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『エール』どんな絶望の中にも希望は生まれる 「長崎の鐘」が届けたすべての人への“エール”

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 『エール』(NHK総合)第94話で、「長崎の鐘」作曲のため、歌詞の元になった本の著者・永田武(吉岡秀隆)に会いに長崎へ向かった裕一(窪田正孝)。長崎は焦土と化し、生き残った人たちは家も愛する家族や友人も、何もかも失っていた。

 「神様はほんとにいるとですか?」と問うた若者に、「どん底まで落ちろ」と答えたという永田。なぜ彼はその若者に追い打ちをかけるような言葉をかけたのか。その理由を、裕一は長崎の地でずっと考え続けていた。そんな裕一を見兼ね、永田は妹のユリカ(中村ゆり)に、裕一をある場所に案内するよう促す。そこは原爆投下直後、永田が怪我人の治療にあたった場所だった。皮膚が焼けただれ、飛んできたガラスが足や腕に刺さった人たち。自分自身も原爆で親を亡くしてもなお、凄惨な現場で永田は歯を食いしばって戦った。壁の裏には、その時に永田が記した「どん底に大地あり」という言葉が残されている。

 長崎市・浦上天主堂(現:カトリック浦上教会)は、爆心地から北東約500mの丘の上に立っていた。天主堂の鐘楼には元々大小2つの鐘が並んでいたが、原爆により小さい方の鐘は粉々に。けれど奇跡的に大きい方の鐘は壊れることなく瓦礫の中から見つかった。何もかも失った人たちにとって、それはたった一つの“希望”に思えただろう。永田は生き残った人々と一緒に瓦礫から引っ張り出した鐘を、その年のクリスマスに初めて鳴らした。ユリカは当時を、「あの時の感動は一生忘れません。鐘の音が私たちに生きる勇気を与えてくれました」と振り返る。裕一はそれを聞き、ようやく永田が若者にかけた「どん底まで落ちろ」という言葉の意味を理解することができた。

「神の存在を問うた若者のように、なぜ、どうしてと自分の身を振り返っているうちは、希望は持てない。どん底まで落ちて、大地を踏みしめ、共に頑張れる仲間がいて、初めて真の希望が生まれる。その希望こそ、この国の未来をつくる」

 裕一は戦争で多くのものを失った。音楽の素晴らしさを教えてくれた藤堂先生(森山直太朗)、自分を慕ってくれた弘哉(山時聡真)、そして音楽を作り続ける意味。すべてに絶望し、自分自身を責め、殻に閉じこもった。けれど、見渡せばそこに家族や友人、仕事仲間がいて、いつも裕一に手を差し伸べてくれていた。それこそが、永田の言う“希望”だ。どんな絶望の中でも、一緒に生きていける人がそばにいる限り希望は生まれる。

 第19週「鐘よ響け」では、長崎にふたたび鐘が鳴ったように、戦争の荒波に揉まれて音楽の素晴らしさを忘れた裕一が立ち上がる姿が描かれた。これまで裕一が作ってきたのは、誰かを励まし、応援する音楽だった。幼い頃に鉄男(中村蒼)へ向けて作った曲も、早稲田大学の応援部のために作った「紺碧の空」も、福島三羽烏で藤堂先生に送った「暁に祈る」も……。時代が移り変わっても、裕一は変わらず誰かを応援し続けていたのだ。

 「希望を持って頑張る人にエールを送ってくれんですか?」。武からもらったその言葉を胸に、裕一は「長崎の鐘」を書き上げた。裕一がこの曲を歌ってほしいと依頼したのは、歌手で唯一、南方の最前線を慰問した山藤(柿澤勇人)。戦争の悲惨さを目の当たりにした彼なら、曲の意味を理解してくれると踏んでのことだろう。「長崎の鐘」は裕一の代表曲となり、戦争で傷ついた人々の心を癒した。その間に日本は徐々に復興の兆しを見せ、豊橋では関内家がグローブの生産に乗り出し、智彦(奥野瑛太)もラーメン屋を辞めて友人が紹介してくれた貿易会社への就職が決まる。しかし、智彦が絆を深めていた戦災孤児のケン(浅川大知)の寂しそうな表情が気になるところだ。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/