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大九明子、瀬田なつき、枝優花、松本花奈が痛快に描く 『あのコの夢を見たんです。』の妄想世界

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 中条あやみ、芳根京子、森七菜、飯豊まりえ、池田エライザ……などなど、いまもっとも注目を集める若手女優が各話のヒロインを務め、仲野太賀が民放ドラマ初主演を果たした『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系)。本作は、豪華な出演者陣が放つ魅力もさることながら、毎話テイストが異なり、じつにバリエーションに富んだ作品だ。そしてそこには、そっと批評的なまなざしが注がれているように思う。

 このドラマは、南海キャンディーズの山里亮太による同名小説を原作としたもの。主演の仲野が山里役を演じ、彼が喫茶店の中で特定の女優に関する“妄想小説”を書き始めると同時に、妄想による物語世界が広がっていくというストーリーラインだ。

 第1話の「中条あやみ回」では、“追いかけられる恋より、追いかける恋をしたい”と思っている高校イチのモテる女生徒に中条が扮し、失恋を体験できるアプリ「振られ屋」にのめり込んでいく姿が描かれた。続く第2話「芳根京子回」の舞台は、なんと30年ぶりに“魔王”が復活した世界。かつて魔王を打ち倒した“光の騎士”たちが再集結する中、ごく平凡な女性の京子(芳根京子)が勇者に選ばれ、獅子奮迅の活躍を展開した。そして第3話「森七菜回」では、とある高校の人気者・七菜(森七菜)が“モテる女性は悲劇のヒロイン”だと考え、そうなるべく彼女が奮闘するさまに、存在感のない幼なじみ・山里が翻弄されることになった。

 こう改めて記述してみると、どのストーリーも大きくシチュエーションが異なることが分かるだろう。いずれも実在する女優がモデルの“妄想ストーリー”とあって、各話でヒロインを務める彼女たちが演じるのは、いわゆる“当て書き”されたキャラクター。つまりはすべて、適材が適所に配された“ハマり役”なのだ。華やかさを放つ彼女たちの躍動感は、そのままドラマの盛り上がりとイコールで結ばれているものといえるはずである。

 その彼女たちの活躍を受け止めているのが、主演を務める仲野だ。各話ごとに変わるヒロインたちに対する彼の立ち位置の違いは、本作の面白さのひとつ。現段階で高校生から医者にまで柔軟に扮しては、ときに彼女たちの言動に右往左往し、ときに導くような働きを見せている。主演映画『生きちゃった』が公開中であり、出演中のドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)の放送も開始したばかりの仲野だが、本作が民放ドラマ初主演だというのはかなり意外。同時期にこれらに触れることで、やはり彼が優れたプレイヤーであることが実感できるだろう。

 そんな本作の演出を担当しているのが、新作『私をくいとめて』の公開が待ち遠しい大九明子、間もなく『ジオラマボーイ・パノラマガール』が封切られる瀬田なつき、『少女邂逅』(2018年)で世間を驚かせ、ドラマ、MVでもその才能を開花させる枝優花、『キスカム! COME ON, KISS ME AGAIN!』の松本花奈ら、注目を集める映画監督陣。全員女性である。これまでに放送された、シチュエーションもタッチも異なる3つのエピソードはどれも楽しいものだった。ついつい笑いがこみ上げてきたり、キュンと切ない気持ちになったり。しかし視聴後に、何かモヤモヤとしたものが残る。これは何だろう?

 振り返ってみると、「中条あやみ回」は視点を転換させることによって、“美女を振る”ということに興奮を覚える女性蔑視的な男の浅ましさが透けて見えたし、「芳根京子回」はヒロインが“勇者≒アイドル”として祭り上げられ、アイデンティティの所在に悩む姿が見て取れた。「森七菜回」は、主人公がヒロインに振り回されているのではなく、“さえない僕”にとって都合の良い幼なじみがヒロイン(=悲劇のヒロイン)だというものに思えるのである。

 本作はユーモラスな物語や演出で、表向きはコメディタッチのノリではあるが、女性を「消費するモノ」視している感じはどうにも否めない。これがモヤモヤしてしまう理由なのだろう。表向きが愉快な仕上がりの作品なだけに、主人公の言動はより滑稽で、女性たちの振る舞いがそれを批評的に浮き彫りにしているように思える。あくまで楽しい“妄想ドラマ”でありながら、もう一歩踏み込み、結果的に楽しい“妄想ドラマ”にとどまっていない。ここに、いま読み取るべきメッセージがそっと込められているのではないだろうか。

 第4話は「飯豊まりえ回」で、演出を務めるのは枝監督。そして、大九監督と瀬田監督の担当回はまだこれから。果たして何をしかけてくるのか。“愉快”を超えた“痛快”なものが、そこには待っていそうだ。きちんとモヤモヤしたいものである。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■放送情報
ドラマ24 第60弾特別企画『あのコの夢を見たんです。』
テレビ東京ほかにて、毎週金曜深夜0:12〜放送
※テレビ大阪のみ、翌週月曜深夜0:12〜放送
原作:『山里亮太短編妄想小説集 あのコの夢を見たんです。』(東京ニュース通信社)
出演:仲野太賀、中条あやみ、芳根京子、森七菜、飯豊まりえ、大原櫻子、山本舞香、大友花恋、白石聖、鞘師里保、池田エライザ
監督:大九明子、瀬田なつき、枝優花、松本花奈
脚本:政池洋祐、マンボウやしろ、三浦希紗、野村有志
脚本監修:山里亮太(南海キャンディーズ)
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:倉地雄大(テレビ東京)、和田圭介(スタジオブルー)、瀬島翔(スタジオブルー)
制作:テレビ東京、スタジオブルー
製作著作:「あのコの夢を見たんです。」製作委員会
(c)「あのコの夢を見たんです。」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/anoyume/
公式Twitter:@tx_anoyume
公式Instagram:@tx_anokonoyume