『ハイキュー!!』及川と影山はライバルを越えた関係へ ふたりの終わらない戦い
音楽
ニュース
高校生たちの手に汗握るバレーボールの試合展開だけではなく、それぞれの友情やライバル関係にも胸が熱くなる『ハイキュー!!』。
「俺は一生及川さんに勝てないのかもしれない」
影山が弱気な言葉を発するシーンは数えるほどしかない。それは決まって及川徹に関してのように思う。影山が王様なら及川は大王様だと日向は言ったが、実のところ及川も迫ってくる圧倒的才能の持ち主である影山に追い詰められていた時期があった。
影山にとっての「最強の相手」
影山と及川の出会いは中学のとき。
「3年生にすごいサーブ打つ人がいる」
「トスもうまい でも教えてくれない」
そう楽しそうに祖父・一与に語る影山少年。そんな影山に一与も笑顔で言う。
「そりゃあお前、チームメイトと言えどライバルだからな」
一与の言葉に影山は「ライバル…!」と目を輝かせた。屈託を抱えず、無邪気に強くなりたい、うまくなりたいと思っていた影山。一方で及川は影山の存在に焦りを感じていた。さらにスランプ中に、影山の才能の片りんを目の当たりにして苛立ちを募らせた。サーブを教えてくれと頼む影山に、及川は余裕のない姿を見せるが、それを止めたのが岩泉だった。もし岩泉がいなかったら、それ以後の影山と及川の関係は悪い方向に変わっていただろう。
その後、影山は壁にぶつかり、自信をなくして烏野高校に進学。及川率いる青葉城西高校との初の公式戦。及川が県内イチのセッターであると分かって臨んだはずだったが、対戦したことで改めて、凄さを体感し、自分にないものを持っているということに気がついたのではないだろうか。
影山の才能を認めた上で強くなっていく及川
影山が天才だとしたら、及川は努力の人だ。及川の方もどこかで影山には敵わないという気持ちがあったのではないか。及川が成長するなかで、なかなか認めようとしなかった影山の才能を認めることができるようになった。しかし、だからと言って及川はヤケになったり諦めたりはしない。
「急速に進化する飛雄に負けるかもしれない でもそれは今日じゃない」
烏野高校と青葉城西高校初の公式戦での及川の言葉だ。まだ追いつかせない。俺もお前も、もっと強くなれるはずだ、と言っているかのよう。高校3年生となった及川は影山が強くなることを心のどこかで楽しみにしていたのではないだろうか。
「俺今んトコ及川さんより怖いモンないんで」
影山は影山で自分より強い相手、自分にないものを持っている相手である及川を怖いと思いながらも、いつか倒す、及川さんより強くなってみせる、という前向きな気持ちを持っている。強くなる“原動力”にも、また2人の個性が現れている。
影山の「怖いモン」はなくなったのか
インターハイでの敗退後、日向が「自分の意思でスパイクが打てるようになりたい」と言い出す。影山は「お前の意思は必要ない」ときっぱり言い切るが日向との衝突で迷いが生じ、そこで影山が相談を持ちかけたのは及川だった。及川は「嫌だね! バーカバーカ!」と小学生並みのリアクションを取りつつも、冷静に真実をつきつける。
「勘違いするな 攻撃の主導権を握っているのはお前じゃなくチビちゃんだ」
「それを理解できないならお前は独裁の王様に逆戻りだね」
これが変人速攻の飛躍につながるわけだが、それ以後、影山が及川に相談を持ち掛けることはない。ライバルチームの主将なわけだから当然のことかもしれないが、精神面で及川から卒業していったことを表しているのではないだろうか。
影山の土台の一部を作ったのは間違いなく及川だ。だが、より強い相手と戦うことで身につけていく自信、そして自分の実力だけではなくチームとしても強くなり、また進化を遂げる。進化を続けるうち、いつしか影山にとって及川は「怖いモン」から「もっと戦いたい相手」となったのではないだろうか。
及川のバレーボール人生においても影山は「凹ましたい相手」であり、重要な存在だ。「凹ましたい」というのは、憎いというわけではない。“俺が”凹ましてやるから強くいろよ、という本音も垣間見える。
春高予選から何度戦いを重ねたのだろうか、2人はオリンピックという最高の舞台で再び同じコートに立つ。及川が影山を直接讃える日は来るのだろうか。影山にとっては、日向と同じだけ、いやそれ以上に長く戦い続けなければならない相手……それが及川なのかもしれない。
(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))
■書籍情報
『ハイキュー!!』(ジャンプ・コミックス)既刊44巻
著者:古舘春一
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/haikyu.html