中村アン、堀田真由らが物語をけん引 『危険なビーナス』妻夫木聡と7人の女優たち
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毎週ラストで誰かが階段から落ちる、危険すぎるラブサスペンス『危険なビーナス』(TBS系)。牧雄(池内万作)に続いて楓(吉高由里子)も階段から突き落とされてしまい、30億の行方は混沌としてきた。
幸い楓は軽傷。伯朗(妻夫木聡)は楓とともに、楓を襲った犯人を探す。消去法で謎解きをする伯朗と楓に既視感を感じつつ、第3話にサブタイトルを付けるなら、さしずめ「手島伯朗と7人の女たち」と言ったところだろうか。明人(染谷将太)は失踪、現当主の康治(栗原英雄)は寝たきりになり、牧雄は意識不明と、男性陣が次々と災難に見舞われる『危険なビーナス』で、物語を引っ張っているのは魅力的な女性キャストたちだ。
階段で押されたとき、鼻腔をくすぐった匂い。楓は記憶を頼りに目ぼしい人々を訪ねる。最初に向かったのは波恵(戸田恵子)と祥子(安蘭けい)。ハグしてクンクン匂いを嗅ぐ楓はまるで警察犬のようだ。楓の仕草はどこか動物っぽく、初対面の伯朗が楓に信用されたのは伯朗が獣医だからかもしれない。伯朗にからむ楓の様子もじゃれつくという言葉がしっくりくる。波恵と祥子はシロ。かえって、2人から明人との関係を疑われてしまう。短い時間で、じっとりとした名家の圧を感じさせるベテラン女優の存在感だった。
次に近づいたのは屋敷にいる看護師の杏梨(福田麻貴)。杏梨の名前を聞いて首を傾げた伯朗は「あー、微妙に色気のある人」と視聴者の感想を代弁する。伯朗がピンと来ないのもある意味当然で、杏梨を演じる福田は、お笑いトリオ「3時のヒロイン」のツッコミ担当。女優としても活動しており、『いいね!光源氏くん』(NHK総合)に続く2作目のドラマ出演となる。杏梨からは楓が嗅いだものと同じシャンプーの匂いが。しかし、杏梨にはアリバイがあった。
「いつやるの」(楓)、「今でしょ」(伯朗)、「古い」(楓)と、弟の嫁に終始カマをかけられっぱなしの伯朗をなかば動物扱いしているのが、元美(中村アン)だ。元美は、楓に「お義兄様の扱いにはくれぐれもご注意ください」と意味深なメッセージを送る。伯朗が百合華(堀田真由)と会うと知って「刺されたりしないでくださいね。掃除が大変なので」と真顔で口にする元美は、鋭すぎる女の勘と乾いたユーモアの持ち主だ。
元美もシロということで、残る有力な候補は祥子の娘の百合華。百合華は、明人とは従兄弟どうしで、勇磨(ディーン・フジオカ)によれば、ブックデザイナーの百合華は明人に恋心を抱いていた。勇磨のとりなしで、伯朗と楓は、百合華の友人の春乃(大和田南那)と恵麻(中村里帆)から話を聞くことに。明人に対する本音を聞いて「女性不信になりそう」とため息をつき、「この目で見て、直接話せばなんとかなるよ」と主張する伯朗。回を追うごとに伯朗がのび太と重なってくる。
おなじみになりつつある伯朗の妄想シーン。1・2話で楓と元美に発動していたが、第3話では不発(軽くあしわられる)。今回はないと思わせたところで、「わかっちゃいました? 私が犯人だって」と百合華がグサリ。意識が遠のく伯朗を元美が抱きかかえる。「起きるはずがない、とはかぎらない。だが……」と現実に戻るところまでが1セット。愛憎渦巻くサスペンスに突如降臨するゆるーい時間に、最初はどう受け止めればいいか戸惑ったが、良い意味でドロドロ感を緩和しているようだ。もしかすると、視聴者を油断させるトリックかもしれないが……。
第1話で楓を閉じ込めるよう仕向けたのは、嫉妬に駆られた百合華の所行だったが、楓を突き落としたのは百合華ではなかった。楓、元美、波恵、祥子、杏梨、百合華と来て、伏兵“第7の女”が姿を現す。ドラマオリジナルのエピソードを容赦なく投入する脚本の黒岩勉。縦横無尽に伏線を敷きながら、ラストで「母が行方不明なんです」(百合華)と予測不能の展開に導く筆さばきに、さすがプロの仕事と感嘆した。楓を見て「あざとい女」「僕のほうがうまい」と悦に浸っている伯朗は、ぜひ氏を見習ってほしい。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
日曜劇場『危険なビーナス』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、吉高由里子、ディーン・フジオカ、染谷将太、中村アン、堀田真由、結木滉星、福田麻貴(3時のヒロイン)、R-指定(Creepy Nuts)、麻生祐未、坂井真紀、安蘭けい、田口浩正、池内万作、栗原英雄、斉藤由貴、戸田恵子、小日向文世
原作:東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)
脚本:黒岩勉
プロデューサー:橋本芙美(共同テレビ)、高丸雅隆(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
演出:佐藤祐市、河野圭太
製作:共同テレビ、TBS
(c)TBS