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MORISAKI WIN、笠原瑠斗、aimi、黒川沙良……追い風吹かせるジャパニーズR&B 現在の楽曲傾向を探る

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リアルサウンド

 甘美な世界観やテクニカルな歌唱を通して、日本の音楽シーンに上品な余韻をもたらし続けているR&B。ここ数年だけでもSIRUPやRIRI、そして目下大ブレイク中の藤井風といった面々が注目を浴びてきたが、R&Bそのもののブームが醸成されているとまでは言い難く、かつてに比べると勢いが落ち着いてしまったように感じる人もいるかもしれない。しかしながら、それはいささかの誤解である。2020年は2020年で、ストリーミング時代の波に乗った有望な若手たちが、界隈に追い風を吹かせんとばかりに健闘を続けているのだ。これより紹介するアーティストたちは、まさしくその筆頭とも言える存在。ジャパニーズR&Bの今現在の傾向とともに、彼らの尊い魅力を知るきっかけになれば幸いだ。

笠原瑠斗、FREAK……日本各地で頭をもたげるR&Bの精鋭

 まず声を大にして言いたいのは、地方を拠点にするアーティストの活躍が目覚ましいということ。たとえば、北海道から渾身の歌声を届ける笠原瑠斗。黒人音楽に憧れてニューヨークへ留学した経験を持ち、レイドバックを生かしたリズム感や繊細なニュアンス取りなどのあらゆるテクニックを大胆に操る24歳の秀才である。2年ぶりとなったEP作品『are you down tonight』では、ネオソウル由来の甘苦いメロディだけでなく、彼の人柄が反映された誠実な恋愛詞も一層の洗練を遂げ、シンガーソングライターとして大きく成長。おまけに泉 亮、EIMAYら同郷の先輩二名と結成したボーカルユニット・MOLでも持ち前のダイナミズムを遺憾無くふるうなど、数多いるR&Bシンガーの中でも特に目が離せない一人である。

are you down tonight /笠原瑠斗(prod.Shingo.S)

 所変わって九州エリアでは、カルテットスタイルのFREAKが勢いを尖らせる。メンバー全員が筋金入りのR&Bマニアとあって、各ソロパートでの所作やハーモニー、さらにはライブでの佇まいに至るまで男臭さと色気が充満するアーリー90’sの趣。近年ではトラック制作までメンバーが手掛け、笠原と同様にロマンティックな情景演出に徹底してこだわっている点からも、彼らの揺るぎないR&B愛が窺い知れるだろう。11月には、久々となる楽曲集『4-5-6』を発表予定。オルタナティブR&B以降のスモーキーな意匠に富んだ先行曲「Mysterious Girlfriend」で、まずは彼らのスリリングな応酬の洗礼を浴びるべし。

FREAK『4-5-6』

力強さに満ちた女性シンガーたち

 品行方正にR&Bと向き合う男性シンガーが好事家をうならせる一方で、女性陣も負けてはいない。1st EP『Water Me』をリリースしてまだ間もないチルR&Bの新鋭、aimi。H.E.R.やジェネイ・アイコなどとの同時代性をアピールする静謐なトラックがメインだが、あちらこちらでアコースティックの感触が見え隠れし、うねりを効かせた歌唱も相まって絶妙な夢見心地を生んでいる。ジャパニーズR&Bを20年以上に渡って支えるShingo.Sのトータルプロデュースも、その繊細なバランスに一役買った格好だ(なお、先述した笠原瑠斗の『are you down tonight』も彼の采配によるもの)。

aimi – Sorry(Moving Jacket)

 グラミー賞ノミネートプロデューサーであるStarRoとも制作を交わすSARA-Jは、艶っぽいハスキーボイスとダウナーなサウンドを駆使した、現行R&Bにほど近い音楽性がトレードマーク。日本語特有のインパクトに興じたリリックも遊び心満点で、〈お薬ちょうだい〉(Moya Moya Party)〈AHDHな私を受け止めてほしいよ〉(ADHD)など、苦悶を含んだサイケデリックなキラーフレーズが容赦なく飛び出す。ショック療法にも通ずる、良い意味で”痛覚にしみるR&B”と位置付けたい。

Moya Moya Party

 女性シンガーが境遇や価値観について毅然と発信する流れは、多様化が進む現代ならではの特徴でもあるかもしれない。黒川沙良が今年リリースした楽曲「ブリコー」は、都合が良い女の域を出られない主人公が相手と決別し、ひとりでたくましく歩き出す姿をメロウかつ瑞々しいアプローチで活写。また、ゴスペルがルーツのFurui Rihoは最新曲「I’m free」で自分らしい生き方を高らかに提唱し、”ありのままの壁”に悩む人々へ爽やかなエールを贈る。両者とも、センシティブなメッセージを凛とした歌声で束ね上げていることから、身体を駆け巡る感銘の熱量も一入である。

ブリコー / 黒川沙良
Furui Riho – I’m free (Music Video)

プラスアルファの魅力を掲げる個性派も

 比較的オーセンティックなタイプの歌い手たちを紹介したところで、ここからはジャパニーズR&Bを取り巻く様々な個性に目を向けてみよう。三浦大知やw-inds.、Da-iCEといった先進的なサウンドを乗りこなすダンス系ボーカリストの新たなホープが、元PRIZMAXのMORISAKI WIN。世界進出を視野に入れたソロ初のEP『PARADE』では、コンテンポラリーR&Bからダンスポップ、さらにはジャミロクワイを彷彿とさせる華麗なアシッドジャズまで幅広くトライ。爽快感を運ぶハイトーンボイスや俊敏でスター性のある身のこなしは、あのマイケル・ジャクソンの影もすんなりと浮かび上がらせる。

MORISAKI WIN (森崎ウィン) /「WonderLand」(Official Music Video)

 今年2月にデビューを果たしたAyumu Imazuも、歌って踊れてさらには楽曲制作も堪能なオールラウンダーとして隅に置けない存在。あどけなさが残るボーカルからは想像できないほどブラックミュージックのセンスが卓越しており、発表済みの楽曲の中にはニュージャックスウィングの煌めきを敷き詰めたスウィートなミドルも。最新曲にあたる高速ファンク「Light Up」は安室奈美恵やDOUBLEらを手掛けた今井了介がプロデュースを担うなど、業界内でもすでにその実力を知らしめつつある様子。

Light Up – Ayumu Imazu 【Music Video】

 日に日に規模が拡大しつつあるオルタナティブ・ポップスの旗手として推薦したいのはSPENSR。LUCKY TAPESをはじめとする都会派バンドとも遠からず呼応する彼の音楽は、時間をかけて滲んでいく独特の陰りが大きな持ち味となっており、哀愁を重んじるJ-POPとの親和性も高い。気だるいシンセ&ボーカルの妙「愛なんて」、ジャジーなサウンドに心酔必至の「LIPS」など、クリエイティブな自作自演にしか出せない俗っぽい魅力はジャパニーズR&Bのさらなる発展さえ予感させる。

SPENSR – 愛なんて(Ai Nante) [Official Video]
LIPS

 そして、若者カルチャーと密接に関わりながらステップアップを続けているアーティストが2名。LINE RECORDS擁するKAHOHは、JK(女子高生)とのガールズトークをもとに楽曲を制作するなど、同世代の代弁者的キャリアを邁進中。チャーミングなボーカルは意外にも腕っ節があり、なかでも好きな男性にサインを送る一途な女子像を閉じ込めたミドル「CHERRY」では、R&Bファン垂涎のエモーショナルな快唱を聴かせる。

CHERRY
KAHOH – Summer Time feat. KENYA (OFFICIAL VIDEO)

 他方、空音やkojikojiといったSNS世代に人気なアーティストとのコラボレーションを経て、ティーンからも熱い眼差しを向けられているのが神戸出身の男性シンガーTio。オートチューン加工された体温低めのボーカル、浮遊感のあるトラップサウンドと、ヒップホップの解釈も内包した今様の構成をやはり今時の若者らしくスマートに演じる。ファッションアイコンとしての側面も持つ新星、sheidAとのデュエット作「Easy & Fine」ではまさにその極致とも言えるミステリアスな所作を披露。先達である清水翔太よろしく、大衆の心をガッツリと掴む日もそう遠くはないかもしれない。

[MV] Tio – Fall
[Official Audio] Tio – Easy & Fine (feat. sheidA)
推奨プレイリスト「J-R&B -New Generation-」

■白原ケンイチ
日本のR&B作品をはじめ、新旧問わず良質な歌ものが大好物の音楽ライター。当該ジャンルを取り上げるサイトの運営、コンピレーションCDのプロデュース、イベント主催の経験などを経て、現在はささやかに音楽ライフを満喫する日々。Twitter