『エール』窪田正孝×吉岡秀隆、尋常ではない緊張感の芝居に 裕一が永田から突きつけられた問い
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裕一(窪田正孝)が、ラジオドラマ『鐘の鳴る丘』の主題歌「とんがり帽子」を完成させた。戦争で傷ついた人々を励まし、勇気づけた裕一のモデルである古関裕而さんの代表作に数えられる楽曲だ。福島市にある古関裕而記念館は、この「とんがり帽子」をイメージしたユニークな建物になっているほどだ。
『エール』(NHK総合)第94話にて、劇作家の池田(北村有起哉)から次曲に頼まれたのは、映画『長崎の鐘』の主題歌。原爆の現実を克明に描いた鬼気迫る内容だ。「この人に会ってみたい」。裕一はそう音(二階堂ふみ)に告げ、長崎にいる映画の原作者である医師・永田(吉岡秀隆)のもとに向かう。戦争の恐怖、罪からもう一歩前に進むために。
原爆で荒廃した長崎は少しづつ、もとの美しい港町の姿を取り戻そうとしていた。そこで裕一を待っていたのは、戦争で親を亡くしながらも元気にはしゃぐ子供たちと広場に堂々と鎮座する大きな鐘。そして、永田とその妹・ユリカ(中村ゆり)だった。如己堂は、永田が病室兼書斎としている建物。その名は「汝に近きものを己のごとく愛すべし」という意味から永田自らが名付けたものだ。
永田は白血病を発症し、如己堂で寝起きしながら執筆活動をしている。圧倒されるのは吉岡秀隆演じる永田の目力だ。横たわる永田は病弱であるが、裕一を見つめる眼差しはとても力強い。印象的なのは、戦争に2度行った永田が戦地で「露営の歌」や「暁に祈る」を歌ったという話に「すいません」と謝る裕一へ永田が詰め寄る場面だ。詰め寄ると言っても身体ではなく、言葉と態度で。ピクンと表情が一変する永田は、自分が作った曲で若者を戦地に向かわせてしまったという裕一の話に「贖罪ですか?」と迫る。布団が波打つほどに大きく息を吐いた永田は「あなたご自身のために作ってほしくは……なか」と正直な気持ちを裕一にぶつけるのだ。
原爆は兵隊だけでなく、普通に暮らす何万もの命をたったの一発で奪った。自身の怪我を顧みず被爆者の治療にあたった永田の経験は、裕一が目にした惨劇とはまた別の出来事である。焦土と化した長崎、広島を見て、ある若者は「神は本当にいるのですか」と永田に問く。永田が答えたのは「落ちろ……落ちろ……どん底まで落ちろ」というあまりにもリアルなアンサーだった。
裕一はその言葉の意味を見つけられぬまま、3日間籠もりっ放しになっていた。楽譜はまだ手付かず。「あん人は真面目すぎる。自分を見つめても見つからんのだがな」とユリカとともに微笑む永田からは、おおらかな医師としての聡明さをも感じさせる。
今年の春に、古関裕而記念館を訪れた際、2階の資料展示室で最初に目に止まったのが「長崎の鐘」に関する資料だった。そこには永田のモデルとなった永井隆から古関に贈られたロザリオなどから、2人がいかに親密なやり取りをして楽曲ができたのかが伝わり、ドラマでどう描かれていくのか楽しみになったのを覚えている。裕一が長崎で見出す答え、希望とは。
■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/