Hey! Say! JUMPやDISH//からもラブコール Lucky Kilimanjaroが拡張する“生活に寄り添う”ダンスミュージック
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Lucky Kilimanjaroのフロントマンでありコンポーザーである熊木幸丸に対して、僕は勝手に「おどる哲学者」というキャッチコピーを付けている。そもそもLucky Kilimanjaroはバンド全体として「世界中の毎日をおどらせる」というテーマを掲げているが、彼らの音楽には常に「我々は、どう生きるべきか?」という問いと、それに対する試行錯誤が込められているように思える。その思考錯誤こそが、彼らにとっての「おどる」という行為の定義なのではないかと思えてならない。生活、社会、時代、人生……そういったものと、我々はどうやって折り合いを付けていけばいいのか? どうすれば、我々は幸せに今日を生き、明日を迎えることができるのか? こうした問いに対して、「こう生きろ」と、インスタントな答えを用意することは簡単で、まぁ、ときにインスタントな答えを摂取することも悪くはないのだが、それでも結局、朝に怯えながら眠る夜はやってくるわけだし、どれだけ腹いっぱい飯を食おうが、時間が経てばまた腹は減る。だから、再び問うことになる……「どう生きればいい?」と。「問い」は残り続ける。それが現実だから。
Lucky Kilimanjaroは、そういう現実に音楽を通して真っ向から向き合っている。その姿勢(すなわち「おどる」ということ)は特に、歌詞の面で顕著に表れる。そして、その歌詞が濃密な音色のグラデーションを描くシンセサイザーに彩られたロマンチックなサウンドと出会うことで、彼らにしか作りえないポップミュージックが生み出されているのだ。身体性を伴った思考、生活的なダンス。Lucky Kilimanjaroの音楽とはそういうものである。
今、Lucky Kilimanjaroの勢いは確実に加速している。彼らは去年の11月に渋谷WWWで初のワンマンライブをソールドアウトで開催。結果的に中止になってしまったものの、今年の5月にはさらに規模を大きくして、恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブもソールドアウトしていた。さらに言えば、熊木幸丸のソングライティングを必要としているのは、なにもLucky Kilimanjaroだけに留まらない。今年の2月にはHey! Say! JUMPのシングル『I am / Muah Muah』通常盤のカップリングに「ときめきは嘘じゃない」を提供しており、同時期に、DISH//に「SAUNA SONG」を提供している(ミニアルバム『CIRCLE』収録)。熊木幸丸のソングライティングは今、さらに大きなポップフィールドにおいても必要とされている。
Lucky Kilimanjaro「SAUNA SONG」MV
DISH//に提供した「SAUNA SONG」は、9月に配信リリースされた(フィジカル盤は10月21日リリース)シングル『夜とシンセサイザー』のカップリングにセルフカバーが収録されている。この曲はDISH//の北村匠海の原案を元に作詞作曲を熊木幸丸が行った。ゆったりとしたテンポと、隙間のあるメロウなプロダクションが心地よい1曲で、〈サウナに入るのがおすすめ〉〈いますぐサウナにgo〉というユーモラスな歌詞が印象的だが、そうしたキャッチーなフレーズの狭間に、この時代を生きる人々に対しての、自分を愛し、他者を愛するための優しい提案が見え隠れするところが、とても熊木らしい筆致である。生活の中の些細な仕草のひとつひとつが、自分を変え、他者を変え、世界を変えていくということを、彼は知っているのだ。
2020年は今を生きる人々にとって簡単に忘れられない1年になるだろうが、きっとLucky Kilimanjaroというバンドの歴史においても、2020年は非常に大きな1年として記憶されていくことになるだろう。3月4日にはメジャー1stフルアルバム『!magination』をリリースし、その後、「光はわたしのなか」、『エモめの夏』、『太陽』、そして『夜とシンセサイザー』と、10月半ばまでの段階で、配信/フィジカルを含め4作のシングルをリリースしている。前述したバンドの好調ぶりを鑑みても、驚くほどのリリースペースである。なかでも、5月6日に事前告知なしで配信リリースされた「光はわたしのなか」は、コロナ禍における自粛期間中の心情と、そこから見出したメッセージを実直に綴った曲で、いわば「出さずにはいれなかった曲」という印象を与えるものだった。この曲では、彼らがこの時代、この状況をどう受け止め、なにを伝えたいと思ったのか、それが衝動的ともいえる筆致で描かれていた。
変わる日々に目隠しされても このダンスは止めないわ
ここでできることをやるよ
来たる夏を想うよ
未来は消えてないよ
今だから踊り歌うわ
誰かの笑顔を救い出す 光はわたしのなか(「光はわたしのなか」)
思考の変遷を具現化したかのように、1曲のなかで表情を変えていくサウンド。その中で歌われる歌詞には、叶わなかったLIQUIDROOM公演や、疲れたときの気持ちの拠り所になった『あつまれ どうぶつの森』など、コロナ禍における熊木幸丸のリアルな心象風景が随所に、直接的あるいは間接的な形で散りばめられていた。目隠しをされたような現実に混乱しながらも、しかし、それでも彼らは前を向こうとしていた。目隠しをされているからこそ、彼らは人間一人ひとりの内側にある「光」に目を向けようとした。
「ハウス(家)」と「ハウス(ミュージック)」をかけた名曲「HOUSE」も収録した2019年のEP『FRESH』や、今年の『!magination』で確立していた「インドア派によるダンスミュージック」というバンドのキャラクターが、家にいることを余儀なくされたこのコロナ禍で、奇しくも、より深くその本質を露わにした……「光はわたしのなか」は、そういう曲だった。
続く『エモめの夏』『太陽』と7月に立て続けにリリースされたシングルでは、それぞれタイトルトラックにおいて、屈強なダンスチューンを展開。ハウスビートを昇華した快楽的な「エモめの夏」もよかったが、個人的には「太陽」を初めて聴いたときに、とんでもなく衝撃的だった。トライバルなビートと、〈さぁ踊らにゃ損! 踊れや!ほいやっさ!〉と、日本人の琴線に問答無用で触れてくるような民謡的な歌い回しが強烈な1曲。Lucky Kilimanjaroにポップな曲はたくさんあるが、ここまで「突き抜けた!」と思わされた曲は初めてだった。そう簡単に外に出ることができない状況だからこそ、プレイボタンを押した瞬間に昇るこの「太陽」の存在は祈りそのものだった。
そして、目下最新シングルのタイトル曲「夜とシンセサイザー」は、「エモめの夏」~「太陽」へと至る「夏」仕様のアップリフティングな流れから一転、夜の寂しさに寄り添うように切なく、温かく響く1曲だ。
すぐに何でも手に入る時代だけど
何でも失う時代
そんなにタフじゃない
ときに寂しさが襲う
あなたのかわりに泣けないけど せめて話を聞くよ
(「夜とシンセサイザー」)
分厚いシンセサウンドがベールとなって世界を遮断し、聴き手の孤独をそっと守るように響く。「ひとり」を許さない世界で、あなたが孤独でいることを許してくれるような優しい曲。そしてこの曲は、あなたがこの世界を気高い孤独と共に生き抜くことを願う、闘いの歌でもあるといえるだろう。
Lucky Kilimanjaroの生み出す「おどれる音楽」は、まるで季節の移り変わりに寄り添うように、日々の生活のバイオリズムに寄り添うように、多様な変化を重ねながら聴く者の生活を今日も彩っていく。
■天野史彬(あまのふみあき)
1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。Twitter
■リリース情報
『夜とシンセサイザー』
2020年10月21日リリース
¥1,000(+税)
01.夜とシンセサイザー
02.SAUNA SONG
■ライブ情報
『Lucky Kilimanjaro Presents TOUR ”2020 Dancers”』
2020年09月24日(木)東京都・恵比寿LIQUIDROO M
OPEN 18:00 / START 19:00
2020年11月13日(金)愛知県・名古屋JAMMIN’
OPEN 18:15 / START 19:00
2020年11月14日(土)大阪府・梅田CLUB QUATTRO
OPEN 17:00 / START 18:00
『Lucky Kilimanjaro Presents TOUR “2020 Dancers FINAL”』
2020年12月11日(金)東京都・恵比寿ガーデンホール
OPEN 18:00 / START 19:00
■関連リンク
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