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「のむコレ2020」注目は“全力後ろ向き映画” 『ルクス・エテルナ 永遠の光』『レディ・マクベス』

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リアルサウンド

 まったく季節感がない2020年だが、今年も“のむコレ”の季節がやったきた。“のむコレ”とは、映画館・シネマート新宿/心斎橋で、同劇場の編成担当の野村武寛氏が選んだ世界各国の話題作・注目作を上映するイベントだ。今年はそのラインナップの中から、何かと世知辛い現代に相応しい、2本の荒み切った映画をご紹介したい。

『ルクス・エテルナ 永遠の光』

 1本目にご紹介するのは『ルクス・エテルナ 永遠の光』(2019年)。新作が公開されるたびに映画祭で酷評と絶賛で巻き起こるのが風物詩となったギャスパー・ノエの中編だ。

 いわば『カメラを止めるな!』(2017年)的な映画撮影現場モノで、現場のドタバタを描いているのだが……。『カメ止め』が「何だかんだ苦労しても、映画を作るのってイイよね!」という現場賛歌だったのに対して、こちらはグダグダな現場で全スタッフの怒りが頂点に達し、完全な混沌に陥っていく様を描くブチギレ映画であり、劇中で何度も「何を撮ってやがんだ! カメラを止めろ!」と怒声が飛ぶ、本当の意味でのカメラを止めろ映画である。

ギャスパー・ノエ監督作、『ルクス・エテルナ』予告混沌編

 魔女狩りの映画(しかも十中八九面白くなさそうなのがお見事!)を撮っているスタッフ陣だが、そこに連帯感など皆無。「俺がいくら金を出したと思ってるんだ!」とブチギレるプロデューサー、「なんやこのクソ映画! 俺は巨匠の弟子なんだぞ!」とブチギレるベテラン撮影監督、対して「あの撮影監督は無能やんけ!」と怒り心頭の監督に、現場に入り込んで「俺の企画を聞いてください!」と無関係な売り込みをする若い業界ゴロ……。ロクでもない連中のエゴとエゴのシーソーゲームを、ギャスパー・ノエらしい目に悪い映像と露悪趣味で捉えている。

 分割画面にメタ視点、不意に突っ込まれる物騒極まりない情報……疲労、特に眼精疲労は瞬時にMAXだが、それゆえに修羅場に放りこまれた臨場感を味わえることだろう(ポスターにも書いてあるが、画面が激しく明滅するシーンがあるため、苦手な人は要注意だ)。どれだけ立派な映画を作ろうと思っても、どうにもならんことは、どうにもならんのだ。合間合間に挟まれる映画人たちの名言も虚しさを煽る。観終わったあとは何でもほどほどにしておこうと思うこと請け合いだ。

『レディ・マクベス』

 そして2本目は『レディ・マクベス』(2016年)。主演は『ミッドサマー』(2019年)でカルト宗教の村で大変なことになる傷心の女子大生を演じて話題になったフローレンス・ピューだ。

 実は同年に『ファイティング・ファミリー』(2019年)という心温まるスポ魂映画にも出ていたり、幅の広い女優さんなのだが……本作では、またしても大変なことになる女性役を好演している。舞台は19世紀後半のイギリス。金持ちの家に嫁いだキャサリン(フローレンス・ピュー)だったが、女性の人権など皆無の時代、この結婚は完全な「お家存続のため」であった。しかも夫は初夜から「服を脱いで直立不動でいろ」とトキメキが1ミリもないことを言い出す始末。冷めきった夫婦仲、募っていく孤独から、やがてキャサリンは不倫に走ってしまう。そこまでならよかったのだが、情熱的な恋に落ちたキャサリンは、勢いに任せて恋の障壁を“排除”すべく凶行に走るのだった……。

 最悪の初夜から映画は幕を開けると、あとは最後まで殺風景な屋敷の中で、キャサリンが徐々に狂っていくのを淡々と描いていく。キャサリンは基本的に家から出ず(出してもらえず)、外出は精々散歩程度。不倫相手とセックスを繰り返すが、これも欲望を吐き出しているだけで、まったくロマンティックではない。

『レディ・マクベス』予告

 音楽も動きもないが、しかしそこはフローレンス・ピュー。表情や立ち振る舞いの変化で、平凡な少女が一種の怪物へと変化していく様を見事に表現している。前述の『ルクス・エテルナ』が元気いっぱいの「動」の狂気だとすれば、こちらは完全な「静」の狂気。1人の人間が壊れていくまでの定点観測というべき映画だ。折しもコロナ禍で家から出ることができない人も多い現状、強制引きこもり生活で静かに狂っていくキャサリンに己を重ねる人は多いのではないか。やはり望まぬ引きこもり生活には限界があるし、悲劇に繋がるだけだと痛感させられる1本だ。

 そんなわけで今回は2作のメンタル荒み切り映画をご紹介させていただいた。どっちも観終わった後は清々しいほど気持ちが落ち込むが、それもまた映画に触れる喜びだ。現在、社会には「こんな時代だからこそ、前向きに」といった切り口のものが溢れている。たしかに前向きでいることは大事だが、世にあるものが全て前向きなものだけになってしまっては、それはそれで息苦しい。あえて後ろ向きな気持ちになる映画に触れることで、我々は前に進めるのと同様に、後ろにも進めるのだと知れるだろう。「こんな時代だからこそ、あえて前向きに」この言葉に飽きが来ている方は、これを機に全力で後ろ向きな映画を摂取してみるのはどうだろうか。今回ご紹介した2本の映画、そして“のむコレ”がその機会の1つとなれば幸いだ。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■公開情報
「のむコレ2020」
シネマート新宿、シネマート心斎橋にて開催中
鑑賞料金:一般・大学生・シニア:1,500円均一/リピーター割引:1,200円均一
公式サイト:https://www.cinemart.co.jp/dc/o/nomucolle2020.html

『レディ・マクベス』
シネマート新宿:10月23日(金)より
シネマート心斎橋:10月30日(金)より
監督:ウィリアム・オルドロイド
出演:フローレンス・ピュー、コズモ・ジャーヴィス、ポール・ヒルトン、ナオミ・アッキー
配給:アット エンタテインメント
イギリス/2016年/89分
(c)iFeatures Limited 2016.

『ルクス・エテルナ 永遠の光』
シネマート新宿、心斎橋ともに11月20日(金)より
監督:ギャスパー・ノエ
出演:シャルロット・ゲンズブール、ベアトリス・ダル、アビー・リー・カーショウ
配給:ハピネット
フランス/2019年/51分