたKaede(Negicco)のミニアルバム『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』に参加したり、never young beachのサポートメンバーも務めるなど、今年に入って活動の場をさらに広げてきている田中ヤコブ。リアルサウンドでは彼の音楽性と人柄を紐解くべく、3回連続での記事展開を行っていく。
第1弾は、「日本語ロックの西日」こと京都の3ピースバンド・台風クラブの石塚淳との対談である。年齢こそ石塚のほうが少し上だが、石塚と田中には多くの共通点がある。いいメロディを愛し、ポップなフックを愛し、自分が面白がるために込み入った作業、複雑なソングライティング、面倒なあれこれ……にも足をかけ、でも何よりエレキギターを愛する。それは、一聴するとロックなのに実は全くありきたりなロックじゃない、なのにどうしようもなく人懐こくて狂おしい、という共通点に辿り着く。そして、気がついたら確実に日本のロックの歴史を静かに更新している重要人物だ。
互いに知ってそうで知らなかった意外な事実も多く飛び出したユルいトーク。京都で実現した2人の対談をぜひお楽しみください。(岡村詩野)
「ヤコブくん見て、ギタリストとしてぶっ飛ばされました」(石塚)
ーー知り合ったのはいつ頃なんですか?
田中ヤコブ(以下、田中):俺は一方的に台風クラブを知っていて。2018年3月……イベント『うたのゆくえ』第1回目の時に初めて台風クラブのライブを観たんです。そこで、終演後、普通にファンとして石塚さんに話しかけました。“めっちゃよかったです”って声をかけて、で、石塚さんが“ありがとう”みたいな(笑)。
石塚淳(以下、石塚):ああ~、覚えてないかも(笑)。お客さんたくさんいて、出演者が観れんかったってやつ。
田中:その時、ライブを結構前の方で観てたんですけど、本当にカッコよくて……。ただ、パッケージされた音源とライブのギャップというか……勢いがすごくて。別のものだなって思って、そこに感動した覚えがありますね。『うたのゆくえ』2回目の時は家主でも出させてもらったんですけど、リハをやったりしてたのでほとんど観れなかったんですよね。
ーーじゃあ、2人が仲良くなったのは……。
田中:もう全然最近の話ですよ。去年の12月、高崎でやった2マン以降かな。
石塚:あれ、楽しかった!
田中:あと、その前……8月にラッキーオールドサンと台風クラブのツーマンもあって、そのあたりからですかね。だから、本当にこの1年くらいのことですよね。
石塚:そうそう、その時のヤコブくん見て、ギタリストとしてぶっ飛ばされました。ヤベー人おる!って。しばらくは“SHŌGUNの人”って呼んでました。
田中:それ、直接LINEか何かでも言ってくれて。「SHŌGUN?」って最初何かわからなかった(笑)。
ーー芳野藤丸さんを中心としたバンドですね。
田中:最初知らなかったんですけど、曲を聴いてみたらピンときて「ああ、SHŌGUNがやりたかったこと、俺もわかるなあ」って思った(笑)。逆に俺から見た石塚さんは……石塚さんのプレイってすごく几帳面というか、細かくて、かゆいところに手が届く感じで。
石塚:ヤコブくんが言うかね(笑)。
田中:いやいやいや。音源で聴くと特にそう感じるんですよね。ただ、台風クラブをライブで観ると、石塚さんのエモーショナルな部分が見えつつも、歌いながらこんなふうに弾くんだっていう発見もあって。技術と感情的なところを行ったり来たりするプレイにグッときました。バンドの音としても、3人でやっている中でベースとギターが独立して動いていて、両者が“絡んでいるようで、絡んでいないようで、絡んでいる”って感じ。ともすれば危なっかしいバランスがあって、そこがカッコよくてロマンを感じますね。
石塚:それはその通りで。危なっかしいんですよマジで。誰も理論や押さえてるコードすらわかってないし、文法があとからついてくるみたいな感じで無理矢理やってます。
田中:核がないようである感じというか。言葉にするのは難しいんですけど、技術を超えてきて、それが渦巻いているような感じがするというか……しかもそれが絶妙なバランスで成り立っているんですよねえ。それがほんとにすごい。
石塚:いや、やってる方はマジで余裕ないんですけどね(笑)。もっと上手くあるべきだと思ってますよ。
田中:俺もまったく石塚さんと同じなんです。コードとか全然わかってなくて。石塚さんが弾いてるのを見てて、“なんとなく(彼も)そうなんじゃないかな~”とは思ってました(笑)。
石塚:いやあ、ヤコブくん、コード使いとかめちゃめちゃすごくて。何もわからないでやってるとは全く思ってなかったです。
田中:以前、台風クラブの「日暮し」のコードを送ってもらったじゃないですか。ライブでこの曲を一緒にやるかもしれないってことになって……結局実現はしなかったんですけど、その時に送ってもらったコードを見て、俺の知らないコードばかりでした(笑)。
石塚:いろんなルートから辿って、そこ押さえたことある! みたいな。一緒にやるの、実現しなくて残念やった。
田中:ただ、家で俺が弾いた幻の「日暮し」の音源を石塚さんに渡しましたよね。
石塚:そうそう。俺がスタジオでコード・ストロークしながらiPhoneで録音したやつをヤコブくんに送って。あとは任せた! って感じで。そしたら最高のギターのっけて返してくれて。これはもう間違いないな! って。
田中:石塚さん、その時、「ノエル(・ギャラガー)になってくれませんか」って(笑)。で、自分の中にある“オエイシス的”な要素をなんとなくイメージしつつ、基本はファジーに……って感じで弾いたんですよね。ノエルだったらこのへんでチョーキングするな~ってことを想像しながら。
石塚:あれはやっぱりブリットポップのイメージで作った曲だから。
「マーシーの曲を聴くとシンプルに考えられるようになる」(田中)
ーー2人で共通する好きな音楽の話はしたことあるんですか?
田中:NRBQですかね。
石塚:そうそう!
田中:台風クラブの「火の玉ロック」のソロギターの入り、あれNRBQじゃないですか? って話をして。それがちゃんと話した最初だったんじゃないかな。あれ、実際にNRBQなんですよね?
石塚:もちろん、モロ、モロ(笑)。
田中:ほらほら!
石塚:あと、「マイラバのギターがヤバい!」とかね。
ーーMy Little Loverのギタリストといえばフジイケンジ(旧:藤井謙二)さんですが、彼は元THE BARRETTのメンバーであり、The Grooversの藤井一彦さんの弟でもありますね。
石塚:あ、そうなんや! ヤマさん(台風クラブの山本啓太)から、フジイケンジさんは今The Birthdayのギターをやってるって聞いたんです。
田中:今回の俺の新作の中の曲で言えば、「BIKE」って曲ではギターのアレンジで勝手にマイラバを意識しました(笑)。「NOW AND THEN」のサビの後半の単音で弾くイカしたフレーズとか。それでいえば、石塚さんの音源でのギタープレイや音の埋め方にはすごく構築美を感じるんです。だけど、バンドでやるときには構築され過ぎていない、それでいてかゆいところにも確実に手が届いてる感じがして、自分にとって理想的なんですよね。自分もそうでありたいので、勝手にシンパシーを感じてます。
石塚:バンドで演奏する時はギターは1本しか鳴らせへんから、おのずとニコイチにしてる。で、必死になってやるからヘタになってまう。
田中:レコーディングってどうやってるんですか? 割と入れたい音をガンガン入れる感じですか?
石塚:いや、左と右、いい感じに音がおったらええなって、そのぐらいかな。
田中:「日暮し」にはスライドギターも入ってますけど……。
石塚:あれは賑やかし要員(笑)。まあ、実際、俺90年代のJ-POP好きやしね。
ーー石塚くんは最近、センチメンタル・バスの2ndアルバム(『さよならガール』)をよく聴いているそうで。
石塚:そう。〈39度の~〉(「Sunny Day Sunday」)が入ってるアルバム。あれがマジで最高で。
田中:自分も最近誰かが作ったApple Musicの90年代J-POPリストを聴いてて。それこそMy Little Lover、宇多田ヒカル……あと米米CLUBがめっちゃよかったですね。自分ももともと90年代のポップス好きなんで。
石塚:俺もブックオフが好きなんで(笑)。
田中:単純に曲も音もいいですよね。割と最強だと思います。
石塚:メロディいいですよね。2000年代に入ると著名なロックバンドのメロディがあまりよく聴こえてこなくて……なんかヘンやなあってずっと思ってて。
田中:なるほど〜。確かに2000年代、特に半ば頃に入ると、ヒップホップ的なものや速い16ビートがすごく増えた印象で、メロディの在り方が変容していったように感じました。でも、2000年代でも好きな曲はたくさんあるし……。それでいえば、今回も事前質問で聞かれましたけど、好きな曲とか影響を受けたアーティストとかって、そもそも一つに選べないですよね。
石塚:うん、いつもそういう質問から逃げてる(笑)。
田中:楽器始めたきっかけになったアーティストだと、俺はマーシー(真島昌利)なんですけどね。THE BLUE HEARTSを聴いてギターをやり始めたから。ちょっと難しく考えそうになった時に、マーシーの曲を聴くとシンプルに考えられるようになるというか、原点に帰れるというか。そういう意味では存在として影響を受けてるのかなと思いますね。
「楽曲のアレンジをする時に“XTC的かどうか”が多少ある」(田中)
ーーヤコブくんが特に好きなギタリストはいますか。
田中:好きなギタリストなら3人揺るぎない存在がいて。Pink Floydのデヴィッド・ギルモア、XTCのデイヴ・グレゴリー、人間椅子の和嶋慎治さん。この3人は不動です。
ーー石塚くんがギターを始めたきっかけは?
石塚:俺はOasisですかね。
田中:へえ!
石塚:小6の時、ユーロビートのコンピと思っておじいちゃんに買ってもらったCDが実は『MAX』という洋楽メガヒットを集めたコンピで。そこに入ってたOasisの「Don’t Look Back In Anger」を聴いて、もしこれがエレキギターの音なら自分もエレキをやろうと思ったのがきっかけです。
田中:『MAX』、ウチにもあったな~(笑)。
石塚:ノエル・ギャラガーの、メジャー・ペンタトニック一発! みたいな。曲が良ければ大丈夫! みたいな。最高。
田中:そういえばこないだ知ったんですけど、マーシーがライブで「僕の好きなバンドを日本語でカバーします」みたいな感じで、Oasisの「Roll With It」をやっていたんですよね。
石塚:そうそう! ああいう大ネタに日本語乗っけるのとか、最強に好きで。
田中:マーシー聴いていると、やりたいことをシンプルにやるっていうことの強さを感じますね。
ーーヤコブくんはもともと野球をやっていて、そこからギターを始めたというユニークな遍歴ですよね。
田中:そうです。でも、野球もやりたくてやってたわけじゃなくて、ただ家にいたくなくてやってただけで。で、親父が音楽やってたから家にギターが普通にあって。それでやり始めたのがきっかけです。実際に弾き始めたら案外弾けて。
石塚:コピーとかも?
田中:最初はもうコピーばっかり。それこそTHE BLUE HEARTS。で、意外とイケるなと思ってからは早めにツェッペリンとかに行って。そのあと、BUMP OF CHICKENに行ったり。
石塚:よう戻ってこれたな(笑)。
田中:ねえ(笑)。その後も、はっぴいえんど行ったり、人間椅子行ったり、しっちゃかめっちゃかなコピー遍歴。でも、学校から帰ってきたら手も洗わないですぐギター触る、みたいな感じでしたね。ギターを抱いて寝てましたよ。テンプレ・ギターキッズ(笑)。エピフォンの安いの買ってもらったので、なんでも弾いてました。
石塚:エピフォン、P90?
田中:そう、P90。
石塚:俺はコピーはほとんどしてないんですよ。Oasisとミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)、THE HIGH-LOWSくらい。
田中:俺、たぶん一番コピーしたのってXTCなんですよ。楽曲のアレンジをする時にXTC的かどうか……みたいなのが多少あったりするんですよね。コピーして自分に取り込んだものを形にしていくみたいな。それが今も自分の基準になっていますね。完全に自分の中から発想されることってあまりなくて。何かしらの大元はある上で、そこから自分で発展させていくんです。だからあんまり突飛なことはできないタイプですね。今もしょっちゅうコピーしてます。
石塚:へえ。俺はコピーはもうしないな。ギター抱っこしながらレコード聴く、みたいなことはするけど。
ーー真島昌利の「Roll With It」じゃないけど、台風クラブはGreen Dayの「Basket Case」を日本語でやったり、ギルバート・オサリバンの「Alone Again」をやったりしてますが、いわゆるコピーという感覚ではないですよね。
石塚:そう、むしろ最も遠い。ただ、好きな歌に日本語乗っけてやる感じ。マニアックなところに行ったるぞ、みたいなのを排除してやるカバー。替え歌ですね。
田中:俺も「Alone Again」大好きで。散歩してる時とかあの曲が頭の中で流れてる感じ……っていうと、だいぶ寂しいですけど。マジでグッとくる選曲でした。
ーーでも、台風クラブがやるとタイトルは「ホームアローン」。
石塚:もうコロナで家ばっかおるし……って感じで。原曲の歌詞の内容とか一切見ないで書きました。見ちゃダメ。替え歌なんで。意図を汲み取るとかって高尚なものからなるべく遠いところに置きたいんで。昔のロックバンドって、意訳ですらない日本語カバーが結構あって。そういう感じがめっちゃ好きですね。
「いい音楽の立役者がエレキ(ギター)やと俺は嬉しくなる」(石塚)
ーー逆に自分のオリジナル曲に対してはそれぞれどのようなところに意志が働きますか?
田中:単純に繰り返し聴けるかどうか……みたいなところですかね。聴いて感動というか、いい曲だなってシンプルに思えるかどうか。ストックはいっぱいあるんですけど、いつのまにかヌルってできてる感じ。作り終わって聴かないまま放置してる曲はあんまり出さないようにはしてますね。
石塚:ほんまにそうですよね。やってて盛り上がらなかったらやめる、みたいな。バンドで鳴らして面白そうかどうか。
田中:わかります。盛り上がる瞬間ありますよね。
石塚:でも、だいたい大風呂敷を広げ過ぎて、戻ってこれなくて頓挫する。で、なんとか力ずくで戻ってきて反復構造のあるポップになって、そこから苦労して歌詞を書いてやっと1曲になるって感じ。じゃなかったら二番に行けないし(笑)。
田中:わかる気がします。何年も前に作った曲の断片と新しい曲と合わせることもあれば、Aメロからサビまで一気にできることもあるし……ただ、えてして時間をかけてできる曲より、一気に書けた方がいい曲になることもあって。不条理を感じますけど。
石塚:ヤコブくんの曲、めちゃめちゃいい曲やし、メロディいいし、めちゃめちゃ作り込んでるし、ギターの音の良さ……ここしかないやろ! ってところでここしかない音が鳴ってる感じ。どうやって録ってんか聞きたい。
田中:割と適当に……。
石塚:適当であれはないっしょ!(笑)。
田中:ヘンな話、パソコンあまりよくわからないんで、インターフェースにシールドを直挿しして、アンプの画面立ち上げてカッコいい音になったら、「あ、これでいいか!」って感じ。あと、昔は実家で録ってたんで、VOXのちっこいアンプにコンデンサーマイク1本……みたいにメチャクチャ適当です(笑)。
石塚:へえ!
田中:今は、一緒に録音してくれてるエンジニアの飯塚(晃弘)さんが、自分が録った素材を理解してアドバイスしてくれて、そこから一緒に仕上げてくれてるんです。
石塚:マイキングが重要やもんな。
田中:そうなんです。自分で7、8本マイクを立てて録音してから飯塚さんにいろいろとアドバイスを受けて。「すみません、もう録っちゃったんで後からなんとかなりませんか?」って(笑)。台風クラブの「日暮し」はどうやって録音したんですか?
石塚:うちはいつも通り、ドラムはhanamauiってスタジオで宮(一敬)さんに録ってもらって、今回はギターとかボーカルも自宅で録りました。
田中:噂の新しく家に作ったという防音室で?
石塚:そう、気合いで(笑)。ウチらは録りまでは自分らで全部やって、ミックスは江添(恵介/渚のベートーベンズのメンバーでエンジニア)さんにやってもらってます。
田中:マイクとかは自分で?
石塚:自宅で録ったやつはそうです。でも、俺もヤマさんも無頓着なので、インターフェースに直接突っ込んだ音なんですよね~。『ベース・マガジン』とか読んでる人にどつかれるような録音ですよ(笑)。ヤコブくんはベースも直挿しなんですか?
田中:基本はそうです。時々マイク立てますけど、家で音を出せないんで、環境に依存する感じ。でもフレキシブルにやればそれでいいかなって。録音する前に録音熱みたいなのが高まって急に調べたりはしますけど。昔の録音が好きなので、ツェッペリンはどうやってたんだろうって。
石塚:俺はそういうの全然調べたりしないからなあ。
田中:いいと思う音のバンドをいっぱいメモしたりするんですよね。ドラムはコレ、ピアノはコレ、みたいに楽器ごとにメモして。例えば、アルバムの1曲目「ミミコ、味になる」の12弦ギターなんかは、XTCのデイヴ・グレゴリーを意識しました。
石塚:あの曲、ほんと12弦いい音。あれ、ギター何?
田中:リッケン(バッカー)ですね。
石塚:リッケンとダンエレクトロでは副弦を貼る順序が違うみたいだけど……。
田中:そうそう。ダンエレは上が細くて、リッケンは逆ですね。リッケンは意外とハコモノっぽい音がしますね。あとは当然、The Byrdsのような音も。でも、俺の中ではリッケンの12弦といえばXTCです。学生の頃、バイトしてお金貯めて、使い道なくて12弦エレキを買ったんですけど(笑)。
石塚:今って、12弦エレキの楽器界の立ち位置、ヤバい。俺、12弦のエレキの弦替えようと思って、京都の知ってる楽器屋全部回ったけど一つもなくて。アコギの12弦はまだあったんやけど……ほんまに今エレキの12弦弾く人いなくなってるんやなって。あと俺は、ヤコブくんの新作でいうと「cheap holic」……ハードロック然としたイントロを裏切って始まるメロウなコード運びが最高やなと。
田中:あれは、イントロがZZ Topで、曲が始まったらシティポップになったら面白いかもっていう(笑)。基本、曲作る時、友達に聴かせて笑わせたい、みたいなのがあるんですよ。これは結構狙い通りです。
石塚:アルバムを通して思ったんですけど、いい音楽の立役者がエレキ(ギター)やと俺はめちゃ嬉しくなる。エレキいいよね~って(笑)。
田中:ですよね!
「ソロだと制約がないからなんでも入れられる」(田中)
ーーでも、ヤコブくんの新作には、「えかき」「いつも通りさ」といったストリングスが入った曲もあります。
田中:「えかき」に関しては、名古屋にハートカクテルっていう好きなバンドがいて、そのメンバーの亀谷(希恵)さんにぜひバイオリンを弾いてほしくて、直談判して、機材担いで夜行バスで名古屋に行ってきました。ハートカクテルは他の人に曲をもらって演奏しているバンドなんですけど、それで俺も勝手にハートカクテルに曲を提供するなら……ってイメージして作っていたんです。でも、でき上がったら亀谷さんに本当にバイオリンを弾いてもらいたくなって、それでお願いしたら受けてくださって。で、「いつも通りさ」の方は、めっちゃ頑張って俺がチェロ弾きました。
石塚:あ、やっぱそうなんや。
田中:近所に1時間500円とかでチェロを貸してくれるところを見つけて。
石塚:そこってヤコブくん以外利用してる人いんの?(笑)
田中:普段はクラシック音楽系の人が利用しているところみたいです。ソロだと、制約がないから、なんでも入れようと思えば入れられるところが大きな利点で。バンドでストリングス入れる気はあんまりないですけど。
石塚:うん、俺もストリングスとか興味ないことないけど、エントロピーが増大して無茶苦茶になるじゃないですか(笑)。ギター、ベース、ドラムでねじ伏せるので精一杯で。
田中:石塚さんの曲は古典的でありそうで、古典的でないっていうか。一聴して、音とかリフはロックンロールかなって感じもするんですけど、曲を聴けば聴くほどいろんな要素が感じられるんですよね。構成としてもちゃんと循環して成り立っている。ポップスとしてのわかりやすさもあるし。実際にコピーするとそのすごさに気づくんですよ。さっき話したように、もしかして一緒にやるかもしれないってなった時に「火の玉ロック」をやってみたんですけど、これがもうめちゃくちゃ難しい。どこに転がっていくかわからない。聴いていた時の違和感が心地よくて、コピーしたらすごいってことがわかる。深淵を覗く感じっていうか。そこは自分も目指しているところなんでよくわかるんですよ。
石塚:一発で聴けなあかんのに、作ってる側は、A/F#m/D/Eとかのコードだと全く盛り上がらないからいろいろ試してみる……みたいな感じなんですよね。で、間違って押さえたコードがおもろかったら次に進めることもあります。かつ、聴き流せるかどうかも重要で。
田中:でも、聴き流せないところがあるというか。歌詞もそうだし、全ての要素がそういう感じするんですよね。近くで見た時と、遠くから見た時の違いがあるような感じっていうか。遠くからちゃんと見えるっていうのが確かにすごいんですけど、えてしてそういうものって近くで見たらあんまり……ってことあるじゃないですか。でも台風クラブは近くで見てもいろんな要素が複合的に、有機的に混ざり合ってる気がして。そういう音楽ってなかなかないんで、聴いていてすごいなあ! って思います。パッと聴きでも素晴らしいし、聴き込んでいくとその良さにエビデンスがちゃんとあるというか。
石塚:でも確かに、普通に聴いて「いい曲!」と思えるのがまず大前提。で、あとは俺がおもろないと作れないので、中身はちょっとややこしいことにしてるって感じ(笑)。しかも、楽曲もなるべく3分台に収めたい。
ーー台風クラブの「日暮し」はバンド史上、初の4分越えです。
石塚:あれね、それでもかなり削ったんですよ。最後の〈ナー・ナー・ナー〉ってところも歌いたいしなって。まあテンポも遅いし、削って4分半、これでギリギリでしたね。ソロとかもBメロの尺にして……。
田中:基本3分半にこだわるってよくわかります。4分越えるなら意味のある4分越えじゃないとって思いますよね。
対談前の事前質問&回答
田中ヤコブ
【Q】音楽活動を始めるに至ったきっかけを教えてください。
【A】親が好きだった。野球部をやめてやることがなくなったから。
【Q】自身の音楽活動において、最も影響を受けたアーティストを教えてください。
【A】真島昌利、ジェフ・リン
【Q】ソングライティングにおいて最も気にかけていること、こだわっていることを教えてください。
【A】自分が良いと思える曲を作る。
【Q】ここ最近の愛聴盤(もしくは曲、アーティスト)を教えてください。
【A】Caravan(UKのプログレッシブバンド)、SE SO NEON『Nonadaptation』
【Q】対談相手のミュージシャンの第一印象を教えてください。
【A】几帳面な方。
石塚淳(台風クラブ)
【Q】音楽活動を始めるに至ったきっかけを教えてください。
【A】小6のとき、ユーロビートのコンピだと思っておじいちゃんに買ってもらったCD が、実は『MAX』という洋楽メガヒットを集めたコンピでした。そこに入ってたOasis「Don’t Look Back In Anger」を聴いて、もしこれがエレキギターの音なら自分もエレキをやろうと思ったのがエレキッカケです。
【Q】自身の音楽活動において、最も影響を受けたアーティストを教えてください。
【A】影響同士が影響し合ってこちらに影響を与えているので、「最も」というのが思いつきません。 あちこちから山ほど影響を受けていますが、その巨大な山の頂はなだらかです。
【Q】ソングライティングにおいて最も気にかけていること、こだわっていることを教えてください。
【A】作ってて面白いか、バンドで鳴らして面白そうかどうかを気にしています。曲作ってるときはだいたい大風呂敷を広げ過ぎて、戻ってこれなくて頓挫します。なんとか力ずくで戻ってきて反復構造のあるポップになって、そこから苦労して歌詞を書いてやっと1曲になります。
【Q】ここ最近の愛聴盤(もしくは曲、アーティスト)を教えてください。
【A】センチメンタル・バス『さよならガール』、Jules & The Polar Bears『Fenetiks』
【Q】対談相手のミュージシャンの第一印象を教えてください。
【A】去年の夏の渋谷、ヤコブくんはラッキーオールドサンのツアーサポートで弾いていたんですが、アンサンブルの中では歌手を立てて涼しげに佇んでいるのに、ギターに耳を傾けるとアッツアツの音でえげつない演奏をしている姿が、往年のTVショーでの職人ギタリスト像と重なって、しばらくは心の中でSHŌGUNの人って呼んでました。
【Q】田中ヤコブ『おさきにどうぞ』で気に入った曲を教えてください。
【A】まだ2巡しかしてないのであくまで“2巡目の”です。 これから咀嚼してさらにおいしくなります。
「ミミコ、味になる」:イントロからいい予感がしていて、歌が始まった瞬間に12弦エレキが入ってきて早速気分は最高!
「BIKE」:超いい曲。 特にサビでドンタドドンタンになるのが大好きでキター! ってなります。
「cheap holic」:ハードロック然としたイントロを裏切って始まるメロウなコード運びが最高!
「LOVE SONG」:超いい曲。エレキギターも大活躍していて最高です。
「えかき」:ストリングスって? まさかヤコブくんストリングスもできるのか?
「いつも通りさ」: 要所で出てくるストリングスと一度だけ出てくるエレキリードが最 高。抜群に効いてます。
「小舟」:超いい曲。要所要所でそうきたか~ってなります。
■リリース情報
田中ヤコブ『おさきにどうぞ』
2020年10月14日(水)¥2,200+税
<収録曲>
01.ミミコ、味になる
02.BIKE
03.cheap holic
04.LOVE SONG
05.えかき
06.Learned Helplessness
07.THE FOG
08いつも通りさ
09.どうぞおさきに
10.膿んだ星のうた
11.TOIVONEN
12.小舟
■関連リンク
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