ディーン・フジオカが目指す、理想のダークヒーロー像 『危険なビーナス』をいま描く意義は?
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日曜劇場『危険なビーナス』(TBS系)が10月11日より、ついにスタートした。ベストセラー作家・東野圭吾の同名小説を原作に繰り広げるラブサスペンスだ。初回では、獣医の手島伯朗(妻夫木聡)が、「弟の妻」を名乗る謎の美女・矢神楓(吉高由里子)と共に、名家・矢神家の遺産をめぐる謎に巻き込まれていく姿が描かれ、平均世帯視聴率14.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、2桁好発進を記録した。
弟の失踪から始まり、疑惑の遺産、過去に起こった事件の真相、そして楓の正体……謎が謎を呼ぶ展開が、豪華キャスト陣によって紡がれていく。なかでも、主人公・伯朗にとって天敵とも言える矢神家の養子・矢神勇磨を演じるディーン・フジオカの存在が光る。「負け犬」など事あるごとに伯朗を見下し、嫌味を言って挑発。さらに、伯朗の弟・明人(染谷将太)の妻であることを知りながら、楓にアプローチする強気な姿勢も伯朗の心を一層やきもきさせるのだ。
そこで今回は、本作きってのヒール役に徹しているディーン・フジオカにインタビュー。勇磨というキャラクターへの思い、共演者たちとの裏話、そして原作物を演じる上で念頭に置いていることについて聞いた。
勇磨を様式美あるダークヒーローに
――今回、矢神勇磨という役を、どんな思いで演じていらっしゃいますか?
ディーン・フジオカ(以下、ディーン):そうですね。ひと言で言うと“悪いやつだな“って思います(笑)。矢神家の莫大な遺産を欲してる人間たちの1人であり、自分の目的を達成するためには手段を選ばないキャラクターなので。普段、社会人として生きていたら、「負け犬!」とか絶対言わないじゃないですか。でも、勇磨っていう役としてカメラの前でやると「いい演技だったよ」と言ってもられるっていうのは最高ですよね。悪役の魅力だなって思います。
――“悪いやつ“なキャラクターは、演じていて楽しいですか?
ディーン:どうでしょうね、悪役といってもいろいろありますから。自分が嫌悪感を持つような言動を取るキャラクターだと、やっぱり気持ちのいいものではないですけれど、勇磨ぐらいの度合いだとすごくちょうどいいですね。原作を読んだ方はわかるかもしれませんが、彼の威圧的な態度には相応の背景があるわけで。「実は悪いやつじゃない」とは言いませんが、誰も信じられないから自分で道を切り開いていくみたいな生き方をしてきたので、腑に落ちるというか。だからこそ、前半は伯朗にとって大きな壁であることを意識していますし、威圧的であるほど伯朗にとっての挑む姿勢みたいなものがより引き立つ。作品全体にとっても貢献できるんじゃないかと思います。
――勇磨はヒールでありながらも、「人を魅了する悪魔的なキャラクター」と、プロデューサーさんの言葉がありました。演じる上で、意識されている部分はありますか?
ディーン:見ていてただ鬱陶しい悪役にはならないように、様式美みたいなものは意識しています。ただの粗暴な人間ではなく、そこはダークヒーローのように一本筋の通った、勇磨なりの美学みたいなものを持たせたいな、と。例えば、セリフの間の取り方、立っているときの姿勢、髪型や身につけているもの……外見を整えることで勇磨っていうキャラクターの説得力が増す作り方をしています。そこは、自分1人だけではなく、監督やスタッフのみなさんと一緒に「勇磨だったらこうだよね」って日々研究している感じですね。
緊張感ある本編とは異なる温かな現場
――伯朗役の妻夫木聡さんとの共演はいかがですか?
ディーン:ブッキーとは同い年でもあり、彼も日本を飛び出して仕事をしてきたっていうのもあり、バックグラウンドのところですごく近いものがあるなっていうのを感じています。自分が観てきた景色と近いものを共有できるというのは、すごく嬉しいです。とはいえ、特に規模の大きな話をしているわけではなく、「あそこの国のどこどこ行った?」とか「何食べた?」みたいな身内ネタというかピンポイントな話が中心ですね。
――吉高由里子さんとはいかがですか?
ディーン:初日からすごく気さくに話しかけてくれました。実は以前から共通の知り合いがいるので、他の現場で会った時には挨拶したり、電話で話したことはあったんです。この前も、おすすめのお寿司屋さんの予約を取ってもらったんですが、「吉高です」って、さも自分が“吉高“かのように店に入って寿司を食べてきたっていう(笑)。あ、もちろん自分で払いましたけど! その恩もあるので、忙しい時期が落ち着いたら、今度は自分が予約をしてゆりちゃんを連れて行きたいなと思っています。
――妻夫木さんを「ブッキー」、吉高さんを「ゆりちゃん」と呼んでいらっしゃるんですね。逆におふたりからは、なんと呼ばれているのでしょうか?
ディーン:ブッキーは「ディーンくん」とか「ディーン」みたいな感じ。ゆりちゃんは、なんて言ってたかな? 「おディーン」とか「おディーンさん」とか? それぞれ変わるのね、タイミングによって呼び方が(笑)。そういう感じで、みんな明るく楽しくやっています。
今このチームで描く面白さを味わってほしい
――東野圭吾さん作品には初出演ということで。これまで『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)や『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』(フジテレビ系)など、多くの名作を基にした作品にも出演されていらっしゃいますが、原作がある作品に出演するときに意識されていることはありますか?
ディーン:これはポジティブにとらえていただきたいんですが、原作があるものって、原作が一番面白いと思っているんです。なぜかというと、小説なら小説、漫画なら漫画……と、それぞれ原作の表現方法、そのプラットフォームとして使っているメディアに特化した形状に最適化されてるもので作られているから。それをドラマという別のプラットフォームに持っていこうってなった場合、なかなか原作の魅力を超えることって難しいと思うんですね。とはいえ、今回のようにライブアクションというか人間が出てくるものになる意味は必ずあるわけで。そこをすごく意識しますね。やっぱりゼロイチを生み出した方の思いってものは、真っ当したいっていうか。矢神勇磨っていうキャラクターの原作にある存在意義や魅力を損なわない形で届けられたらいいなって思います。
――ミステリー要素がある原作物だと、結末を知りたいような知りたくないような……という方もいらっしゃると思いますが、今回は小説を事前に読んだほうが楽しめますか?
ディーン:個人的にはそうだと思います。原作を楽しんだ上で、さらに答え合わせのような感覚でドラマを見てほしいですね。この原作を、どういうふうに演出したのか、この人がこのキャラクターを演じるとこのセリフがこんな感じになるのか……みたいに見ていく面白さが、むしろ原作があるからこそできると思っていて。ネタバレしていたとしても面白いものは、面白いじゃないですか。だって、例えばシェイクスピアの舞台作品だって、何百年も前から世界中で何回も何回も上演されているわけで、日本でだって歴史上の出来事をモチーフにしたドラマや映画が何回も何回も作られている。みんな結末も答えも知っていていわばネタバレしてるのに、それでも見たくなるのは、その時代時代で演出している人が違う、演じている人が違うから。今このタイミングで、このチームで描くというところに、拍手が湧き起こるし、感動が生まれると思うので、今回もそんな面白さを味わってほしいと思います。
――なるほど。そうした意味では、今回『モンテ・クリスト伯』に続いて脚本家・黒岩勉さんとのタッグにも注目ですね。
ディーン:そうですね、黒岩さんがやっぱりすごいんですよ。誰が演じるかとか、誰が演出するかっていうのも、もちろん大きいんですけど脚本というものはドラマの骨組みですし、そこでやっぱり映像化する意義みたいなものが決まってくると思うんです。だから、黒岩さんがこういう謎を引っ張りながら、視聴者を引き込んでいくっていうことが素晴らしく上手なのは、自分も前回プロジェクトをご一緒させていただいたときにすごく感じていたので。また、こういう形でお仕事をご一緒させてもらえるのはすごく光栄ですね。
――原作よりも勇磨のセリフが長くて大変そうだった、という声も聞こえてきましたが。
ディーン・フジオカ:あはは。きっと黒岩さんが、それだけ勇磨っていうキャラクターを、ドラマの中で愛を持って作ってくれているんだっていうのを感じました。「セリフが長い」とか、そういうちょっとした愚痴は、まあギャグみたいなもので。もともと何ページもあるセリフを覚えていくのは得意……いや得意って言うとそういうの増えそうだから、苦手じゃないって言っておこう(笑)。これまでも10ページあるセリフとかもやってきたことがあるので、そのあたりは本当に苦手じゃないんですけれど。ただ今回は別の仕事の都合で身体を絞っていたこともあり、糖不足だったのか少し苦労してしまったんですよ。そしたら今度はちょっと痩せ過ぎちゃったので、ほっぺた膨らませていこうかな、なんて(笑)。
――今回演じられるのも名家の一族ですし、高貴なイメージが定着している印象ですが、実際のディーン・フジオカさんはいかがなのでしょうか?
ディーン・フジオカ:もう泥まみれ、汗まみれの人生ですよ、本当に! だから“役を演じる“って、すごいことだなって思いますよね。だって、日本で1番最初にやった仕事なんて、かなりエグい殺人逃亡犯のキャラクターだったんですよ。当時のマネージャーから「日本での仕事はこれで最初で最後になるかもしれません」なんて言われて。“おいおい、そんな仕事持ってくるなよ“とも思いましたけど(笑)。でも、そういうスタートだったにも関わらず、先ほどおっしゃってくださったようなイメージを持っていただけたということは、パブリックフィギュアみたいな形で愛してもらえるキャラクターをたくさん演じさせていただけた証拠だと思うんですね。そこが本当に役者冥利というか。だから、これからも高貴なキャラクターが求められたときはやっぱりマナーというか品がある形で演じるべきだと思うし、また泥まみれ汗まみれ血まみれな役がきたときにはもうぐちゃぐちゃになって。これからも一生懸命、役者人生を生きていきたいですね。
■放送情報
日曜劇場『危険なビーナス』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、吉高由里子、ディーン・フジオカ、染谷将太、中村アン、堀田真由、結木滉星、福田麻貴(3時のヒロイン)、R-指定(Creepy Nuts)、麻生祐未、坂井真紀、安蘭けい、田口浩正、池内万作、栗原英雄、斉藤由貴、戸田恵子、小日向文世
原作:東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)
脚本:黒岩勉
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ)、高丸雅隆(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
演出:佐藤祐市、河野圭太
製作:共同テレビ、TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kikenna_venus/
(c)TBS