炭治郎たちは煉獄さんから何を受け取ったのか? 『鬼滅の刃』炎柱の熱く燃える生き様
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煉獄さん! 煉獄さん! 煉獄さん!ーーいま全国各地で『鬼滅の刃』の主要キャラクターのひとり、煉獄杏寿郎を崇める声が上がっているようだ。それはもちろん、公開中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の“もうひとりの主人公”が、彼だからである。ここでは彼への敬愛の念を込めて“煉獄さん”と呼ばせていただき、原作マンガにおける彼の活躍を振り返ってみたい。煉獄さんは炭治郎たちに、いったい何を与えたのだろうか?
※本稿は、原作マンガを丁寧にアニメーション化した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の結末にも触れるかたちとなっているため、「劇場版」未見の方は要注意。
煉獄さんといえば言わずもがな、鬼殺隊最強の剣士のひとり「炎柱」だ。彼が初登場したのは、炭治郎がはじめて“お館様”のいる産屋敷家に足を踏み入れることとなった、柱合裁判でのこと。まず煉獄さんの姿を目にし、その言動を追っていて、鬼殺隊でもっとも“ゴーカイな剣士”であるという印象を持った。これは多くの方が同じだと思うし、その後の『鬼滅の刃』の展開をたどっていっても変わらない。問答無用で炭治郎と禰豆子の斬首を望む彼には人間らしさが欠けているようにも思えたが、隊士たちは誰も彼もがそれぞれに重い十字架を背負っている存在。「柱」ともなればなおさらである。ただ、ここでの彼の態度や発言には、“悪意”や“怒り”、“憎しみ”というものが感じられなかった。彼は純粋に隊律を守ろうとしただけなのだ。風変わりではあるものの、“話せば分かる”人なのだということは後ほど判明する。
圧倒的な力、驚異的なスピード、練り上げられた闘気をまとう煉獄さんは、怒りや憎しみの感情を鬼狩りの原動力としてはいない。というのも彼は、代々「炎柱」を輩出してきた煉獄家の出身者。つまり彼は、“ただ強くなるため”にのみ鍛錬を積み、それに実力がともなってきたというのだ。主人公・炭治郎の鬼狩りと鍛錬の原動力は、家族を殺されたことに対する復讐心というより、鬼化した妹を人間に戻すため。煉獄さんの原動力は、どちらかといえばこの炭治郎のものに近いといえるだろう。ほかの者たちのように、身近な者を奪われたことから生まれる闘志ではなく、ただ強くなりたいという、純度の高い闘志なのである。これは、「強き者は弱い者を守らなければならない」という彼の使命感からきている。
そんな煉獄さんは「炎柱」とあって、とうぜんながら「炎の呼吸」をつかう。つまり、“炎タイプ”のキャラクターだ。炎を能力として扱うキャラクターがいつだって強いのは、多くの方が知るところ。“メラメラの実の能力者”である『ONE PIECE』のエースが真っ先に浮かぶだろうし、『鬼滅の刃』が掲載されていた「週刊少年ジャンプ」の連載作品でいえば、『僕のヒーローアカデミア』の轟焦凍/ショート、個人的には『シャーマンキング』のハオの存在などが思い入れ深い。炎(=火)は私たち読者の生活と隣り合わせで、その汎用性の高さと強さを、誰もが身をもって知っていることだろう。そこで生じるのは、能力の強大さに対するリアリティだ。
そのような生まれ持った才能に恵まれながら、鍛錬を怠らなかったのが煉獄さんという人。無限列車にて、肉体はもちろん精神的にも疲弊状態にあるなか上弦ノ参・猗窩座に致命傷を負わされ、早くに命を落としてしまった彼だが、その後の展開のなかで「煉獄さんがいてくれたら……」と思ったのは筆者だけではないはず。それも何度もだ。出番こそ多いとは言えなかったものの、彼の強さは鮮烈に刻まれた。“武闘派”としてより強さを求める猗窩座さえも、その強さを認めていたほどだ。猗窩座は煉獄さんのことを「至高の領域に近い」とも評した。その激しい戦闘描写もさることながら、身内ではなく、敵対する者に称賛の声をかけられるというのは強き者の証である。それを炭治郎たちは目の当たりにし、煉獄さんは彼らにその背中で語ったのだ。
もちろん煉獄さんといえば、強き者の背中だけでなく、実際に言葉でも語っている。彼が遺した名言は数多くあるのだ。圧倒的な力を持ちながら、「強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない」と彼は口にしている。やがて朽ちる人間を蔑んだ猗窩座に対し、「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ」と返した煉獄さんのこの言葉からは、彼の背後に控える若き炭治郎たちに向けての「だから、生きろ」というメッセージだとも思えた。この“人間愛”を謳ったセリフは私たちの胸にも刺さった。「心を燃やせ」ーー生きなければならないのだ、と。
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の入場者特典で配布されている『煉獄零巻』は、特別読み切りの描き下ろし作品として、煉獄さんが駆け出しの頃の、初任務に挑む様子が描かれている。煉獄家のことをより知るためにも必読の書だ。そして何より新米隊士でありながら、やがてその名を轟かせることになるであろう、その片鱗が見て取れる。彼の根底にあるのが人間愛であることも分かるはずだ。炭治郎たちは彼から何を受け取ったのだろうか? 煉獄さんはその生き様を示すことで、炭治郎の“折れない心”にさらに大きな火を着けた。それはまた私たちも同じなのではないだろうか。心を燃やさねばならない。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter