『DIVER-特殊潜入班-』が最終話で示した“正義”と“善悪” 福士蒼汰にあった狂気性のワケ
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本格派アクション、かつ現代では珍しいハードボイルドドラマの『DIVER-特殊潜入班-』(カンテレ・フジテレビ系)が最終話を迎え、様々な人間の思惑と信じる正義が交錯する結末となった。
危険物質の密輸現場で警察に身柄を拘束された黒沢兵悟(福士蒼汰)は、護送車から脱走し、今回の爆発事件を発端とした一連の流れを仕組んだ張本人とその狙いに気づく。
黒幕は阿久津(りょう)で、元同僚の岡本正秀(寺脇康文)を見殺しにした警視庁上層部の遠藤洋三(小市慢太郎)を罰するため、また女性初の警視庁総監になることが気に食わず阿久津の足を引っ張ろうとした遠藤への復讐が目的だった。阿久津はそれを伊達(安藤政信)に問われた際に、「これはそんな“ちっぽけなこと、復讐”ではなく、警察組織の腐敗の象徴を打ち壊すため。健全な組織運営のため」だと迷いなく答える。
部下を前に「テロはどんなことがあっても断じて許さない」と警備強化を唱えながらも、実際には国際テロを装って有毒物質を遠藤に浴びせ抹殺することを仕組んだのは自分自身、本当に「悪を討つためなら手段を選ばない」、それこそが彼女の言う「正義」なのだ。大切な同僚の死を“ちっちゃな復讐”と言って捨ててしまえるほどには、彼女もどこかで本当に大切なものを見失ってしまっている。
男性社会でずっと獅子奮迅頑張ってきた彼女にはこれまできっとたくさんの理不尽や不条理が降りかかってきたことだろう。心を砕きながらもここまで何とか昇ってきた人だ。そんな彼女が信じる「正義」とは、やられっぱなしではなく自分自身を陥れようとした相手のことは手段を選ばず引きずり落とす、それくらいの気概がなければ今彼女がいる場所には立っていられなかったのかもしれない。それを思うと、彼女もまたそんな社会が生んだ被害者だとも言えなくはない。
そして今回の復讐計画の担い手になったのは、佐根村将(野村周平)だった。佐根村というのも偽名で、本名は岡本将。そう、岡本正秀の息子だったのだ。そこで遠藤を撃ち殺そうとする佐根村を兵悟が止めに入る。「お前の父親を撃ったのは俺だ。やるなら俺を撃て」と名乗り出る。
兵悟も尊敬する上司を自身の保身のために見殺しにした遠藤を心底憎んでいたものの、あの現場に居合わせた自分自身が何もできなかったことへの無力感に苛まれており、きっとあの時からずっと自身のことを許せていないのだろう。
佐根村が遠藤を射殺することを止めたのは、その懺悔や後悔の気持ちを佐根村には味わわせたくはない、また自分の命の恩人である岡本の大事な存在であるからこそ彼を復讐の連鎖に引きずり込まないように、何としてでもそれだけは阻止したかったのだと思われる。
岡本が自分の前で、自分を生かすために銃を引いたこと、その時に残した言葉「生きろ。生きて悪を断てよ」は、兵悟にとってはある種呪いのように亡霊のように常につきまとう。あの瞬間、一度兵悟は死んだのだろう。あの瞬間以降の兵悟は、「生きている」のではなく、岡本の命と引き換えに常に「生かされている」のだ。自身の意思に関わらず、想いを託され十字架を背負って生きるしかない、それもまた重く苦しいことに違いない。
兵悟が垣間見せる“狂気性”は、一度死んでいる者だからこそ、また自分の意思に関わらず「生きるしかない者」だからこそ持ちうるものだったのかもしれない。
伊達が阿久津に言い放った「正義」と「善悪」の関係性は的を射ている。「上層部はごちゃごちゃやってるかもしれないが、現場は一つでも犯罪を減らそうと必死。正義だのなんだの大義名分を掲げているうちに善悪の判断も付かなくなっちまったんだな」。
「正義」も「善悪」も何に目を向けるか、誰を主語にするかで全く意味するところが異なってくる。また自分の都合の良いように捻じ曲げることだってできてしまう。一見、崇高な理想や正しさも、それが独りよがりになってしまったり過剰になってしまった瞬間、一人ひとりの血と涙の犠牲をも厭わず人を傷つけ暴走し始める、いとも簡単に「悪」にも転じ得ることを肝に銘じたい。
■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter
■放送情報
『DIVER-特殊潜入班-』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送(全5話)
出演:福士蒼汰、野村周平、片瀬那奈、浜野謙太、正門良規(Aぇ! group / 関西ジャニーズJr.)、中山義紘、正名僕蔵、安藤政信、りょう
原作:大沢俊太郎 『DIVER-組対潜入班-』(集英社)
脚本:宇田学
演出:宝来忠昭、木村弥寿彦(カンテレ)、西片友樹
プロデュース:萩原崇 (カンテレ)、大城哲也(ジニアス)
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
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